企業型DCの制度変更や運営に係る労使協議(労使合意)と過半数代表者の選出
【記事公開後の更新情報】
令和2年10月からDC規約の軽微な変更の一部については届出が不要とされていましたが、令和5年10月6日の省令改正で法令改正に伴う規約変更(実質的な変更を伴わない変更に限る)もその対象とされました。また令和2年6月5日に公布された「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」では企業型DCの加入者資格喪失年齢の要件が撤廃されています。(改正は赤字で記載)
制度変更時の規約変更・厚労相承認・労使合意の要否
既に企業型DCを実施している企業が、制度導入時に労使協議を経て決定した内容を変更する場合の、規約変更の有無・厚生労働大臣(地方厚生局長)の承認要否・労使合意の要否(同意書の厚生局提出要否)のパターンは次のとおりです。
パターン | 規約変更 | 厚労相の承認 | 労使合意 (同意書提出) |
A | 要 | 要 | 要 |
B | 要 | 不要(届出要) | 要 |
C | 要 | 不要(届出要) | 不要 |
D 【令和2年10月1日施行】 【令和5年10月16日拡大】 | 要 | 不要(届出不要) | 不要 |
E | 不要 | 不要 | 不要 |
厚生労働大臣(地方厚生局長)の承認
承認が必要となる規約変更
確定拠出年金(企業型DC)を導入する場合は規約の承認が必要です。
また規約を変更する場合でも、規約に記載している「加入者の範囲」や「事業主掛金の決め方」「マッチング拠出額の拠出ルール」等、加入者等に大きく影響する内容を変更する場合は規約の承認が必要となります。
規約の承認権限
規約の承認権限は本来は厚生労働大臣が有していますが、省令により地方厚生局長に委任されています。また地方厚生局長は地方厚生支局長にその権限を委任することができるとされています。地方厚生(支)局は企業型DC実施企業から業務報告書(「企業型DCの業務報告書の作成」参照)の提出を受ける業務も委任されています。
(注)国内の地方厚生(支)局は厚生労働省サイト「地方厚生(支)局」参照。
承認スケジュール
企業型DC規約の承認を申請した場合、標準的な審査期間は2か月とされています。承認申請前に労使合意書類を用意する等様々な準備を行っておく必要があるため、早めに運営管理機関等とスケジュールを共有することが必要です。
承認申請が不要となる(届出で良い)規約変更
規約を変更する場合、変更内容が軽微であれば承認申請は不要(届出で良い)とされています。具体的には例えば下記の変更のみであれば「届出」で良いとされています。
・委託先の運営管理機関・資産管理機関の住所変更・名称変更
・事務費の引き下げ
・法令改正(掛金とは無関係)の規約への反映
・条項の移動(内容はそのまま)
届出のスケジュール
届出については、規約変更後遅滞なく厚生労働大臣(地方厚生(支)局長)に届出を行います。
「遅滞なく」とは「概ね2週間以内」とされています。大幅に遅れそうな場合は地方厚生(支)局または運営管理機関等に早めに相談しましょう。
届出も不要なる規約変更
法令の改正に伴う変更(実質的な変更を伴うものを除く)は、届出が不要となりました。(令和5年10月16日施行)
企業型DC規約を変更するための労使合意要件
労使合意(同意書提出)が不要となる規約変更
企業型DC規約を変更する場合、原則として労使合意が必要とされています。ただし「特に軽微な変更」であれば企業型DC規約の審査上は労使合意(同意書提出)が不要とされています。
例えば次の規約変更がこれに該当します。
・委託先の運営管理機関・資産管理機関の住所変更・名称変更
・法令改正(掛金とは無関係)の規約への反映
また、複数の企業が同一の規約で企業型DCを実施している場合で、特定の企業に係る記載のみを変更する場合には、変更の影響が及ばない企業では労使合意は不要とできます。ただし事前にその旨規約に定めておくことが必要です。
労働組合の同意
企業型DC規約の審査上労使合意(同意書)が必要となる場合、第一号等厚生年金被保険者(注)の過半数で組織する労働組合があれば当該労働組合の同意が必要となります。
組織率がそれを下回る場合、企業型DC規約の審査上は当該労働組合の同意は不要です。ただしそのことをもって労働条件の変更において企業に一般的に求められる対応を免れることはできません。
(注)厚生年金保険の被保険者(第1号または第4号)のうち60歳未満または60歳以上65歳未満で一定の要件を満たす者(※)
※ 年齢要件はなくなりました【令和4年5月施行】
過半数代表者の同意
企業型DC規約の審査上労使合意(同意書)が必要となる場合で、第一号等厚生年金被保険者の過半数で組織する労働組合がない場合は第一号等厚生年金被保険者の過半数を代表する者の同意が必要となります。
過半数代表者選出時の留意事項
