マッチング拠出の申込・運営・年単位化の課題

マッチング拠出(企業型年金加入者掛金)とは

企業型DCでは会社が掛金を拠出しますが、企業型DC規約に定めた場合には加入者も企業型DCに掛金を拠出することができます。この掛金は正式には「企業型年金加入者掛金」という名称ですが、「マッチング拠出」という呼び方のほうが有名です。

(注)年単位化の影響

平成30年1月の確定拠出年金法改正(年単位化)により、マッチング拠出額の選択やマッチング拠出額の変更ルールは複雑になっています。ただし法令通知を柔軟に解釈することで複雑さを回避しているケースが多いものと推測されます。
年単位化の課題は最下部に記載するものとし、まずは「年」のサイクル以外は年単位化前の運営を元に記載することとします。自社の詳しいルールは会社のご担当者にご確認ください。

マッチング拠出できる額

法令上の上限額

マッチング拠出額の法令上の上限は、次の①②のいずれか低い額です。

① 事業主掛金額
② 拠出限度額-事業主掛金額

マッチング拠出額の選択肢

マッチング拠出できる額は、この上限額以下で規約で定めた選択肢にある金額です。
マッチング拠出額の選択肢は全て定額です。0円は必ず選択肢に含んだうえで、他に複数の選択肢が定められています(例えば千円単位等)。ただし、加入者毎(事業主掛金毎)に法令上の上限額が異なりますので、上限額が低い加入者は結果的に0円以外の選択肢が1つ以下となる場合があります。

マッチング拠出額の選択内容の変更(「年1回」変更要件)

マッチング拠出額の選択内容の変更は原則として「年1回」(正確には「拠出単位期間」で1回)しか認められません。
「年」のサイクルは以前は制度毎に決定できましたが、平成30年1月の法改正(年単位化)後は加入月ベースで12月~11月(納付月ベースでは1月~12月)のサイクル(「拠出単位期間」)に統一されました。
このため、変更の申込があった場合、会社は直前12月以降の申込の有無を確認することが必要です。ただし、申込月を「年1回〇月のみ」と定めていれば、おのずと遵守されます。

「年1回」にカウントされない変更

次の①~⑤に該当する場合の変更は、「年1回」にはカウントされません。

① 「事業主掛金額」超過を回避する場合
② 「拠出限度額-事業主掛金額」超過を回避する場合
③ 0円への変更
④ 0円からの変更
⑤ マッチング拠出額の選択肢変更
(選択していた額が選択肢から除かれた場合)

マッチング拠出時の税制  

マッチング拠出では加入者が拠出した全額が所得控除小規模企業共済等掛金控除)となり、所得税・住民税が軽減されます。

iDeCoとの併用や選択

マッチング拠出できる企業型DCの加入者は、本人がマッチング拠出をしていない場合でも個人型DC(iDeCo)に加入することはできません(※)
マッチング拠出実施企業の従業員でも、企業型DCの加入者となっていなければ個人型DC(iDeCo)に加入できます。

※ 本人がマッチング拠出をしていなければ個人型DC(iDeCo)に加入できるようにする法改正が検討されています(「法令改正動向【確定拠出年金関連】」参照)。

マッチング拠出実施企業の加入者にとって

マッチング拠出すべきか

マッチング拠出は税制優遇により効率的に老後資金が準備できる「個人型DCやマッチング拠出における節税額の試算」参照)ため、老後資金をこれから準備する必要がある場合は積極的に活用すべきです 。
ただし、60歳までの家計の見通し等によっては確定拠出年金への拠出に慎重になったほうが良さそうな場合(下記)もあろうかと思います。60歳前に必要となるかもしれない資金であれば、他の制度で老後資金を準備することもできます「DCとNISAや財形年金貯蓄との比較」参照)

マッチング拠出に慎重になるべき場合

次のような場合にはマッチング拠出に慎重になるべきでしょう。

・60歳までに手元資金が不足しそうな場合
・所得税を納めていない場合
・返済すべき借入がある場合 

 所得控除のための本人の手続き

「マッチング拠出とiDeCoの源泉徴収と年末調整」参照)

