確定拠出年金(企業型DC)における投資教育と継続教育

【記事公開後の更新情報】

令和2年9月30日の法令解釈通知の改正(令和2年10月1日適用)において、老後の生活水準に係る投資教育の内容について「一般的な水準」よりも「個人毎の水準」を勘案するように改められました。これは令和元年6月3日公表されたに金融審議会報告書に端を発する老後資金2千万円不足論争「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」の公表」参照)が影響したのかもしれません。
(改正内容は赤字で記載)

投資教育とは

確定拠出年金法22条「事業主の責務」

確定拠出年金法22条(事業主の責務)1項に規定されている努力義務事項が「投資教育」と呼ばれています。(平成30年5月の確定拠出年金法改正により加入時だけでなく加入後の投資教育も配慮義務から努力義務になりました。)

事業主は、その実施する企業型年金の企業型年金加入者等に対し、これらの者が行う第二十五条第一項の運用の指図に資するため、資産の運用に関する基礎的な資料の提供その他の必要な措置を継続的に講ずるよう努めなければならない。
 
なお同条2項において、事業主がこの措置を講ずるに当たっては「企業型年金加入者等の資産の運用に関する知識を向上させ、かつ、これを運用の指図に有効に活用することができるよう配慮する」とされています。

通知で求められている投資教育

投資教育の内容としては、まずは通知厚生労働省サイト掲載の年金局長通知「確定拠出年金制度について」の「第3.資産の運用に関する情報提供(いわゆる投資教育)に関する事項」参照)で示された具体的な投資教育項目を網羅したほうが無難でしょう。

具体的な投資教育の内容

通知で規定されている具体的な投資教育の内容は次のとおりです。

① 確定拠出年金制度等の具体的な内容

ア わが国の年金制度の概要、改正等の動向及び年金制度における確定拠出年金の位 置づけ   
イ 確定拠出年金制度の概要(次の(ア)から(ケ)までに掲げる事項)
(ア)制度に加入できる者とその拠出限度額(企業型年金加入者掛金を導入している 事業所には、企業型年金加入者掛金の拠出限度額とその効果を含む。)
(イ)運用の方法の範囲、加入者等への運用の方法の提示の方法及び運用の方法の預 替え機会の内容
(ウ)運用の指図は加入者自身が自己の責任において行うこと
(エ)指定運用方法を選定及び提示している場合は、指定運用方法の概要。また、指 定運用方法により運用されたとしても、加入者自身の資産形成状況やライフプラ ン等に適した運用の方法が選択されているかどうかを確認し、自身に適さない運 用の方法であれば他の運用の方法を選択すべきであること
(オ)給付の種類、受給要件、給付の開始時期及び給付(年金又は一時金の別)の受 取方法
(カ)加入者等が転職又は離職した場合における資産の移換の方法
(キ)拠出、運用及び給付の各段階における税制措置の内容
(ク)事業主、国民年金基金連合会、企業年金連合会、確定拠出年金運営管理機関及 び資産管理機関の役割
(ケ)事業主、国民年金基金連合会、確定拠出年金運営管理機関及び資産管理機関の 行為準則(責務及び禁止行為)の内容  

② 金融商品の仕組みと特徴    

預貯金、信託商品、投資信託、債券、株式、保険商品等それぞれの金融商品につい ての次の事項   
ア その性格又は特徴   
イ その種類   
ウ 期待できるリターン   
エ 考えられるリスク   
オ 投資信託、債券、株式等の有価証券や変額保険等については、価格に影響を与え る要因等  

③ 資産の運用の基礎知識   

ア 資産の運用を行うに当たっての留意点(すなわち金融商品の仕組みや特徴を十分 認識した上で運用する必要があること)   
イ リスクの種類と内容(金利リスク、為替リスク、信用リスク、価格変動リスク、 インフレリスク(将来の実質的な購買力を確保できない可能性)等)   
ウ リスクとリターンの関係   
エ 長期運用の考え方とその効果   
オ 分散投資の考え方とその効果   
カ 年齢、資産等の加入者等の属性によりふさわしい運用の方法のあり方は異なり得 るため一律に決まるものではないが、長期的な年金運用の観点からは分散投資効果 が見込まれるような運用の方法が有用である場合が少なくないこと

④ 確定拠出年金制度を含めた老後の生活設計

ア 老後の定期収入は現役時代と比較し減少するため、資産形成は現役時代から取り 組むことの必要性
イ 平均余命などを例示することで老後の期間が長期に及ぶものであること及び老 後に必要な費用についても長期にわたり確保する必要があること。
現役時代の生活設計を勘案しつつ、自身が望む老後の生活水準に照らし、公的年金や退職金等を含 めてもなお不足する費用(自身が確保しなければならない費用)の考え方
エ 現役時代の生活設計を勘案しつつ、老後の資産形成の計画や運用目標の考え方 (リタイヤ期前後であれば、自身の就労状況の見込み、保有している金融商品、 公的年金、退職金等を踏まえた資産形成の計画や運用目標の考え方
オ 加入者等が運用の方法を容易に選択できるよう、運用リスクの度合いに応じた資 産配分例の提示
カ 離転職の際には、法第 83 条の規定による個人別管理資産の連合会への移換によ ることなく、法第80条から第82 条までの規定により個人別管理資産を移換し、運 用を継続していくことが重要であること。

