運営管理機関の選定(iDeCo・企業型DC)と定期的評価に係る労使協議(企業型DC)

※ 平成30年7月24日に公布(発出)された運営管理機関の定期的評価等に係る省令通知の改正(一部即日施行・一部平成31年7月1日施行)の内容を反映しています。省令通知の詳細は「運営管理機関の定期的評価、営業職員の兼務規制緩和に係る省令通知の改正」参照。

「運営管理業務」とは

運営管理業務には「運用関連(運営管理)業務」「記録関連(運営管理)業務」があります。

運用関連運営管理業務

「運用関連業務」には①運用商品を選定する業務、②①を加入者等に提示する業務、③①に係る情報を加入者等に提供する業務、の3つの業務があります。このうち①②は同一の運営管理機関が行わなければならないこととされています(このため両者をまとめて「選定提示業務」と呼ぶ場合があります)。①②を受託する運営管理機関が③も併せて受託することが一般的ですが、運営管理機関毎の特徴の違いや委託元である企業型DC実施企業の意向により、③の業務の全て又は一部を①②とは別の運営管理機関に委託する場合や、①②は企業型DC実施企業が自ら行い③のみ委託する場合もあるようです。

選定提示業務

確定拠出年金(DC)においては運用商品の選定は次の3つのプロセスで行われますが、このうちStep2が選定提示業務に該当します。

Step1.運営管理機関の決定(iDeCoは本人、企業型DCは労使)
Step2.運営管理機関による指図可能な商品の選定と提示
Step3.提示された商品から自身が運用する商品を選択
 

確定拠出年金で提示できる運用商品は膨大な数ですが、各運営管理機関が提示できる運用商品の数は原則として3本~35本です。このため運営管理機関を選択することは、自らが運用する商品の1次選抜を行うことでもあります。このため、運用したい商品が提示されていない運営管理機関や、運用したい商品の運用手数料が他の運営管理機関よりも著しく高い運営管理機関は選択しないようにしましょう。

記録関連運営管理業務

「記録関連業務」とは①氏名、住所、資産額等の記録・保存・通知、②運用指図の関係機関への通知、給付を受ける権利の裁定です。記録関連業務を行う運営管理機関はレコードキーパー(RK)とも呼ばれます。

運営管理機関とは

運営管理業務を行う企業は、厚生労働大臣及び内閣総理大臣の登録を受けた「運営管理機関」であることが必要です。ただし企業型DC実施企業が自社(注)の運営管理業務のみを行う場合には登録は不要です。

(注)他社の場合はグループ企業であっても登録が必要です。

運営管理機関の登録状況

運用関連運営管理機関は約200社あります厚生労働省サイト「確定拠出年金制度」3.確定拠出年金の各種データ『運営管理機関登録業者一覧』参照)が、RKは日本に4社しかありません。運用関連運営管理機関は実務上特定のRKとのみ連携しているケースが多いため、運用関連運営管理機関を決定するとRKも決定することが多いようです。運用関連運営管理機関には個人型DC(iDeCo)と企業型DCの双方を受託している企業と片方のみ受託している企業があります。またグループ企業の企業型DCに係る運用関連運営管理業務のみ受託しているケースもあります。

個人型DC(iDeCo)における運営管理機関の選定

個人型DC(iDeCo)の加入者または運用指図者となる際に、本人が運営管理機関を決定し申し込みます。運営管理機関を選任する際は、提示される運用商品、業務・サービス内容、手数料の額等「iDeCo・企業型DCに係る手数料と連合会移換(自動移換)」参照)を比較して選任しましょう。運用関連運営管理機関を決定すると、記録関連業務を委託するRKは当該運用関連運営管理機関と提携している特定のRKに限定されることが一般的のようです。
個人型DC(iDeCo)を取り扱っている(運用関連)運営管理機関はiDeCo公式サイト(または厚生労働省サイト「iDeCoの概要」で確認できます。申込手続きは各運営管理機関のサイトやコールセンターでご確認ください。

