確定拠出年金における投資助言(投資アドバイス)

投資助言(投資アドバイス)に対する期待と懸念

投資助言(投資アドバイス)に対する期待と労使の懸念

会社は企業型DCの加入者に対して投資教育を実施します。
しかしそれを抽象的すぎると感じ、個人向けの具体的な運用割合の提案を希望する従業員もいるかもしれません。
一方でそのような介入を嫌う従業員もいるかもしれません。また、提案通りに運用した結果損失が生じた場合に労使の関係が悪くなることを懸念する意見もあるでしょう。また提案を受ける従業員と受けない従業員の間での委託コストの負担のあり方に関する意見もあるでしょう。

投資助言(投資アドバイス)に関する規制の現状

会社が特定の運用商品で運用することを推奨することは禁止されています「確定拠出年金における特定商品での運用の推奨禁止」参照)。しかし会社が投資教育と併せ、投資助言(投資アドバイス)を外部機関に委託して実施することは法律や政省令では禁止されていません。

2013年に投資助言のパブリックコメントが実施された際も、法律や政省令を改正することなく投資助言は実施できるものと解釈したうえで、通知で実施する際の基準を規定する案が示されました。しかしその改正案は実現には至らず、可否や留意事項が未だ明確ではありません。以下、当時の通知案も参考に留意事項を記載していますが、判断が難しい内容については実施前に運営管理機関や厚生労働省(地方厚生局)に相談した方が良いでしょう。

法令上の留意事項運営管理機関に委託する場合

法律上の禁止行為との関係

確定拠出年金法100条では運営管理機関の禁止行為を規定していますが、同条6号には次のとおり規定されており、運営管理機関と同一法人で運営管理業務に携わっていない者が推奨行為を行うことは法律上は禁止されていないようです。ただし実態として認められているか否かは運営管理機関にご確認下さい。

加入者等に対して、提示した運用の方法のうち特定のものについて指図を行うこと、又は指図を行わないことを勧めること(当該確定拠出年金運営管理機関が金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第九項に規定する金融商品取引業者その他確定拠出年金運営管理業以外の事業を営む者として行うことを明示して行う場合を除く。)。

運営管理業務との関係

運営管理機関に委託する場合は、運営管理業務を担当していない者(営業職員は不可)が実施しなければいけません。また法律上は必ずしも限定されているわけではありませんが、金融商品取引業者として業務を行える者に委託するほうが無難でしょう。
運営管理機関は我が国の年金制度やライフイベントにおける収支等も含めた投資教育について説明経験が豊富と思われること、当該企業型DCで提示されている運用商品についは詳しい情報を有していると思われること等はメリットでしょう。
ただし、運営管理業務の担当者以外に委託することでそのメリットが弱まるケースもありそうです(投資助言における運用商品の説明と運用商品の情報提供業務(確定拠出年金法24条)との関係にも注意が必要かもしれません)
なお、運営管理機関は自社または同一グループの運用商品を提示していることが多いため、利益相反には注意が必要でしょう。

個人情報の利用

運営管理機関は運営管理業務の遂行に必要な範囲であれば本人の同意なく個人情報を利用できますが、投資助言(投資アドバイス)は運営管理業務ではなく、個人情報の利用には本人の同意が必要と考えられます。

(注)同意の取得方法や個人情報の利用範囲等については事前に運営管理機関や厚生労働省(地方厚生局)に相談した方が良いでしょう。

その他留意事項

投資助言(投資アドバイス)を委託する場合、委託先や委託内容は加入者の利益を考慮して決定されるべきでしょう。助言の内容にもよりますが、次のような点にも留意した方が良いでしょう。

① 委託先や委託内容について労使合意を得ること
② 助言を希望しない者には助言を行わないこと
③ 助言の結果損失が生じた場合の責任の所在を明確にしておくこと
④ 利益相反が疑われる契約条項がないこと

運営管理機関以外に委託する場合

運営管理機関以外への委託も禁止されていません厚生労働省サイト「確定拠出年金制度」確定拠出年金Q&A264参照)

Q.事業主が外部の機関と契約し、その費用を会社が負担して個人けの運用相談会等を行うことは可能か。 
A.事業主が外部の機関と直接契約し、個人向けの運用相談会等を 行うことは問題ないが、選定に当たってはもっぱら加入者等の 利益の観点から、能力の水準、サービス内容等について適正な 評価を行った結果である等の合理的な理由に基づくものであ ることが必要と考えられる。

運営管理機関以外に委託する場合も、金融商品に関する専門性や日本の年金制度、ライフイベントとその収支等についての知識を有することを確認して委託すべきでしょう。
委託先が提示運用商品の提供会社やその関連企業の場合は、利益相反に注意が必要です。また個人情報を利用する場合は原則として本人の同意が必要となります。
上記①~④についても同様です。