iDeCo「3つの税制優遇」の危うさ(課税の繰り延べとは)

iDeCoの受給時課税についての説明義務

   令和2年10月6日の日経電子版に「イデコ税負担、周知不足 退職金で控除使い切る恐れ」という記事が掲載されました。退職金が支給される会社員はiDeCoの受給時に課税される場合があることから、受給時の課税についての周知を呼び掛ける内容です。この記事によれば「金融機関には受取時の税負担の説明は義務付けられていない」とあります。

投資教育における税の説明

 国民年金基金連合会は加入者等に対し「拠出、運用及び給付の各段階における税制措置の内容」に関する資料の提供等を継続的に講ずるよう努めなければならないと法令通知や規約で規定されています。ただしその業務は金融機関(運営管理機関)に委託することが認められています。あくまで努力義務とはいえ、給付時の税制措置についての説明資料を提供しないような金融機関に国民年金基金連合会が業務を委託することは現実的には考えにくいことから、口頭での説明や同封したチラシの説明で、この記事にある「拠出時の非課税枠を強調し、イデコを節税商品として」説明する風潮があるのかもしれません。

「iDeCo3つの税制優遇」は適切か?

 例えば厚労省サイトに掲載されているiDeCoのパンフレット厚労省サイト「私がつくる私の未来iDeCo」には「iDeCo3つの税制優遇」として次の解説があります。

掛金が全額所得控除されます。
       例えば、毎月2万円ずつ掛金を拠出した場合、税率20%とすると
  年間4万8千円節税効果となります。
運用益も非課税で再投資されます。
受け取るときも税制優遇措置があります。

 先の記事では「一部の金融機関では拠出時の非課税枠を強調し、イデコを節税商品として販売してきた」とありますが、このパンフレット自体がそれに該当するようにも見えます。また「3つの税制優遇」という言葉は、①②③合計の税制優遇が①の税制優遇を上回っているかのような印象を与えます。

 新聞報道についても同様のことがいえます。例えば令和元年7月29日の日経電子版「イデコ、税制メリット大きく 引き出しには制限」でもiDeCoの特徴を「3段階で享受できる税制優遇の大きさ」として第1段階での「節税額」を2.4万円、3.6万円等と例示しています。

 仮に今回の記事にある「iDeCoは税の繰り延べにすぎない」との立場で説明するのであれば、第1段階では「節税」と言わずに「税の繰り延べ」程度の表現に留めるべきでしょう。そして給付時の課税額が繰り延べられた拠出時の課税額よりも少ないのであれば、そのことを税制優遇として説明すべきでしょう。

なお、給付時の課税額が実態として「繰り延べた税」とは異なる額であることを考慮すれば、当面は誰が見ても税制上のメリットが「①+③≦①」とわかる別の言い方を選びつつ、給付時の課税のあり方について検討すべきなのかもしれません。