企業型DCの加入者資格喪失年齢(60歳以降の加入可否)に係る労使協議

【記事公開後の更新情報】

令和2年3月3日に「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」が国会に提出され同年5月29日に成立し6月5日に公布されました(「令和2年確定拠出年金改正法案(年金制度改正法案)の国会提出」参照)。この法律では企業型DCの加入者資格喪失年齢の要件が撤廃されています。
(改正は赤字で記載)

DCにおける加入者資格喪失年齢の要件

確定拠出年金(DC)では加入者が加入者資格喪失年齢に達した場合は達した日(誕生日の前日)に加入者の資格を喪失します。個人型DC(iDeCo)の加入者資格喪失年齢は60歳(※)ですが、企業型DCでは60歳~65歳のいずれの年齢とするか(※)は労使で協議し規約に定めます。
※iDeCoは国民年金被保険者、企業型DCは厚生年金保険の被保険者(規約で定めた「一定の資格」を満たす者に限る)なら年齢によらず加入できることに【令和4年5月施行】

60歳以上で企業型DC加入者となるための要件

60歳以上で企業型DCの加入者となるためには、①年齢が規約に定める資格喪失年齢(≧61歳)未満であること(※)、②職種・年齢・勤続年数・希望による除外要件「企業型DCの加入者範囲の制限や加入選択に係る労使協議」参照)に該当しないことは当然ですが、それ以外にも当該従業員の状況に応じた要件(下記)(※)があります。
※ これらの要件は原則として撤廃(ただし老齢給付金の受給状況による制約あり)【令和4年5月施行】

当該企業型DCの加入者として60歳に到達した場合

60歳到達前日に加入者であった者が60歳以降も加入者となるためには、60歳到達前と同一企業で継続して勤務していなければなりません(※)。なお、退職による加入者資格喪失月に再雇用される場合には、継続して勤務しているものとみなされます。
※ この要件は撤廃【令和4年5月施行】

60歳以上の当該企業型DC未加入者の場合

企業型DCの導入時等は、60歳以上で当該企業型DCに未加入の従業員がいる場合があります。当該従業員が加入者となる要件も同様です。

60歳到達前から当該企業で継続して勤務

加入者として60歳に達したケースと同様に、60歳到達前から当該企業で継続して勤務していることが必要です(※)。このため例えば60歳以降で入社した従業員は加入できません。
※ この要件は撤廃【令和4年5月施行】

60歳到達前の期間に係る額の移換

60歳以上で新たに企業型DCの加入者となるためには、60歳到達前の期間に係る移換額が当該企業型DCに移換されることが必要です(※)。この要件により60歳到達前日に加入者である者に準ずる者とみなされます。

(注)ここでいう移換は制度改廃に伴う他制度からの移換(確定拠出年金法54条の移換)であり、離転職時の他制度からの移換(確定拠出年金法54条の2の移換)は含まれません。

※ この要件は撤廃【令和4年5月施行】

60歳以上で当該企業型DCの元加入者の場合

加入者資格喪失年齢を60歳から引き上げた場合、引き上げ時に60歳以上の元加入者についても、60歳到達前日に加入者であって60歳到達前から継続勤務していれば(※1)原則として加入者となります。
ただし、既に企業型DCで老齢給付金の受給を終えた者(※2)は加入者とはなれません。
※1 この要件は撤廃【令和4年5月施行】
※2 受給中の者も加入者となれない【令和4年5月施行】
 

加入者資格喪失年齢に係る労使協議(※)

※ 「加入者資格喪失年齢」は撤廃【令和4年5月施行】
  (ただし「一定の資格」としての年齢要件を定める場合は労使協議が必要)

加入者資格喪失年齢を引き上げることには次のようなメリットとデメリット(または障害)があります。これらを比較して、加入者資格喪失年齢を何歳とすることを労使協議で従業員側から要望するか考えましょう。

(注)加入者資格喪失年齢に端数月を設けることは認められないため、例えば60歳到達直後の3月末迄の加入を求める場合は、61歳を要望することとなります。現在は60歳を資格喪失年齢とする企業の方が多いようです。

