確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)における運用・税・節税効果(積立額試算)

【記事公開後の更新情報】

特別法人税の凍結期限の2023年への延長を反映したほか、参考情報として「企業型DC・iDeCoにおける運用商品の選択傾向(2019年3月)の分析」、NISA商品の信託報酬(2019年)を反映しました。

確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)における運用の指図

確定拠出年金では運用の指図(の変更)は一般にWEB(及びコールセンター)でできます。
運用の指図は、①今後入金する掛金で購入する商品の指図(将来入金用の指図)と、②入金済みの資産で購入する商品の指図(既存資産用の指図)を別の運用割合で指図することができるケースが多いようです(①の割合変更は「運用割合変更」や「配分変更」、②の割合変更は「預替」や「スイッチング」とも呼ばれます)。掛金以外にも入金がある場合は、入金種類ごとの指図の方法をご確認ください。
1商品で100%運用することも、3商品に分けて(例えば50%、30%、20%)運用することもできます。

DCにおける運用商品の選択

運営管理機関と提示運用商品

確定拠出年金では運営管理機関(企業型DCの場合、労使合意により事業主とすることもできます)が提示している商品から運用商品を選択します。多くの運営管理機関では、投資信託だけでなく元本確保型商品も提示されているので、それらの中から自身が運用する商品を選択します。

元本確保型 vs. 投資信託  

投資理論では一般に運用期間が長期間となるほど投資信託でも元本割れは起こりにくくなるといわれています。このため、若いうちはある程度リスクがあっても期待収益率の高い投資信託に投資することがセオリーと考えられており、投資教育に係る厚労省通知にもこの考え方が反映されています。
一方で、元本割れさえ回避できれば必要な支出が賄える場合には、あえて元本割れのリスクを負う必要もないかと思います(拠出時の税制優遇があることで運用益がなくともメリットがあると評価することもできます)。

(注)一般的な選択傾向については「企業型DC・iDeCoにおける運用商品の選択傾向(2019年3月)の分析」参照。

確定拠出年金における元本確保型商品の選び方

満期保有時の利回り

満期まで保有した場合に原則として元本が確保される商品を「元本確保型商品」といいます。
一般に元本確保型商品として提示されるのは預金保険です。確定拠出年金用の保険商品(生命保険・損害保険)は通常の生命保険で連想されるような掛捨ての死亡保障はほとんどなく、満期時に掛金と保証利回りによる運用益が得られる、預金に近い元本確保型商品が一般的です。

ずっと元本確保型で運用しようと考えている場合は、通常は満期まで保有します。満期まで保有した場合の利回りは各運営管理機関のサイト等で確認できます。
満期のみが異なる同種の商品が提示されている制度も少なくありませんが、その場合一般に満期が長いほど高い利回りとなります。満期が同じなら保険の方が預金よりも高い利回りとなることが多いようです。この利回りは購入月ごとに異なります。

満期時の利回りが物価上昇率よりも低いと実質価値が下がることに注意が必要です。

中途解約時の利回り

元本確保型商品を中途で解約すると、預金は元本が確保されますが、保険は必ずしも元本が確保されません。満期が長い方が中途解約時の不利になりやすいようです。
タイミングを見て売却し投資信託等を購入することを考えている場合、中途解約でも不利にならない元本確保型商品が好ましいでしょう。

 金融機関の破綻時の補償

銀行が破綻した場合、預金は(DCとDC以外の合計で)元本1千万円までとその利息が保護されます。このため1千万円を超えない運営管理機関や預金を選ぶほうが堅実といえます。

保険会社の破綻時には保険商品用の保護を受けることができますが、預金と比べ保護レベルがわかりにくくなります。

終身年金の受給

確定拠出年金で終身年金を受給できるのは、生命保険商品でかつ終身年金での受給を認めている商品のみです。

確定拠出年金における投資信託の選び方   

投資信託とは

投資信託とは、投資家から集めた資金を運用会社が投資(運用)し、その運用成果を投資家に還元する仕組みの金融商品です。元本は保証されませんが、元本確保型商品よりも期待収益率は高いと言われています。販売会社や運用会社、資産を預かる信託銀行のいずれが破綻した場合でも、運用中の資産は区分して管理されているため保全されます。

投資信託商品の分類  

 運用先による分類

投資信託は、その運用先によって、国内株式国内債券外国株式外国債券等に分類されます。それ以外の投資信託(REIT(不動産)や金等)が提示されている場合もあります。 

投資理論上は、国内株式は国内債券よりもハイリスク・ハイリターンとされ、国内債券よりも運用利回りの平均が高いものの国内債券よりも元本割れが起こりやすいとされています。

