確定拠出年金の拠出限度額見直しの方法と低所得者支援効果

確定拠出年金の拠出限度額の引き上げ要望

現在の確定拠出年金(企業型DC)の拠出限度額の根拠

企業型DC以外の企業年金の対象者ではない場合

現在の確定拠出年金(企業型DC)の拠出限度額は、老後の収入(給付)が一定水準(給与比例)に達するまでは税制優遇を与えるとの考えのもと算出されたもので、給付を掛金に換算する際には、厚生年金基金の給付と掛金(給与比例掛金)の関係を用いています。具体的な計算過程については以前厚生労働省から次の通り示されましたが厚生労働省サイト第7回企業年金研究会資料1「企業年金共通の課題について」、基本的な考え方は現在も踏襲されています厚生労働省サイト第1回企業年金・個人年金部会資料1 P20)

「大多数の民間サラリーマンの標準給与(65万円)」
× 「免除保険料率(3.8%)(注1)
× 「望ましい上乗せ水準(2.23)(注2)

(注1)厚生年金基金は、厚生年金の給付の一部を代行する代わりに厚生年金保険料の一部の納付を免除されていますが、当該給付を当該保険料に換算する際に免除保険料率が用いられます。健全化法により厚生年金基金の大部分が解散または代行返上したことから、次回改定時は手法の見直しがなされるかもしれません。

(注2)基礎年金(夫婦二人分)・厚生年金と合わせて退職直前給与水準の6割程度に相当する水準を、厚生年金基金の代行給付に対する比率で示したものです。この比率は厚生年金基金においても税制優遇(特別法人税の免除)の基準とされていました。

確定給付企業年金(DB)等の加入者の場合

他の企業年金(DB等)に加入している場合は、DB等の給付額に応じてDCの給付目標を下げることができるため、拠出限度額もそれに応じて引き下げることが合理的です。このため引き下げ割合は本来は個人毎に異なるべきですが、現在は実務上の問題もあり単純に半分とされています。

(注)これについては企業年金・個人年金部会でも検討課題とされています(「社会保障審議会企業年金・個人年金部会の開催」参照)が、このページではまずDBとの調整前の水準について記載しています。

現行基準をきめ細かくした拠出限度額の引き上げ

現在の確定拠出年金(企業型DC)の拠出限度額は、老後の収入(給付)が一定水準に達するまでは税制優遇を与えるとの考えで算出されており、これまで何度も見直されてきました「確定拠出年金の拠出限度額の推移と根拠」参照)。今後も死亡率、確定拠出年金の運用利回りの前提、拠出余力の年齢ごとの変化等について更にきめ細かく反映する余地もありそうです。
例えば免除保険料率計算上の予定利率(4.1%)とDCの利回りの差の補整を求める要望企業年金連合会サイト「企業年金制度研究会における議論の整理」(平成31年3月13日)参照)や、過去の拠出限度額の未使用分の繰越を求める要望などは現行基準をきめ細かくしたものと言えそうです。また拠出限度額と物価の関係についても検討の余地があるかもしれません。

(注)昇給については、現在の算定式は賃金比例のDC掛金を想定していますが、現在では(加入者が選択する給与を除けば)ポイント比例のDC掛金のほうが多いと思われます。DBもポイント比例掛金が多いと思われるため、昇給の前提をDBの統計値に置き換えて上式にあてはめると拠出限度額はより高く算出されるでしょう。ただし、拠出限度額の未使用枠の繰越ができるのであれば、昇給の前提を見直さなくても様々な昇給パターンに対応できるでしょう。

「望ましい上乗せ水準」の見直し

望ましい上乗せ水準の単純な引き上げは高所得者(老後資金も一般に豊か)に有利な改正となり、所得の再分配機能への影響に注意が必要でしょう。ただし、現在の拠出限度額の考え方はDBや厚生年金基金は目標給付の内枠、退職金や中小企業退職金共済(中退共)、財形年金貯蓄や個人年金保険等は目標給付の外枠として扱われています。このため、公平性を高めることを目的として、外枠部分(またはその一部)の内枠化に併せて望ましい上乗せ水準を引き上げることは合理的と考えられます。とはいえ外枠制度の内枠化については、合理的で運営しやすく国民(特に公平化により不利になる国民)の理解を得られる制度の構築は容易ではないでしょう。

低所得者のための要望

低所得者のための拠出限度額要件の緩和要望

現在の拠出限度額は「望ましい上乗せ水準」から算出されています。その水準を大きく下回りそうな国民への対策となる要望は、近年懸念されている、高齢者の生活保護受給世帯の増加への対策にもなるでしょう。過去の拠出限度額の未使用分の繰越や、マッチング拠出を事業主掛金以下とする要件の撤廃は、給付水準が低い層を意識した要望と見ることができるでしょう。

低所得者のための所得税軽減措置や中途脱退要件

マッチング拠出額は現在所得控除となっていますが、低所得者ほど「税減少額/拠出額」が小さい「個人型DCやマッチング拠出における節税額の試算」参照)ことから、低所得者のこの比率を高所得者並みに引き上げることも給付の底上げには有効でしょう。60歳前受給が禁止されていることで加入をためらう者も低所得者に多いと思われます(米国でも低所得者のほうが中途引き出しを行っているようです)ので、中途退職時の受給を認める(注)ことも低所得者対策として有効でしょう。

(注)中途退職時の受給に税制優遇を認めない代わりに、それまでの拠出限度額を全て未使用枠として繰り越すことも考えられます。