令和2年確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)改正法(年金制度改正法)の公布と施行日

【記事公開後の更新情報】

令和2年12月23日に公布された「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令」によりDCの脱退一時金の受給要件のうち通算拠出期間要件が「5年」とされたことを反映しました(公的年金の脱退一時金の支給上限年数も「5年」)。

令和2年9月16日に公布された政令により、「公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日」とされていた3号施行日が「令和2年10月1日」に決定したことをうけ、DC法改正の全てについていつから施行されるかが明らかになりました(下表)。

令和2年5月29日にこの法案が成立し6月5日に公布されたことを反映しました(企業年金関連改正の概要や厚生労働省作成のチラシは、厚生労働省サイト「2020年の主な法改正」参照)。

この法案には令和2年5月12日に衆議院で可決された与野党修正案が反映されています。この修正案には同年4月17日に立憲民主・国民・社保・無所属フォーラムが提出した修正案が検討事項として反映されています。

特別法人税の凍結期限を3年間延長する法案が令和2年3月31日に公布されたことを反映しました「特別法人税の凍結期限の令和5年3月末までの3年延長(租税特別措置法の改正)」参照)

年金制度改正法案の閣議決定及び国会提出

令和2年3月3日に「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」(年金制度改正法案)が閣議決定され、同日国会に提出されました厚生労働省サイト「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案の概要 」同「法律案案文」同「法律案新旧対照条文」参照)。この法案では税制改正大綱(閣議決定)や社会保障審議会企業年金・個人年金部会で示された確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)に係る改正案や、社会保障審議会年金部会で示された公的年金改正案が反映されています。
なお特別法人税の凍結期限の3年延長に係る租税特別措置法の改正案(令和2年4月1日施行)は「所得税法等の一部を改正する法律」として3月31日に公布されました。

確定拠出年金法等の改正案

この法律における確定拠出年金の主な改正内容は次のとおりです。

施行日改正内容
令和2年10月1日簡易企業型年金(簡易型DC)の人数要件を100人から300人に緩和
令和2年10月1日中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)の人数要件を100人から300人に緩和
令和3年4月1日脱退一時金の通算拠出期間要件を3年から5年に緩和
※ 政令で規定
令和4年4月1日DCの老齢給付金の請求可能年齢の上限を70歳から75歳に引き上げ
令和4年5月1日企業型DC加入者の「65歳未満」要件を撤廃 
令和4年5月1日企業型DC加入者(60歳以上)の「60歳前から同一企業で継続勤務」要件を撤廃
令和4年5月1日国民年金被保険者であればiDeCoに加入可能に
(60歳以上の第2号被保険者・任意加入被保険者を含む)
令和4年5月1日退職時等に企業型DCから企業年金連合会(通算企業年金)への移換を可能に
令和4年5月1日終了したDBからiDeCo(加入者)への移換を可能に
令和4年5月1日脱退一時金を国民年金の被保険者となれない海外帰国者等も請求可能に
令和4年10月1日企業型DC加入者は規約に規定することなくiDeCoに加入可能に(マッチング拠出を選択した加入者は不可)

 

「併せて検討すべき課題」への対応

当サイトにおける社会保障審議会企業年金・個人年金部会の解説で「併せて検討すべき課題」とした事項のうち法改正が必要と思われる事項についてのこの法案における反映状況は次のとおりです。

併せて検討すべきとした課題法案への反映
マッチング拠出額を事業主掛金以下とする規制の撤廃反映されず
iDeCoから企業年金連合会への移換反映されず
終了したDBから(規約変更なく)企業型DCに移換反映されず
法施行前の海外帰国者にも脱退一時金の請求を認める
(平成29年1月以降の加入者資格喪失者が対象)
請求できるのは法施行前2年内の喪失者のみ
60歳以上で老齢給付金を受給できない者への脱退一時金
(特に国民年金の被保険者でないDCに加入できない者)
反映されず
60歳以降の新規加入(企業型DC・iDeCo)
(及びそれに伴う老齢給付金の受給要件見直し)
加入可能に(請求時期は加入から5年経過後)
国民年金の第2号被保険者でなくなった厚生年金保険の被保険者(一般的には65歳~70歳)のiDeCo加入反映されず

 

衆議院における修正案(成立)

