確定拠出年金の想定利回りを意識した投資教育

確定拠出年金の想定利回りを意識した投資教育

投資教育においては「期待収益率が想定利回りとなる」ような運用を従業員が行うようになる投資教育を望ましいとする意見もしばしば目にします。それがふさわしい従業員もいるかもしれませんが、制度や従業員ごとの特性を考慮し慎重に対応することが必要と思われます。

確定拠出年金における2%~2.5%の目標運用利回り

各種調査では確定拠出年金(企業型DC)の想定利回りとして2%~2.5%を採用する企業が多くなっています。これは従来の運用よりもややリスクをとる必要があり、「貯蓄から投資へ」の移行を促すための目標としては程よい水準かもしれません。

しかし掛金算定上の想定利回り「企業型DCにおける想定利回りの決め方」参照)は0%の企業も一定数あります。また給与を減額してDCを導入した場合などは、税制優遇を考慮すれば掛金算定上の想定利回りは0%以下とも言えます。このような制度では導入時に想定利回りを周知させることは必要ですが、運用で目指すべき利回りは別に考えるべきではないでしょうか。

想定利回りによる運用と制度設計や投資理論との整合性

移換額の算定に想定利回りを用いていない場合

移換額の算定に想定利回りを用いていないケースには、加入者に中立的または概ね有利となるような近似計算を行ったケースと、あまり有利不利を考慮せずに移換額を決定したケースが考えられます「企業型DCへの移換額に係る労使協議」参照)。特に後者のケースの投資教育で想定利回りを「DC移行前の給付水準に達するために必要な利回り」と説明することは不適切でしょう。

移換額の算定に単一の想定利回りを用いている場合

投資理論では、年齢に応じてリスクを低下させるような資産構成が一般に望ましいとされています。単一の想定利回りでの運用を意識した投資教育を行うと、高年齢者を高リスク運用に誘導するおそれがあります。
一方で、制度設計上(移換額決定上)単一の想定利回りを仮定していたにも関わらず、投資教育で年齢に応じてリスクを低下させる運用を促すような説明を行うと、制度設計との整合性を欠くこととなります。このため制度設計の段階から、制度設計と投資理論と投資教育の整合性を意識することが望ましいでしょう「企業型DCへの移換額に係る労使協議」参照)

投資教育における想定利回りの説明

DC導入時の掛金や移換額がどのような考え方で算出されたのか、あるいはDC導入前からの受給見込額の増減を説明するうえでは「想定利回り」の説明は必要です。このためDCを導入するための労使合意を得る際や、導入決定後最初の説明会では想定利回りを説明した方が良いケースが多いように思われます。
ただし、DCで個人毎にどの程度運用リスクをとってどの程度の給付水準を目指すかは、各従業員の生活設計や価値観に応じて定まるものであり、必ずしも
DC移行前の給付水準に達することを目指すことが望ましいとは限りません。
その意味では想定利回りは、掛金や移換額の決定経緯について従業員から照会された場合に説明できるように用意しておけば良く、投資教育で積極的に説明する必要はあまりなくなってくるものと思われます。特に適切な制度設計が行われていない企業において、制度設計と矛盾する説明を継続的に行うことは不誠実でしょう。

確定拠出年金(企業型DC)に移行した後に入社した従業員については、DC移行前の給付水準を意識する必要はなく、制度導入時に掛金算定に用いた想定利回りを目指す必要はないでしょう。モデル給付額を示す場合も特定の利回りに誘導することがないよう、複数の運用例を説明する等の配慮を行った方が望ましいと思われます。