確定拠出年金における給付(老齢・障害・死亡・脱退)と税
【記事公開後の更新情報】
令和2年3月3日に「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」が国会に提出され同年5月29日に成立し6月5日に公布されました(「令和2年確定拠出年金改正法案(年金制度改正法案)の国会提出」参照)。この法律には老齢給付金の受給可能年齢(上限)を75歳に引き上げる改正・65歳以上の厚生年金保険の被保険者が企業型DCに加入することを認める改正・60歳以上の国民年金の被保険者がiDeCoに加入することを認める改正が含まれています。
(改正は赤字で記載)
確定拠出年金の老齢給付金(年金・一時金)
確定拠出年金の目的は高齢期における所得の確保であり、制度の柱となる給付が「老齢給付金」です。
老齢給付金は原則60歳で請求可能
確定拠出年金では老齢給付金の請求が可能となる年齢は原則として60歳です。
ただし、次の場合には60歳到達後も請求できません。
60歳到達後も受給できない場合 | 補足 |
通算加入者等期間が必要期間に満たない場合 | 通算加入者等期間の算出方法や通算加入者等期間が10年未満の場合、下記の受給可能年齢に到達するまで受給できません。 |
加入中である(加入者資格を喪失していない)場合 | 加入中の制度と請求する制度が企業型とiDeCoで分かれている場合には請求できます。 iDeCoでは60歳以降加入できませんが、企業型DCでは制度によっては65歳まで加入できます(※)。 ※iDeCoは国民年金被保険者、企業型DCは厚生年金保険の被保険者(規約で定めた「一定の資格」を満たす者に限る)なら加入できることに【令和4年5月施行】 |
障害給付金を受給できる場合 | 障害給付金は受給時に課税されないため、老齢給付金よりも有利に受給できます。 |
通算加入者等期間とは
個人型DC(iDeCo)又は企業型DCにおいて、加入者又は運用指図者であった期間。退職金や確定給付企業年金等の資産を移換した場合は、移換額に係る勤続(加入)期間も算入します。60歳以降の期間は算入されません。また、加入者でも運用指図者でもない期間は算入されませんので、例えば中途退職後に手続きをせず連合会移換者(自動移換者)となった場合、退職後の期間は通算加入者等期間に算入されていません。
詳しくは「確定拠出年金における通算加入者等期間の通算と加入者期間・通算拠出期間」参照。
通算加入者等期間と請求可能年齢の関係
通算加入者等期間 | 請求できる年齢 |
10年以上 | 60歳 |
8年以上10年未満 | 61歳 |
6年以上8年未満 | 62歳 |
4年以上6年未満 | 63歳 |
2年以上4年未満 | 64歳 |
1月以上2年未満 | 65歳 |
0月 | 加入不可(※) |
※ 通算加入者等期間が0月の者は加入から5年後(最短65歳)に請求可能に【令和4年5月施行】
50歳以上でDCに新たに加入する場合の留意事項
50歳以上でDCに新たに加入する場合、移換額がない限り60歳では老齢給付金を受給できず、加入年齢が60歳に近づくほど受給出来る時期が65歳に近づきます。
これにより、加入者でなくなってから受給できるまでに期間が生じた場合、iDeCoではその期間の事務費を自身が負担することとなりますが、掛金を拠出できない(所得控除によるメリットがない)ため運用益の非課税メリットだけでカバーするのは難しい期間となります。
また企業型企業型DCの場合も、加入者資格喪失後の事務費を本人が負担する制度が半数近くあり、その場合は同様のことがいえます。
50歳何カ月かでで加入した場合には加入中の所得控除のメリットで60歳以降のデメリットをカバーできるかもしれませんが、59歳以上で加入する場合はデメリットをカバーできないケースが多いでしょう。このため50歳以上の場合、iDeCoや加入選択制の企業型DCに加入するかどうかは慎重な判断が必要でしょう。
確定拠出年金における老齢給付金の請求期限
確定拠出年金における老齢給付金の請求期限は70歳まで(※)で、その間に請求しなければ登録している連絡先に一時金支給手続きの連絡があろうかと思います。
※ 75歳に変更【令和4年4月施行】
