退職給付制度・企業年金・個人年金等の分類と課題
退職給付制度・企業年金・個人年金の分類
厚生労働省による分類(推測)
令和元年の社会保障審議会企業年金・個人年金部会の議論から、厚生労働省では退職給付制度・企業年金・個人年金とは概ね次の制度を指すものと推測されます。
退職給付制度 | 該当制度 | 退職一時金・DB・企業型DC・中退共等 (iDeCoは該当しない) |
特徴 | 企業が従業員のために実施 | |
支給事由 | 「退職」により受給できる制度が多いが、企業型DCについては退職による受給はできない | |
企業年金 | 該当制度 | DB・企業型DC (中退共やiDeCoは該当しない)(注) |
特徴 | 事業主による拠出が基本で、労使合意に基づき決定・運営 | |
任意加入 | 可能(適格退職年金等では不可だったが、後継制度といわれるDB・企業型DCでは可能) | |
加入者による会社拠出額の選択 | 実態として可能となっている模様(適格退職年金等では不可だったが、後継制度といわれるDB・企業型DCでは実態として可能となっている模様) | |
個人年金 | 該当制度 | 国民年金基金・iDeCo |
特徴 | 企業年金に該当しない 加入は任意、拠出(給付)水準も選択可能 |
(注)森戸教授の著書では企業のイニシアチブが必要である年金財形は企業年金に含めています。
貯蓄か年金か
この他、DC創設時には「貯蓄か年金か」の議論がありました。
年金 | DBが該当する理由 | 個人の貯蓄と形態が異なる(下記) ・掛金は拠出時に集団(加入者全体)の資産となる ・資産の運用は集団で行う |
DCが該当する理由 | 形態自体は個人の貯蓄と類似 ・掛金は拠出時に個々の加入者の資産となる ・資産の運用は個々の加入者が行う | |
資産が老後所得となることを担保するための4要件が存在 ① 60歳到達前の中途引出しの原則禁止 ② 受給要件として一定期間以上の加入期間を設定 ③ 一定額を定期的に拠出 (年度途中での拠出額の変更の原則禁止) (前納・後納の禁止) ④ 受給開始後の受給方法変更の原則禁止 |
上記の分類方法の課題
制度の審査基準に係る課題
政府税制調査会の答申では「利用者の視点に立って、簡素で分かりやすい制度にすることが重要」とあります。制度の審査基準では例えば次の点は上記分類ではわかりやすく説明できず、簡素な分類で説明するためには、制度体系の再構築が必要かもしれません。
退職時の受給 | 「退職給付制度」のうち「企業型DC」は退職時に受給できず、「退職」給付という分類から予想される特性がありません。 |
拠出限度額 | 「退職給付制度」のうち「退職一時金」「DB」には拠出限度額や給付上限はなく、「企業型DC」「中退共」には拠出限度額があります。 |
加入者による 加入選択 | 退職給付制度である適格退職年金では加入選択が禁止されていましたが、適格退職年金の後継制度であるDBや企業型DCは個人年金と同様に加入選択が可能となっています。 |
加入者による 会社拠出額の選択 | 退職給付制度の一部では実態として加入者が(会社の)拠出額を選択することを認めており個人年金と類似しています。 |
集団 | DBが貯蓄と異なる理由として「集団」が挙げられているものの、任意加入の制度や掛金の元利合計相当額を給付する制度等、貯蓄と共通の特徴を有するDBもあります。 |
貯蓄か年金かの 4条件 |
制度の分類と課税との関係についての課題
制度の分類と課税との関係では例えば次の点は上記分類ではわかりやすく説明できず、簡素な分類で説明するためには、制度体系または課税ルールの再構築が必要かもしれません。
iDeCoと国民年金基金・NISA・財形年金等 | 企業が拠出していない制度であっても退職所得と認められる制度と認められない制度が混在しており、その根拠が分かりにくくなっています。 |
加入者拠出額に係る所得控除 | 企業年金の加入者拠出額であってもDBは生命保険料控除、企業型DCは小規模企業共済等掛金控除となります。 また個人のみが拠出する制度でもiDeCoは小規模企業共済等掛金控除、個人年金保険は生命保険料控除となります。 |
この他制度の審査基準の課題についても、もしかすると課税の見直しと組み合わせることで解決できるかもしれません(例えば退職時の受給を認める代わりに老齢でない場合は税制優遇相当額を課税する方法や、拠出額や給付額に上限を設けない代わりに一定水準以上の受給額に対し税制優遇相当額を課税する方法等)。