各運営管理機関の提示運用商品の比較

2019年7月からは企業型、個人型とも提示商品一覧(運用手数料の一覧を含む)がインターネットで公表されており、運用商品の比較情報が誰でも入手しやすくなります。公表内容は厚生労働省サイトの運営管理機関一覧にもリンクされています厚生労働省サイト「確定拠出年金制度」3.確定拠出年金の各種データ『運営管理機関登録業者一覧』参照)。まずは自らが運用したい商品が提示されているかどうかを確認しましょう。世間一般の運用商品選択傾向を知っておくことも参考になるかもしれません「企業型DC・iDeCoにおける運用商品の選択傾向(2019年3月)の分析」参照)
運用商品毎のポイント(例)は次のとおりです。

預金・保険

確定拠出年金用の預金は通常の預金と似ています(中途解約時にも元本が確保される商品が一般的です)。
確定拠出年金用の保険は通常の生命保険で連想されるような掛捨ての死亡保障はなく、満期時に掛金と保証利回りによる運用益が得られる、預金に近い商品が一般的です(中途解約時には元本は確保されない商品が一般的です)。預金や保険商品の提示状況を比較する場合のポイントとしては、例えば次の観点が考えられます。

・希望する種類の商品があるか。
・満期の種類が多い、または希望する満期の商品があるか。
・同業種同満期の商品で比較した場合、金利が同水準以上か。
・同じ銀行の一般の預金とDCの預金の合計は1千万円を超えないか。
・金融機関の信用力が高いか(破綻しそうにないか)。
 

終身年金(生命保険商品)

平均寿命よりもご自身の寿命が長かった場合でも家計が圧迫されないためには、一生年金を受給できる終身年金が役立ちます。
確定拠出年金では、生命保険商品でかつその商品が終身年金の受給を認めている場合に限り終身年金を受給できます。実際に終身年金で受給するか、それとも一時金や有期年金で受給するかは拠出が終わってから判断できるようですので、DC以外の終身年金の受給見込み額や公的年金等受給開始までのつなぎ資金の準備状況を見ながら受給方法を判断することができます。
公的年金が終身年金の柱となるケースが多いかと思います(受給開始年齢を遅らせることで年金額を増やすことができます)が、それだけでは不足する可能性があり他に準備できていない場合には、提示されているほうが安心でしょう。

投資信託  

投資信託は期待収益率が元本確保型商品よりも高いものの、元本割れの可能性があります。一般に長期投資(長期間保有)するほど元本割れが起こりにくくなると言われており、投資理論上は年齢が高くなるほどリスクの低い運用商品を選ぶことが望ましいとされています。また分散投資を行うと期待収益率に対するリスクを抑えられるとされています。投資信託の提示状況を比較する場合のポイントとしては、例えば次の観点が考えられます。

・運用したい商品が提示されていること。
・分散投資ができる商品の組み合わせとなっていること。
・今後の希望する商品が別の種類の商品となった場合も対応しやすいこと。
・同種商品で比較した場合、手数料が低いこと。

 

手続きや情報提供の比較

個人型DC(iDeCo)では拠出額の変更や運用指図の変更は運営管理機関を通じて行います。このため、各種手続きのしやすさや提供される情報の量や質は、運営管理機関選択時の判断要素となります。例えば次の項目のうち自身が利用しそうなものを比較しましょう。

Web…情報や操作性等(未加入者には非開示かもしれませんが)
コールセンター…オペレーターによる休日対応や夜間対応等
対面相談…有無・最寄りの拠点・対応できる曜日や時間
 

体制や継続性の比較

確定拠出年金制度は創設以来進化し続けており、現在も法令改正や機能の競争が進みつつあります。今後も担当者やシステム予算が確保され品質が維持されるためには、運営管理機関の経営状況が安定していることや、確定拠出年金業務に積極的に取り組んでいること等も必要でしょう。