衆議院では附則2条(検討)に5項として次の内容を追加する与野党修正案を反映したうえで5月12日に可決され、5月29日に参議院で可決、成立しました。

政府は、国民が高齢期における所得の確保に係る自主的な努力を行うに当たって、これに対する支援を公平に受けられるようにする等その充実を図る観点から、個人型確定拠出年金及び国民年金基金の加入の要件、個人型確定拠出年金に係る拠出限度額及び中小事業主掛金を拠出できる中小事業主の範囲等について、税制上の措置を含め全般的な検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

これは野党が提出した下記修正案を検討事項として反映したものといえるでしょう。

立憲民主・国民・社保・無所属フォーラムの修正案

令和2年4月17日に立憲民主・国民・社保・無所属フォーラムが修正案を提出しました。
iDeCoプラスの人数要件緩和や拠出限度額の引き上げは令和元年の社会保障審議会企業年金・個人年金部会でも関係団体から要望されていました。
iDeCoで未加入の加入可能期間を繰り越すという案は同部会でも継続検討課題とされた「穴埋め型」とも通じるものがありそうです。

施行日政府案野党案
公布日から6月以内簡易企業型年金(簡易型DC)の人数要件を100人から300人に緩和300人を500人に
公布日から6月以内中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)の人数要件を100人から300人に緩和300人を500人に
令和4年5月1日iDeCoの拠出限度額引き上げ(1号・企業型同時加入者以外はDB加入者の企業型[現在月2.75万円]と同額)
※ 金額は政令で規定
令和4年5月1日個人型加入可能期間のうち未加入の期間は「特例対象期間」として個人型加入不可期間に加入できる

 

附帯決議

この法案に対し、衆参両院で附帯決議が採択されました。
衆議院の附帯決議は与野党修正案に反映された検討事項に沿うものです。
参議院の附帯決議では更に国民年金基金連合会の手数料の透明性を求めています。

衆議院厚生労働委員会における附帯決議

国民が高齢期における所得の確保に係る自主的な努力を行うに当たって、これに対する支援を公平に受けられるようにする等その充実を図る観点から、個人型確定拠出年金及び国民年金基金の加入の要件、個人型確定拠出年金に係る拠出限度額及び中小事業主掛金を拠出できる中小事業主の範囲等について、税制上の措置を含め全般的な検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずること。

参議院厚生労働委員会における附帯決議

 自営業者等の高齢期の経済基盤の充実を図るため、国民年金基金や個人型確定拠出年金(iDeCo)への加入の促進を図ること。また、個人型確定拠出年金の加入者手数料等に係る透明性を確保するため、国民年金基金連合会等に対し、手数料の算定根拠に関する情報公開を定期的に行うよう促すこと。

公的年金の改正案

この法案における公的年金の主な改正案は次のとおりです。

施行日改正案
公布日年金生活者支援給付金制度における所得・世帯情報の照会の対象者の見直し
令和3年3月1日 児童扶養手当と障害年金の併給調整の見直し
令和3年4月1日未婚のひとり親等を寡婦と同様に国民年金保険料の申請全額免除基準等に追加
令和3年4月1日短期滞在の外国人に対する脱退一時金の支給上限年数を3年から5年に引上げ
令和4年4月1日高齢期の就労継続を早期に年金額に反映するため、在職中の老齢厚生年金受給者(65歳以上)の年金額を毎年定時に改定することとする。
令和4年4月1日60歳から64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度について、支給停止とならない範囲を拡大する(支給停止 が開始される賃金と年金の合計額の基準を、現行の28万円から47万円(令和元年度額)に引き上げる。)。
令和4年4月1日現在60歳から70歳の間となっている年金の受給開始時期の選択肢を、60歳から75歳の間に拡大する。
令和4年4月1日国民年金手帳から基礎年金番号通知書への切替え
令和4年10月1日5人以上の個人事業所に係る適用業種に、弁護士、税理士等の資格を有する者が行う法律又は会計に係る業務を行う事業を追加する。
令和4年10月1日厚生年金・健康保険の適用対象である国・自治体等で勤務する短時間労働者に対して、公務員共済の短期給付を適用する。
令和4年10月1日
令和6年10月1日
短時間労働者を被用者保険の適用対象とすべき事業所の企業規模要件について、段階的に引き下げる。
(現行500人超→100人超→50人超)