加入者資格喪失年齢引上げのメリット

加入者資格喪失年齢を引き上げることで60歳以降も積立が進み、従業員の老後資金の準備が進むこととなります。また、退職金等の全部または一定割合を移行する場合、移行元の退職金等が60歳以降も増加している場合には企業型DCでも60歳以降掛金を拠出した方が自然なケースが多いでしょう。
更に加入者資格喪失前後で手数料の負担者が会社から個人に変わる制度においては、資格喪失年齢の引き上げは個人の負担軽減につながるでしょう。
また60歳時点で退職所得控除額を超過している従業員にとっては、退職所得控除額引き上げのメリットが生じる場合があります。

加入者資格喪失年齢引上げのデメリットや障害

移行元の退職金等が60歳以降増加していない場合には、会社として60歳以降の掛金を新たに負担することとなり、経営判断として難しいかもしれません。
給与の減額により原資をねん出する場合には、既に加入している従業員は任意に加入者資格を喪失できないため、給与が減少することとなります(掛金選択型であれば影響を緩和することはできます)
また加入者資格喪失年齢を60歳として企業型DCを実施していた場合、60歳で在職したままDCの給付を受給し何らかの支払いに充てようと計画していた加入者がいるかもしれません。

60歳以降の加入者期間等と退職所得控除

資格喪失年齢の引き上げに係る法改正当初は60歳以降の加入者期間は退職所得控除額の算出に用いる勤続年数に算入できないと説明されていましたが、税法上の条文との整合性を欠いたため遡及して訂正されました。また移換額の算入に係る税法上の条文(60歳未満の期間に係る条文を含む)も整備されたため、現在は加入者として拠出があった期間や移換によりそれに準ずる期間は全て退職所得控除額の算出に用いる勤続年数に算入されます。

60歳到達後に企業型DC運用指図者となる要件の隙間(※)

※ 以下の説明の「加入者資格喪失年齢」要件は撤廃
 最後の①はなくなり、⑤⑥の場合は運用指図者となる【令和4年5月施行】

加入者資格喪失年齢が60歳の企業型DCの運用指図者

60歳まで加入した場合

企業型DCの加入者資格喪失年齢が60歳の場合、60歳到達により企業型DC加入者の資格を喪失すると当該企業型DCの運用指図者になります(死亡または資産がなくなるとその翌日に運用指図者の資格を喪失します:以下同様)

障害給付金を受給できる場合

障害の程度が一定の要件を満たす場合「確定拠出年金における給付(老齢・障害・死亡・脱退)と税」参照)、障害給付金を受給することができます。加入者のまま受給することもできますが、加入者の資格を喪失した後は運用指図者として受給できます。

加入者資格喪失年齢が61歳以上の企業型DCの運用指図者

企業型DC加入者(60歳到達)が運用指図者となる場合

企業型DC加入者として60歳に到達した後、当該企業型DCの運用指図者となるのは次の場合です。

① 加入者資格喪失年齢まで加入した場合
② 一定の障害となった場合
③ 60歳以降に退職により加入者の資格を喪失した場合

企業型DC加入者(60歳到達)が運用指図者とならない場合

企業型DCの加入者は上記①③以外の理由で加入者の資格を喪失する場合があります(下記④~⑥)。この場合60歳未満の退職者と同様に、(上記②に該当しない限り)当該企業型DCの運用指図者とはなれません。そして個人型DCの運用指図者となる手続きを行わなければ原則として6か月経過後に連合会移換者(自動移換者)となります「確定拠出年金(DC)間の資産移換」参照)

企業型DC実施企業に引き続き使用されている場合で、
④ 会社が企業型DCを廃止した場合(事業所脱退や別規約への移動を含む)
⑤ 厚生年金保険の被保険者ではなくなった場合
⑥ 職種変更等により企業型DC加入者の「一定の資格」を満たさなくなった場合  

ただし⑤⑥は退職を伴っているとみなせれば③に該当し運用指図者となりますのでご注意ください。

(注)⑤⑥について運用指図者となることを認めなかった理由はよくわかりません。