バランス型の投資信託商品

投資理論上、上記4資産は相性の良い経済環境が異なるため、各資産への分散投資を行うことで、リターンに対するリスクが抑えられる効果があります。分散投資をあらかじめ専門家が行っている「バランス型」の投資信託もあります。株式が多めのものは「成長型」等と呼ばれ、バランス型の中ではハイリスク・ハイリターン寄り、株式が少なめのものは「安定型」等と呼ばれ、バランス型の中ではローリスク・ローリターンとなります。

ターゲットイヤー型の投資信託商品

確定拠出年金の積立は高年齢になるほど資産が増え、残存する運用期間が短くなります。そうなると投資理論上、若いころよりもリスクを抑えた運用が好ましいと考えられています。1つの投資信託でこれに対応できるよう、年齢に応じて成長型から安定型(あるいは更に株式の割合を抑えた運用)へと資産の構成を変えていく投資信託を「ターゲットイヤー型」(又はターゲットデート型やライフサイクル型)と言います。

本来は確定拠出年金以外の金融資産を含めた家計全体のリスクコントロールを目指すべきです(後述)が、確定拠出年金単独で手軽にリスクコントロールしたい場合は、こういったタイプの投資信託も選択肢になります。

(注)このような商品の場合、株式や債券等の構成比率の推移が注目されがちですが、株式や債券自体の運用方針や手数料の水準(資産の構成比率により異なります)も確認しましょう。

目標利回りによる分類

市場の動き(例えば国内株式の場合TOPIXや日経平均等の指数(インデックス))に確実に連動する(注1)ことを目指す運用をパッシブ運用、市場予測等によりそれを上回る利回りを目指す運用をアクティブ運用と言います。
(注)株式運用のベンチマーク(TOPIX等)については、「配当込み」と記載されているかどうかにもご注意ください。「配当抜き」のベンチマークと比較している商品は、「配当込み」のベンチマークと比較して評価を補正しましょう。

投資信託の手数料

投資信託の手数料については、2019年7月以降は運営管理機関のWEBサイトでわかりやすく一覧表で開示することが義務付けられました。公表内容は厚生労働省サイトの運営管理機関一覧にもリンクされています(厚生労働省サイト「確定拠出年金制度」3.確定拠出年金の各種データ『運営管理機関登録業者一覧』参照)。

投資信託には主に次の手数料があります。

購入時の手数料

確定拠出年金の運用商品の場合、徴収されないことが一般的のようです。

運用期間中の信託報酬

投資信託の運用事務を行ううえでは最低限発生する費用があり(その水準は運用する有価証券等によって異なります)、これに各社毎の事務等を考慮して信託報酬が設定されます。
手数料が高くてもそれ以上に高い利回りで運用できれば良いのですが、それを見分けるのは難しいため、同一種類内で手数料が低い商品を選ぶほうが無難と思われます。一般にアクティブ運用よりもパッシブ運用の方が手数料が低くなります(注1)。つみたてNISAの対象商品における手数料水準の上限や分布(注2)も一つの目安となります。

複数の運用方法を組み合わせている場合は、各運用方法の構成比率によって手数料水準に差がありますので、構成比率が類似している商品同士で比較しましょう。

(注1)パッシブ運用(インデックス運用)では銘柄を個別調査する必要がなく、かつ一度組み入れるとその後の入れ替えが起こりにくいことが影響しています。

(注2) 例えば投資先を国内とするインデックス投信の信託報酬率(税抜き)の場合、告示で定める上限は0.5%ですが、2019年5月7日時点では対象商品の半数超が0.2%以下(平均は0.27%)となっています(金融庁サイト「つみたてNISA対象商品の概要について(2019年5月7日時点)」参照)。なお上限設定時の考え方は金融庁サイト「「長期・積立・分散投資に資する投資信託に関するワーキング・グループ」報告書」参照。

売却時の信託財産留保額

信託財産留保額は、売却により生じる費用を売却者が負担することで売却者以外の負担を回避するものです。これは一部の商品でのみ徴収されているようです。長期保有を予定していれば設定されていたほうが有利で、短期で売買を行うと不利にはたらくと思われます。また、他の商品と比較したり売買のタイミングを考える際には判断が難しくなります。