投資教育の実施時期や実施手法

投資教育の実施時期や実施手法は次のとおり規定されています。

1.加入者等となる時点において投資教育がなされていること。

2.加入後も定期的かつ継続的に投資教育の場を提供すること。

3.方法は例えば資料やビデオ(DVD)の配布、説明会の開催等がある。

4.加入者等から投資教育の内容についての質問や照会等が寄せられた場合には、速やかにそれに対応すること(コールセンター・メール等)。

5.テーマ等を決めて、社内報、インターネット等による継続的な情報提供を行うことや、既存の社員研修の中に位置付けて継続的に実施することも効果的。

委託先の活用

企業型DCの場合、投資教育を実施する義務(努力義務)を負っているのは会社です。
しかし網羅性や法令改正時の対応等を考えると、例えば信頼できる委託先に初回の作成及び法改正時の更新を依頼し、少なくともその内容が含まれた資料を入社時や法改正時に対象者全員に配布することも考えられます。また労働組合等従業員側が自主的に投資教育を行うこともできます。

委託先は規約に記載しなくても良いため、法令上は委託に係る労使合意を求められていません。なお委託する場合でも会社は「就業時間中における説明会の実施等、できる限り協力することが望ましい」とされています。

その他従業員に伝えるべき事項

法令通知上明確に記載されていない事項であっても、自社の従業員に有益と思われる内容「企業型DC加入対象者向けサイト」参照)や従業員が望んでいる内容があれば、内容にあった方法で従業員に伝えたほうが良いでしょう。

企業型DCにおける運用に係る投資教育

運用商品の説明は正確で加入者にとって有益であることが必要です。
投資における今後の収益率は不確実で、その不確実性を「リスク」といいます。リスクは収益率の標準偏差で表されることが多いようです。投資理論上、期待収益率が同じであればリスクが小さい投資を選択することが一般的とされています。期待収益率に対するリスクを抑える運用方法として、長期投資分散投資について説明することも効果的でしょう。またドルコスト平均法の購入口数の仕組み(基準価格に反比例して購入口数が増える)を説明することも妥当でしょう。

禁止行為

従業員に有益と思われる内容であっても、例えば会社や運営管理機関による「推奨」に該当するような説明「特定商品での運用の推奨禁止」参照)や、加入者に誤解を与えそうな説明(例えば「時間分散効果(積立投資の効果)とU字効果」参照)は避ける必要があります。また個人情報保護規制「企業型DC実施事業主の個人情報保護義務」参照)に抵触しないよう注意が必要です。
運用に係る投資教育では「想定利回り」の取扱いにも注意が必要でしょう(「想定利回りを意識した投資教育」参照)

企業型DCの継続教育に係る労使協議

従来から確定拠出年金(企業型DC)導入時や加入時の投資教育は事業主の努力義務でしたが、平成30年5月の法改正により加入後の継続的な投資教育も事業主の努力義務となりました(従来は配慮義務)。

法令通知で投資教育すべき事項が定められているため、会社や委託先の運営管理機関はそれを網羅することで、責任を問われないようにという意識が働くでしょう。労働組合等には柔軟かつ率直に、従業員のためになることを会社に提案することが期待されます。

DCについては資産運用の解説だけでなく、コールセンターやWEBサイトの使い方といった事務の話が必要なケースもあるでしょう。自社で実施している財形、社員持株会、カフェテリアウラン等の福利厚生制度も従業員には有益な知識でしょう。お金に関するテーマとして、NISA、生命保険、住宅ローン、ふるさと納税、相続税、贈与税等も含めても良いかもしれません。60歳に近い従業員に対しては、DCの受給方法の選択肢と税務上の有利不利等を、他の退職給付(退職金・確定給付企業年金・退職金共済)の受給方法とあわせて説明することも効果的かもしれません。

実施方法も勤務時間内でのセミナー実施を求めるのが良いのか、時間外が良いのか、eラーニングが良いのか、紙媒体(社内報等)が良いのか。理解度テストを行った方が良いのか等、様々な切り口で考えられます。

良い提案が行えるよう、従業員の意見を集める仕組みを作ることも重要でしょう。継続教育の実施状況や制度の運営状況、法令改正の情報等を入手できるよう、会社にも協力を求めたほうが良いでしょう。