一時金で受給する場合、請求時期により税額が異なる場合がありますのでご注意下さい(「確定拠出年金の一時金請求時期による退職所得の節税例」参照)。
年金で受給する場合も、受給額や受給期間の選択内容と他の年金の受給額や受給期間等により税額に違いが生じる場合がありますのでご注意ください。
老齢給付金受給時の課税等と有利な受給方法
年金で受給する場合
老齢給付金を年金で受給する場合(「年金の受給方法」参照)は公的年金等控除の対象となる雑所得となります(国税庁サイトタックスアンサーNo.1600「公的年金等の課税関係」参照)。公的年金の受給額が大きい年ほど、DCの年金に対する課税額は大きくなります。
一時金で受給する場合
一時金で受給する場合は退職所得(「確定拠出年金の老齢給付金に係る退職所得控除額と退職所得の収入金額の収入すべき時期」参照)となります。
年金と一時金を組み合わせる場合の課税
年金と一時金を組み合わせた場合、それぞれ上記のとおり課税されます。現在の税制では退職所得控除額の範囲までは一時金で受給したほうが有期年金で受給するよりも有利となるとの意見が聞かれます。これは確定拠出年金の運用利回りが低いことを前提とした意見で、年金受給による課税額や手数料が運用益を上回るケースを想定した意見です。
年金選択者よりも一時金選択者が有利となる状況は確定拠出年金の趣旨からみて望ましいものではありませんが、個人としては決められたルールの中で自身にとって有利な選択をしましょう。
国民健康保険料(税)への影響
国民健康保険の被保険者となっている場合、年金で受給したほうが国民健康保険料[税](及び介護保険料)が高くなることにも注意しましょう(「医療制度改革に向けた健保連の提言と公的保険における企業年金の取扱いの課題」参照)。
年金選択者よりも一時金選択者が有利となる状況は確定拠出年金の趣旨からみて望ましいものではありませんが、個人としては決められたルールの中で自身にとって有利な選択をしましょう。
老齢給付金の受給方法の検討例
老齢給付金の受給方法は60歳到達後に決定することができます。受給開始時期や年金支給期間も考えると、確定拠出年金(一時金・年金)と公的年金その他の年金制度の受給方法の組み合わせは膨大になります。
寿命によって生活水準が左右されにくいようにするには終身年金に厚みが必要です。例えば公的年金の受給開始年齢を最も遅らせた場合に、①公的年金だけで受給開始後の生活が可能な否か、②確定拠出年金やその他の資金で受給開始年齢までの資金(注)が足りるか否か、を試算し、その結果を踏まえて受給方法を設定することも考えられます。
確定拠出年金の障害給付金(年金・一時金)
確定拠出年金の障害給付金は、下記の70歳(※)到達前に①~④のいずれかに該当した場合に非課税で受給できます。加入者となる前に発した傷病も支給の対象となります。
※75歳に変更【令和4年4月施行】
① 障害基礎年金の受給者
② 身体障害者手帳が交付され、1級から3級に該当
③ 療育手帳が交付され、重度の者に該当
④ 精神障害者保健福祉手帳が交付され、1級または2級に該当
確定拠出年金の死亡一時金
確定拠出年金の資産がある者が死亡した場合に遺族が受給でき、みなし相続財産として相続税の対象となります。死亡一時金を受給する遺族の順位は次のとおりです。
(1)一定の範囲内で本人が指定した遺族
次の範囲内から本人が生前に記録関連運営管理機関に指定していた者があれば、その者が請求できます。
② 「a.子、b.父母、c.孫、d.祖父母、e.兄弟姉妹」で同一生計要件を満たす者
③ ②以外の親族で同一生計要件を満たす者
④ 上記a.~e.の者で同一生計要件を満たさない者
(2)法令で定める遺族
(1)の指定がなかった場合は上記①~④の順となります。
②または④の者が複数いる場合、a~eの順位となります。
b、dに養父母と実父母が混在する場合、養父母を優先します。
そのうえで同順位の者が複数いれば等分します。
(3)上記要件を満たす者がいない場合または請求しない場合
(1)(2)により受給できる者がいない場合、または死亡後5年間請求がないときは、死亡した者の相続財産とみなされます。
確定拠出年金の脱退一時金
資産が少額で確定拠出年金の加入者となれない場合等(改正あり)に受給でき(「脱退一時金の受給要件」参照)、一時所得となります。