企業型DCの加入資格(加入者範囲)の制限や加入選択に係る労使協議

【記事公開後の更新情報】
令和2年9月30日の通知改正により、同年10月以降はDC非加入者(有期雇用者に限る)への代替措置の要否に事業主返還規定の有無が影響することとなりました「DC非加入者への代替措置要件の変更と同一労働同一賃金ガイドラインのDC通知への反映」参照)
改正箇所は赤字で記載。

企業型DCにおける加入資格

加入者とできる者

企業型DCの加入者とできるのは、第1号厚生年金被保険者(民間被用者=一元化前の厚生年金保険の被保険者)又は第4号厚生年金被保険者(私学教職員)であって65歳未満の者です。勤務時間が短い等の理由により厚生年金保険の被保険者となっていない従業員は企業型DCに加入できません。

加入者とできるのは「自社」の厚生年金保険で被保険者となっている者です。出向者の場合や企業年金基金、健康保険組合や労働組合等で勤務している者の場合は注意が必要です「労働組合専従者の取扱い」参照)

加入者としないことができる者

企業型DCに加入できる者であっても、法令で認められた範囲内(下記)であれば、労使合意により規約に定めたうえで加入者としないことができます。加入資格についてはできるだけ従業員の意向(特に直接影響を受ける従業員の意向)にも配慮しましょう。

職種・年齢・勤続年数による制限

次の条件を満たす者は企業型DCの加入者としないことができます(不当差別に該当しない場合に限ります)

・職種
・勤続期間
・年齢(※)(施行時または加入資格取得時に50歳以上の一定年齢以上)

希望する者

希望する者のみを加入者とすることができます。ただし、加入した後は希望により加入者の資格を喪失することはできなくなります。

簡易企業型年金(簡易型DC)における加入資格

簡易企業型年金(簡易型DC)(※)の場合は、上記の「加入者としないことができる者」も加入者としなければなりません。

※ 従業員100名以下の企業が制度を単純化した場合に、手続きの簡素化(厚生労働省提出書類の削減等)を認める制度。制度の単純化要件として、①全員加入、②事業主掛金は全員一律定額、の要件があるため、100名以下の企業でも簡易型DCはほとんど採用しないものと思われます。

加入者としなかった者への代替措置

加入者とできる者で加入者としなかった者については原則として代替措置による給付を行うことが必要です。代替措置として認められるのは、①厚生年金基金(加算部分)、②確定給付企業年金(DB)、③退職手当制度、④退職金前払制度です。

なお、職種により加入者としなかった者のうち3年以下の有期雇用者等については、通知(下記)において代替措置が不要とされています。この要件は平成24年に労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)が制定されたことにより個別事例毎に判断する旨の改正がなされると予想していましたが改正されていませんでした。労働契約法20条は令和2年4月に「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム・有期雇用労働法)に再編されましたが、その時点でも改正されていませんでした。

従業員のうち、嘱託、臨時雇員(いわゆるパート職員を含む。)等、企業型年金加入者となる従業員と比べて給与規定、就業規則、雇用形態、退職金の適用の有無が異なる等、労働条件が著しく異なっている者については、企業型年金加入者とせず、かつ退職手当制度(退職金前払い制度を含む。)等において、企業型年金への事業主掛金の拠出に代わる措置を講じないこととした場合でも、必ずしも不当に差別的な取扱いを行うこととならないものであること。
また、勤務当初から雇用期間が3年未満であることが雇用契約等により確実に見込まれる者については、労使合意により作成される規約等により明確化されるのであれば、代替措置を不要とすることが可能であること
しかし当該通知の下線部は、令和2年10月1日に次のとおり改正され、事業主返還規定があることが条件とされました「DC非加入者への代替措置要件の変更と同一労働同一賃金ガイドラインのDC通知への反映」参照)
法第3条第3項第 10 号に規定する算定方法に関する事項を企業型年金規約に定めたときは、 勤務当初から、雇用期間が当該算定方法に係る期間未満であることが雇用契約等により確実に見込ま れる者については、労使合意により作成される企業型年金規約等により明確化されるのであれば、代替措置を不要とすることが可能であること。
 

受給時期変更の影響が大きい従業員への措置

給与を減額し企業型DCを導入する場合

給与を減額し企業型DCを導入する場合、給与は生活への影響が大きいため、企業型DCは希望者のみ加入する制度とし、希望しない従業員には従来と同じ額が同じ時期に支給されるような制度でなければ労使合意は難しいのではないでしょうか(代替措置は通常「前払退職金」)

退職金等を減額し企業型DCを導入する場合

退職金等を減額し企業型DCを導入する場合、加入選択制とすると次のような影響が起こります。このため、加入選択制を要望すべきかどうかは会社や職種等によって判断が分かれそうです。

・加入者の選択肢が増える。
・退職後(老後)のために準備してきた資金が目的外に使われる。
・非加入者に前払退職金を支給した場合、会社が非加入者への社会保険料や労働保険料を負担する(人件費の増加)ため、どこかに皺寄せが来るおそれがある。

加入選択制を要望すべき場合でも、その事情によっては「加入資格取得時50歳以上の従業員」「非加入希望者が多い職種」等、対象者を限定したり経過措置に留めることも検討すべきでしょう。

50歳以上の従業員への対応

確定拠出年金に50歳以上で初めて加入する従業員(制度導入時に50歳以上の従業員やその後50歳以上で入社する従業員)は60歳でも確定拠出年金の給付を受給できない場合があります「確定拠出年金における給付(老齢・障害・死亡・脱退)と税」参照)
60歳で受給できない従業員が見込まれる場合は、50歳以上の一定年齢で、加入者から除くか加入選択制とすることも協議しましょう。

確定拠出年金の脱退一時金要件の影響

確定拠出年金の資産が少額で脱退一時金が受給できない者

現在の確定拠出年金の脱退一時金要件は厳しくなっています「脱退一時金の受給要件」参照)。退職後も個人型DC(iDeCo)または企業型DCで拠出を続けることが原則としてできますが、実際には拠出していない人が多いようです。その場合、退職時の資産が少額だと事務費で目減りしていくことも考えられますので、短期退職者が多く見込まれる場合には、希望者のみ加入する制度とする案や加入資格を制限する案等、会社の資金が効率的に従業員に与えられる方法を検討したほうが良いケースもあるでしょう。
また事業主掛金の事業主返還対象者「事業主掛金の事業主返還」参照)が多く見込まれる場合も効率的な運営といえるか注意が必要でしょう。

加入選択制の企業型DCにおける判断材料の提供

上記協議の結果加入選択制の企業型DCを導入することとなった場合は、加入するかどうかの判断材料「加入選択制の企業型DCに加入すべきか」参照)が適切に従業員に提供されるように協議しておくことが望ましいでしょう。
非加入を選択した従業員に今後も加入機会がある場合は、継続的に加入に関する情報提供がなされるようにしましょう。