前払い退職金の種類・特徴・企業型DCの事業主掛金との比較

前払い退職金の種類

退職金を前払する従来型の前払い退職金

退職金を前払いする前払い退職金制度は確定拠出年金法の成立前から存在しました。広く注目されたのは1998年に松下電器産業(パナソニック)が導入した「全額給与支払い型社員制度」でしょう。これは退職時の退職金の支払いを廃止する代わりに年2回の賞与支給時(注)に退職金見合い分を手当として支給する制度です。 退職金との選択制であったことも先進的でした。

(注)退職金を前払いする際に月払とした企業もあります。月払以外の前払い退職金への労働法の適用については現在まで様々な意見が記事になっています。

企業年金の掛金相当額を支給する前払い退職金

既に厚生年金基金のほとんどが解散等によりなくなり、他の企業年金に移行しなかった企業もたくさんあります。そのような企業では企業年金の掛金相当額等を前払い退職金として従業員に支給するケースもあるようです。

確定拠出年金(企業型DC)の代替措置としての前払い退職金

確定拠出年金(企業型DC)では法律上加入者とできる従業員等のうち、希望や職種等によりその一部を加入者としないことが認められています。その場合、原則として非加入者に対する代替措置を設けることが必要とされています。

企業型DCへの加入を希望しなかった従業員等に代替措置として在職中に支払われる額について、国会等では「給与」と呼ばれることもありましたが、DCの通知上は「退職金前払い制度」という名称が付けられました。

(注)似た用語に「前払給与」がありますが、これは給与支給日前に既に勤務した分の給与を受けとることを指すことが多いようですのでDCでは使わないほうが良いでしよう。

退職金や企業年金を廃止して企業型DCを導入する場合であれば、非加入者に支給する前払い退職金は従来型の前払い退職金です。
しかし給与(賞与)を減額して企業型DCを導入する場合、非加入者に支給する前払い退職金は「退職金」とは無縁の制度(注)です。

(注)DC制度発足後にDCを所管しない行政機関が発出した通達では、前払い退職金の定義が退職金由来の制度と思われる場合があり、各行政機関間で前払い退職金の定義が一致しているかどうかは明確ではありません。

前払い退職金の取扱い(事業主掛金との比較)

(注)ここでは一般的と思われる取扱いを記載していますが、法令通知上具体的に規定されていない場合があります(「前払い退職金を選択できる事業主掛金の税・社会保険・労働法上の取扱い」参照)。個別の取扱いは企業(企業担当者の場合は所轄行政機関)にご確認ください。

税制上の取扱い

前払い退職金への課税

前払い退職金は税制上給与と同様に取り扱われているようです。

企業型DCの事業主掛金への課税

企業型DCの事業主掛金は拠出時には課税されません(給与所得に係る収入金額には含まれません)。このため企業型DCが加入選択制の場合、企業型DCに加入し事業主掛金とした方が、拠出時の所得税・住民税は軽減されます「選択型DC等における節税額の試算(年収・家族構成別)」参照)

(注)この他、企業型DCの場合運用益も非課税となりますが、特別法人税が課税されます(現在凍結中ですが今後の取扱いには注意が必要です)。また企業型DCの場合、給付時に課税対象となりますが、退職所得控除(一時金)や公的年金等控除(年金)が適用されるため、一般的には緩やかな課税となります。

社会保険上の取扱い

前払い退職金の社会保険上の取扱い

確定拠出年金法施行当初は、記事を見る限り社会保険上の取扱いは厚生労働省と社会保険事務所の間で十分整理されていなかったようです(退職金由来か否かで異なる取り扱いがなされることもあったようです)。しかし平成15年10月の通知等を経て、現在は健康保険法や厚生年金保険法上の報酬(または賞与)として取り扱われ、厚生年金の保険料や厚生年金の年金額等に反映されています(令和2年10月のDC法令解釈通知改正時に示された厚生労働省の見解についてはe-Gov「「確定拠出年金制度について」の一部を改正する通知案等に関する御意見募集(パブリックコメント)についてに対して寄せられたご意見について」参照)

(注)標準報酬月額の上限超過者のように、前払い退職金の有無が標準報酬月額の等級(日本年金機構サイト「厚生年金保険の制度」参照)に影響しない場合もあります。

事業主掛金の社会保険上の取扱い

企業型DCの事業主掛金は一般に健康保険法や厚生年金保険法上の報酬(または賞与)には含まれないものとして取り扱われ、厚生年金の保険料や厚生年金の年金額等に反映されていないようです。

労働法上の取扱い

前払い退職金の労働法上の取扱い

確定拠出年金法施行当初の記事を見る限り平成15年10月の通知等により行政機関の取扱いが逆転した事項もあるようですが、現在は一般に労働法上の賃金であってかつ一定の性質を有するものとして雇用保険料や労災保険料に反映されているようです。

事業主掛金の労働法上の取扱い

企業型DCの事業主掛金は一般に労働法上の賃金ではないものとして扱われているようです。このため雇用保険料や労災保険料には反映されていないようです。

(注)同様に、残業した場合の割増賃金として会社が労働基準法上支給すべき額の計算に、前払い退職金は算入され、企業型DCの事業主掛金は算入されていないようです。ただし、会社がそれ以上の割増賃金を支給することは認められるため、企業型DCの事業主掛金額を割増賃金に反映することも認められそうです。また残業の有無に関わらず一定水準の残業代を保証している企業もあります。このため割増賃金については自社の取扱いをご確認ください。