第一号等厚生年金被保険者の過半数代表者選出時は次の要件を満たすことが必要です。④⑤は平成30年9月7日に公布された「 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備等に関する省令 」による確定拠出年金法施行規則の改正で明確化されました(平成31年4月1日施行)。
② 過半数代表者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、事業主の意向に基づき選出されたものでないこと
③ 事業主は次のことを理由として不利益な取扱いをしないこと
(ア)過半数代表者であること
(イ)過半数代表者になろうとしたこと
(ウ)過半数代表者として正当な行為をしたこと
④ 当該過半数代表者は事業主の意向に基づき選出されたものでないこと。
⑤ 当該過半数代表者が当該同意及び協議に関する事務を円滑に遂行することができるよう、事業主は必要な配慮(※2)を行うこと。
※1 ①に該当する者がいない場合は①の要件は適用されません。
※2 ⑤の「必要な配慮」には、労働基準法施行規則の解釈と同様、「例えば、過半数代表者が労働 者の意見集約等を行うに当たって必要となる事務機器(イントラネット や社内メールを含みます。)や事務スペースの提供を行うこと」が含まれるものと思われます。
(注)過半数代表者の選び方が不適切であったため多数派の意見が反映されなかった場合には当該同意に基づく企業型DC規約の効力は揺らぐおそれがあります。このため、特にある程度反対意見が予想される制度改訂では、多くの従業員の意向を反映した過半数代表者が選出されるよう配慮が必要です。また影響が一律ではない場合には、特に不利な取り扱いとなる集団の意向等にも配慮が必要です。
申請書類作成時の留意事項
企業型DCの導入や制度変更時に厚生労働省(地方厚生局)に提出する申請書類には選出の方法(投票、挙手、労働者の話し合い、持ち回り決議等の別)、日時(期間)、経過(結果)を記載することが必要です。
企業型DC規約の変更がない場合で労使合意が望ましい場合
実質的な企業型DC規約の変更
企業型DC規約の変更がない制度変更の場合、直接的には規約変更の審査がなく、確定拠出年金法令上は労使合意書類の地方厚生(支)局への提出は求められていません。
しかし例えば企業型DC規約に制度内容を直接規定せず、「〇〇規定第□条の△△」と規定した場合、本来DC規約の変更に相当する変更を〇〇規定の変更のみで実施するケースがあると思われます(「規約変更を伴わない引用規定の変更の審査」参照。)。これは実質的な規約変更であるため、労働組合や厚生年金保険の被保険者の多数が反対しそうな内容であれば、規約変更時と同レベルの労使合意を求めたほうが良いでしょう。
労働条件の不利益変更に係る同意
企業型DC規約の変更の有無に関わらず、企業型DC制度の変更が労働条件の変更になる場合で、従業員に不利益となるおそれがある変更の場合、その合理性は本人の同意がなければ「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情」に照らして判断されます。
このため例えば少数の者だけが著しい(世間一般の感覚からみても厳しすぎる)不利益を被る場合には、仮に厚生年金保険の被保険者の過半数の同意があったとしても、不利益を被る者も同意しやすいような代償措置の検討や丁寧な説明を会社に求めたほうが望ましいでしょう。
制度の運営状況を点検をするための労使協議
法改正や退職給付制度等の変更がない場合でも、運用環境、経営環境、従業員の意識等の変化に対応するために適切な頻度で協議を行うことが必要です。具体的な協議事項としては、例えば次のテーマが考えられます。
・運用商品の見直し
( 「企業型DCの提示運用商品や指定運用方法に係る労使協議」参照)
・運営管理機関の見直し
(「運営管理機関の選定と定期的評価に係る労使協議」参照)
・投資教育の見直し
(「確定拠出年金(企業型DC)における投資教育と継続教育」参照)
労使協議のための情報共有
確定拠出年金制度導入後の労使協議が適切に行われるためには、労使で必要な情報を共有しておくことが必要です。また労使協議に向けて従業員の意向をくみ取る仕組みを築いておくことも重要です。
例えば、①運用状況(未指図状況を含む)、②加入率や拠出に係る選択率(加入や拠出額を選択できる制度の場合)、③連合会移換者(自動移換者)となる割合、④受給権者の裁定請求状況(年金/一時金/未請求)等について定期的に会社から報告を受けると共に、⑤法改正情報(例えば運営管理機関から会社に提供された情報)は随時連携してもらいましょう。また世間一般の制度運営のトピックスに関する情報、コールセンター等に従業員から寄せられた改善要望等の情報も労使で共有すべきでしょう。
(注)いくつかの項目は毎年の業務報告書や運営管理機関から会社への委託業務実施報告で確認できます。