確定拠出年金における投資信託の選び方

投資信託では元本割れ(大幅な元本割れ)の可能性もあるため、リスクとリターンのバランスや手数料を考えて運用する必要があります。
手軽に分散投資を行い、年齢に応じたリスク抑制を自動的に行いたいのであれば「ターゲットイヤー型」が候補商品となるでしょう。年齢に応じた見直しだけは自ら行いたい場合には「バランス型」で年齢に応じて成長型から安定型にシフトすることが考えられます。また自ら株式や債券等個別の投資信託を組み合わせる方法や、ターゲットイヤーやバランス型をベースに調整用に個別の投資信託を購入する方法もあります。
ターゲットイヤー型やバランス型の場合、各投資先の構成比率に注目することは当然ですが、各投資先がアクティブかパッシブか、構成比率から見た手数料は妥当か、等も見ておいた方が良いでしょう。一般的には投資比率の調整が必要な商品ほど手数料が高くなりそうですが、運用会社の販売戦略の違い(利益率の確保かシェア拡大か等)等も影響するかと思いますので、しっかり比較しましょう。

その他の運用商品選択時の留意事項

確定拠出年金以外で運用している資産がある場合

確定拠出年金以外でも運用している資産がある場合、資産全体で分散投資や年齢に応じた調整が行われれば、確定拠出年金の運用が特定の資産に偏っていても問題ありません。
確定拠出年金やNISAのように運用益非課税の制度には期待収益率の高い資産(例えば株式等)から優先的に充てたほうが、非課税のメリットが大きくなります。

個人の価値観を考慮した運用

投資理論との違いを理解したうえで、自身の価値観に沿って運用することも選択肢となるかもしれません。

 元本確保型での運用

元本を割るかどうかで心理的な影響は大きく異なると言われています。元本割れの不安をどうしても避けたい場合は確定拠出年金は元本確保型で運用し、更に他の手段で堅実に老後資金を準備するという選択肢もあるでしょう。

リスク許容度に応じた運用  

確定拠出年金の運用方針は自身のリスク許容度に応じて決定する、という説明をよく見かけます。これは理論的には正しいのですが、自身のリスク許容度を知ることは極めて難しい気がします。簡単なリスク許容度診断に基づき運用方針案を示すサービスもありますが、このようなサービスに対する評価が今後どのように定まっていくのか注目されます。

確定拠出年金における運用に係る課税

 確定拠出年金の運用益は非課税

一般的に投資信託や預金で運用した場合の課税額は、運用益の20.315%(復興特別所得税を含む)ですが、確定拠出年金で運用した場合は運用益には課税されません。拠出時や運用時に徴収されなかった税金相当額が複利で運用されることで、税制メリットは更に拡大します。

確定拠出年金の積立金に対する特別法人税の凍結

確定拠出年金や確定給付企業年金では、特別法人税として資産の1.173%課税されますが、確定拠出年金制度発足以降、租税特別措置法により課税の凍結(及び凍結期間の延長)が続いています。直近では2020年4月に3年間延長されましたので、2023年4月以降どうなるかが注目されています(「特別法人税率の根拠と問題点」参照)。

確定拠出年金の積立額試算(拠出時・運用時の節税効果)

確定拠出年金の加入者となり、個人型DC(iDeCo)(注1)または企業型DC(注2)に毎月1万円を拠出した場合と普通に運用した場合の積立額を比較すると次の通りです。
(注1)個人型DC(iDeCo)の場合、手数料の影響を考慮する必要があります。例えば毎月の手数料が500円(掛金の5%)の場合、DCの残高は95%に補整した方が良いでしょう。
(注2)企業型DCの留意事項は前提に記載。

運用利回り0%の場合

 運用利回り0%
DCに拠出せず通常運用DCに
拠出
税率15%税率30%
年数万円(対DC)万円(対DC)万円
10102.085%84.070%120.0
20204.085%168.070%240.0
30306.085%252.070%360.0
40408.085%336.070%480.0

 

運用利回り2%の場合

 運用利回り2%
DCに拠出せず通常運用DCに
拠出
税率15%税率30%
年数万円(対DC)万円(対DC)万円
10109.783%90.369%131.4
20238.282%196.267%291.6
30388.880%320.266%486.8
40565.478%465.664%724.8

 

運用利回り4%の場合

 運用利回り4%
DCに拠出せず通常運用

DCに
拠出

税率15%税率30%
年数万円(対DC)万円(対DC)万円
10118.082%97.267%144.1
20279.778%230.464%357.3
30501.374%412.861%673.0
40804.971%662.958%1140.3

 

前提

・確定拠出年金以外の運用益には20%課税するものと仮定(復興特別所得税は反映せず)。
・確定拠出年金の受給額は非課税(退職所得控除額の範囲内)と仮定。
・加入者拠出(個人型DC・マッチング拠出)に係る税率については「個人型DCやマッチング拠出における節税額の試算」参照。
・事業主拠出(選択型DC)に係る税率については「選択型DC等における節税額の試算(年収・家族構成別)」参照。なお、社会保険や労働法上の保険料や給付は反映していない。