運営管理機関の変更

個人型DC(iDeCo)の運営管理機関は途中で変更することもできます。ただし、次のようなデメリットがあるようですので、最初にしっかり選ぶことが必要です。

・保険や預金が解約となり満期よりも低い利回りとなる。
(保険の場合元本割れとなることもある。)
・運営管理機関の変更手続き中は運用できない期間が発生する。
・新規契約の運営管理機関に対し新規契約手数料が発生する場合がある。
・解約する運営管理機関に対し解約手数料が発生する場合がある。

企業型DCにおける運営管理機関の選定

運営管理機関・提示運用商品の決定

加入者等の運用する商品は、次の流れで決定されます。
①②は労使合意のうえで規約に記載するため、協議対象となります。
協議にあたっては、運用関連業務を委託する運営管理機関の候補会社に③の案を提示してもらい、③の商品が適切であるか確認しましょう(「企業型DCの提示運用商品や指定運用方法に係る労使協議」参照)
また④のための投資教育は直接的な実施主体は事業主ですが、従業員サイドでも従業員に有益な内容か確認しましょう「企業型DCにおける投資教育と継続教育」参照)

① 企業型DCの運用商品の選定提示業務及び情報提供業務(注1)を委託するかどうかを決定
②(委託する場合)委託先運営管理機関(注2)を決定
③ 委託先運営管理機関が運用商品を選定提示し加入者等に情報提供
④ 加入者等が提示された商品から自身の運用商品を決定

(注1)確定拠出年金法令上必要とされる事項についてもれなく情報提供するためには、一般的に委託する方が堅実と思われます。追加で提供してほしい情報があれば、会社のご担当者にご相談ください。
(注2)企業型DCにおける運営管理機関選定のポイントの多くは、個人型DC(iDeCo)における選定(上記)と共通しています。ただし個人型DC(iDeCo)の場合一個人の要望で提示商品が入れ替えられることはまずないでしょうが、企業型DC(単独またはグループ企業で実施)の場合、当該企業(グループ)の労使双方が要望する場合には、提示商品の見直しは実現しやすいでしょう。

企業型DCにおける運営管理機関の選任手続き

企業型DCを実施する場合で運営管理業務を委託する場合は、①委託業務の内容と②委託先運営管理機関だけでなく、③委託に係る手数料の額(算定方法)、④当該手数料の負担者、⑤当該手数料の負担方法についても労使合意のうえ規約案に記載し、厚生労働大臣に承認されることが必要です。承認申請にあたっては、①厚生年金保険の被保険者の過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数代表者)と会社が同意した旨の書類、及び②運営管理機関の選任理由を記載した書類(注)を添付することが必要です。
なお複数の企業が1つの規約で企業型DCを実施し、1つの運営管理機関にまとめて運営管理業務を委託しているケースもあります。

(注)複数の運営管理機関について適正に評価することが必要です。簡易企業型年金の場合はこの書類は添付不要です。

企業型DCにおける運営管理機関選任時の留意事項

法令解釈通知における留意事項

法令解釈通知における運営管理機関選任時の留意事項(概要)は次のとおりです。

・もっぱら加入者等の利益のみを考慮すること。
・運営管理業務の専門的能力の水準、提示予定の運用商品、業務・サービス内容(照会対応の体制を含む)、手数料の額等に関して複数の運営管理機関を適正に比較すること。     
・労働組合(過半数代表者)の同意を得る際は選定理由を示すこと。  

企業が企業型DCの運営管理機関に説明を求めるべき場合

次の場合には、運用関連運営管理機関から加入者等の利益の観点から合理的な説明を受けるよう努めることが必要です。

 ・ 提示された商品が1金融グループに偏っている場合
 ・ 提示された投資信託が同種の他の商品よりも明らかに運用成績が劣る場合
 ・提示された元本確保型商品の利回りや安全性が明らかに低い場合
 ・同種の他の商品と比較して、手数料や解約時の条件が良くない場合
 ・商品の手数料の詳細が開示されていない場合や分かりにくい場合

