選択型DC(選択制DC)とiDeCoの併用(令和4年10月改正)
企業型DC加入者のiDeCo加入要件の緩和(令和4年10月)
令和2年6月5日に確定拠出年金法等を改正する法律が公布され、企業型DCの加入者は令和4年10月以降原則として誰でもiDeCoに加入(併用)できるようになりました(「令和2年確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)改正法案の公布」参照)。ただしマッチング拠出実施中の加入者はiDeCoに加入することはできません。
併用者の拠出限度額
令和4年10月以降は、iDeCoの加入者であっても事業主掛金の拠出限度額が下がることはありません。具体的には次のとおりと説明されています(今後政令で規定)。
現在 | 令和4年10月以降 | |
事業主掛金 | 3.5万円 (1.55万円) | 5.5万円 (2.75万円) |
iDeCo | 2万円 (1.2万円) | 次のいずれか低い額 ・5.5万円(2.75万円)-事業主掛金額 ・2万円(1.2万円) |
合計 | 5.5万円 (2.75万円) | 5.5万円 (2.75万円) |
(注)( )内は確定給付企業年金(DB)等の加入者の拠出限度額
選択型DC加入者のiDeCo加入(併用)
選択型DC(選択制DC)とは
令和元年に公表された「社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の整理」では選択型DC(選択制DC)について次のとおり説明されています。
いわゆる選択型DC・選択制DCと言われているものとして、労使合意により給与等を減額した上で、 当該減額部分を事業主拠出として確定拠出年金の個人別管理資産に入れるか、給与等への上乗せで受け取るかを従業員が選択するものがある。
そして導入事例の記事等によれば、事業主掛金の部分選択も認めている制度が多くを占めているようです。このため、ここでは事業主掛金を例えば5千円刻み等で選択できる選択型DCとiDeCoとの併用について記載します。
事業主掛金を5.5万円まで選択できる選択型DCにおける留意事項
拠出額の組み合わせの多様化
例えば事業主掛金を5千円刻みで5.5万円まで選択できる選択型DCの場合、DCに5.5万円拠出する方法は次の5つになります。
事業主掛金 | iDeCo |
5.5万円 | 拠出不可 |
5.0万円 | 0.5万円 |
4.5万円 | 1.0万円 |
4.0万円 | 1.5万円 |
3.5万円 | 2.0万円 |
投資教育における社会保険・雇用保険等の説明
投資教育においては、企業は上記のような選択肢のメリット・デメリットについて加入者に説明することが期待されます。「社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の整理」では選択型DCに関し「社会保険・雇用保険等の給付額にも影響する可能性が高く、事業主はこれらの点を含めて正確な説明をすべきであることを法令解釈通知に明記すべき」(注)としていた(令和2年10月に通知に反映)ことから、①事業主掛金、②iDeCoの加入者掛金、③いずれにも拠出しない、のそれぞれについて、例えば次の違いについて説明することが期待されるものと予想されます。
(注)この記載により同部会では選択型DCの事業主掛金は社会保険料や労働保険料の算出基礎とならないと認識していることが窺えます。
①事業主掛金 | ②iDeCo | ③前払 | 有利な制度 (恩恵対象者) | |
税 | 課税所得の減少<拠出額 | 課税所得の減少=拠出額 | 課税所得は減少しない | ②>①>③ (加入者) |
社会保険料 | 減少する 場合がある | 減少しない | ① (労使双方) | |
厚生年金の給付 | 減少する 場合がある | 減少しない | ②③ (加入者) | |
出産手当金 (健康保険) | 減少する 場合がある | 減少しない | ②③ (加入者) | |
雇用保険料 | 減少する 場合がある | 減少しない | ① (労使双方) | |
基本手当 [失業手当] (雇用保険) | 減少する 場合がある | 減少しない | ②③ (加入者) | |
高年齢雇用継続給付(雇用保険) | 減少する 場合がある | 減少しない | ②③ (加入者) | |
育児休業給付金 (雇用保険) | 減少する 場合がある | 減少しない | ②③ (加入者) | |
介護休業給付金 (雇用保険) | 減少する 場合がある | 減少しない | ②③ (加入者) | |
労災保険料 | 減少する 場合がある | 減少しない | ① (会社) | |
労災給付基礎日額 (労災保険) | 減少する 場合がある | 減少しない | ②③ (加入者) | |
・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ |
「加入者の利益」を考慮した説明
事業主は「忠実義務」の観点から「加入者の利益」を考慮した説明が求められます(※)。出産手当金、失業手当、高齢者雇用継続給付、育児休業・介護休業給付金等は給付前の短期間の報酬や賃金に基づき給付額が算定され、かつ給付額の発生時期が事前に予測できる場合が少なくないという特徴があります。そこで、これらの給付額算定期間に入ってからは、事業主掛金を抑えて給付を引き上げたほうが有利かもしれないと説明することが、加入者の利益につながるかもしれません。
※ 令和2年10月には法令解釈通知にも「社会保険・雇用保険等の給付額にも影響する可能性を含めて、事業主は従業員に正確な説明を行う必要がある」と明記されました(厚生労働省サイト「「確定拠出年金制度について」の一部改正について」参照)。
選択型DCの課題
社会保障における公平性と「逆選択」
選択型DCの加入者が保険料を抑えて高い給付を得られるように事業主掛金を選択することは、いわゆる「逆選択」にも似た行為であり、関係省庁(局や課)が今後もそれを是とするかどうかは注意が必要です。
選択型DCの法令上の根拠(現状)
選択型DCでは退職所得系の制度と給与所得系の制度との選択を認めていることが特徴で、加入者は加入するかどうかや事業主掛金の額を選択することができます。しかし当該選択を認める法的根拠は確定拠出年金法、同法施行令、同法施行規則には見当たりません。そして年金局長通知で初めて加入選択(前払退職金との選択)が可能であることが示されるものの、事業主掛金額の選択が可能であることは課長通知にも記載されていません。このため他の省庁(局や課)が選択型DCの存在を認識し政省令や通達変更の要否を判断することや、研究者が論じることが難しかったであろうと思われます。
選択型DCの法令上の規定のあり方
退職所得系の制度と給与所得系の制度との選択可否は税制上の問題でもあることから、まずは閣議決定のうえ政令で規定すべきであったと思われます。
令和2年10月の通知改正及び令和4年10月の法改正によりDCへの拠出方法による税や社会保険、労働保険等の取扱いの差が改めてクローズアップされ、事業主は従業員への説明を求められることになることから、それに向けて選択型DCの存在や要件、税や社会保障等の取扱いについて改めて政省令や通達等で明確に規定されることが期待されます。