運営管理業務以外の業務における運営管理機関の活用

確定拠出年金制度のより良い運営のためには、運営管理業務以外の確定拠出年金関連業務においても運営管理機関を活用することが効果的な場合も考えられます。このため、運営管理業務の委託先を選定する際は、例えば下記の業務についての支援状況についても確認することが考えられます。

・投資教育
・法令等の改正に係る情報提供
・提示されていない運用商品に係る情報提供
・ 加入者資格取得/喪失時等の手続きの説明資料作成
 

企業型DCの運営管理機関の定期的評価に係る労使協議

企業型DCの運営管理機関の定期的評価

平成30年5月の法改正により確定拠出年金(企業型DC)を実施している事業主は5年以内毎に運営管理機関を評価することが努力義務とされました。会社は運営管理機関から評価項目(下記)についての報告を受け、会社は確定拠出年金(企業型DC)の加入者等に報告内容や評価内容を開示することが望ましいと規定されています。

企業型DCの運営管理機関の評価項目

平成30年7月の通知改正で、次の評価項目(候補)が示されました。

提示された商品群の全て又は多くが1金融グループに属する商品提供機関又は運用会社のものであった場合、それがもっぱら加入者等の利益のみを考慮したものであるといえるか。
下記(ア)~(ウ)のとおり、他の同種の商品よりも劣っている場合に、それがもっぱら加入者等の利益のみを考慮したものであるといえるか。
(ア)同種(例えば同一投資対象・同一投資手法)の他の商品と比較し、明らかに運用成績が劣る投資信託である。
(イ)他の金融機関が提供する元本確保型商品と比べ提示された利回りや安全性が明らかに低い元本確保型商品である。
(ウ)同種(例えば同一投資対象・同一投資手法)の他の商品と比較して、手数料や解約時の条件が良くない商品である。
商品ラインナップの商品の手数料について、詳細が開示されていない場合又は開示されているが加入者にとって一覧性が無い若しくは詳細な内容の閲覧が分かりにくくなっている場合に、なぜそのような内容になっているか。
確定拠出年金運営管理機関が事業主からの商品追加や除外の依頼を拒否する場合、それがもっぱら加入者等の利益のみを考慮したものであるか。
確定拠出年金運営管理機関による運用の方法のモニタリングの内容(商品や運用会社の評価基準を含む。)、またその報告があったか。
加入者等への情報提供がわかりやすく行われているか(例えば、コールセンターや加入者ウェブの運営状況)。

(注)厚生労働省サイト「兼務規制の緩和、運営管理機関の評価関係」(具体的な評価項目)を元に作成。 

上記の他、従来から毎年報告されている委託している運営管理業務の実施状況(資産規模、運用利回り、コールセンターへの苦情等)の報告内容や、運営管理業務の運営体制、運営管理機関の信用及び財産の状況、委託している投資教育業務なども評価項目とすることが考えられるとされています。

その他の評価項目

上記通知では必ずしも明示されていませんが、例えば次の事項も評価対象になろうかと思います。
① RK業務(受託可能範囲、正確さ、迅速さ、汎用解説、照会対応等)
② 運営管理業務、投資教育業務以外の担当者支援
③ 運営管理手数料(「iDeCo・企業型DCに係る手数料と連合会移換(自動移換)」参照)

運営管理機関の評価に係る労使協議

運営管理機関の業務遂行状況は確定拠出年金(企業型DC)加入者の資産形成に直接影響します。このため労働組合や従業員代表も、例えば運営管理機関からの上記報告で不足する点があれば追加で報告を求め、改善すべき点があれば申し入れるべきでしょう。
そのうえで改善がみられない場合は、運営管理機関の変更について労使で協議することが必要でしょう(運営管理機関を変更する場合、労使合意のうえ規約に定めることが必要です)。