企業担当者の実務

確定拠出年金(企業型DC)でマッチング拠出を実施する場合、企業の確定拠出年金担当者は加入者のマッチング拠出額の申込を受け付け、その内容が法令や規約に沿ったものか確認し、そうでない場合は本人への修正要請または自動修正を行います(自動修正を行った場合はその内容を本人に通知)。
当該額を給与天引き等規約に定めた方法で加入者に拠出してもらい、期日までに確定拠出年金の資産管理機関に納付します。また、必要な通知や税務対応等の付随事務を行います。

加入者へのマッチング拠出額の申込案内 

マッチング拠出額の選択肢、申込手段(紙・イントラネット等)、申込期限、照会窓口等の各社固有の取扱いを案内します。加入者が抵触しそうな法令上の制約(上限・年1回変更要件等)があれば併せて案内します。申込期限は規約上の拠出期限やチェック・修正に要する期間を考慮して設定します。

申込内容のチェック

加入者からマッチング拠出額の申込があった場合は、それが案内した条件を満たしているかどうかをチェックします。
また、加入者からマッチング拠出額変更の申込がない場合でも、事業主掛金の変動により法令や規約上の要件に抵触していないかチェックします。
当該チェックに抵触した場合、企業型DC規約に従い加入者に指図の変更を促すかあるいは規約の定めにより所定のマッチング拠出額に置き換えます。

マッチング拠出額を給与から控除できない場合

マッチング拠出額を給与から控除できない場合は企業型DC規約に従い別途加入者からマッチング拠出額を徴収するか、マッチング拠出額を0円とします。
法令上マッチング拠出額を0円とする必要がない場合で給与から控除できないために0円とする場合は、本来のマッチング拠出額がいくらかであるか管理しておくことが必要です。再び給与から控除できるようになった場合は、当該管理していた額がマッチング拠出額となります。

記録関連運営管理機関や本人への通知

マッチング拠出額の確定後は記録関連運営管理機関(RK)に個人毎のマッチング拠出額を通知します。また給与から控除した額は本人に通知します。マッチング拠出額の自動修正を行った場合はその旨本人に通知します。

マッチング拠出額の納付

マッチング拠出の納付期限は加入月の翌月末(月払以外の場合は最後の加入月の翌月末)となります。規約や受託機関の実務ルール上の拠出期限がある場合はその期限も守ることが必要です。
また納付期限よりも前にデータ通知等の期限が記録関連運営管理機関(RK)や事務委託先企業との間で締結されている場合がありますので、そこから逆算して計画的に準備を進めましょう。

所得控除

マッチング拠出額は全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)となります。会社では払込方法に応じて源泉徴収や年末調整の事務が必要となります(「マッチング拠出とiDeCoの源泉徴収と年末調整」参照)。

「年単位化」後のマッチング拠出

「年」のサイクル

平成30年1月の法改正(年単位化)後は「年」のサイクルは加入月ベースで12月~11月(納付月ベースでは1月~12月)のサイクル(「拠出単位期間」)に統一されました。

年間拠出回数と拠出月

平成30年1月以降は月払以外も可能となりましたので、確定拠出年金(企業型DC)規約において、事業主掛金が月払か月払以外かを決定します。後払いが原則ですので12月は納付月としたうえで、例えば半年払いなら6月、四半期払なら更に3月と9月も納付月となります。
マッチング拠出についても制度において払方を定めることができます。規約で認めた場合には複数の払方から本人が選択することもできます。

マッチング拠出額

年間拠出計画によるマッチング拠出額の申込

平成30年1月の確定拠出年金法改正(年単位化)後の拠出額の申込方法については、厚生労働省サイト「確定拠出年金制度」確定拠出年金Q&ANo.71-5-1で次のとおり説明されています。従来は次回拠出額の申込のみで良かったものを、法改正後は(月払であれば)12回の拠出額を申込むこととなります。このため、例えば給与からの控除額は月毎の申込内容に応じた額とする必要があり、実務上の負荷が大きくなります(注)

(注)「毎月同額」という年間拠出計画しか認めない旨制限した場合は従前と同様の申込でも足ります。ただし、年間拠出計画の制限に係る要件は法令通知やQ&Aに明記されていないため、地方厚生局や運営管理機関等に確認しましょう。

Q71-5-1.加入者掛金額は、企業型拠出単位期間の全区分につき指定する必要があるか。
A.必要がある。

マッチング拠出額の法令上の上限

平成30年1月の確定拠出年金法改正(年単位化)以降、マッチング拠出額の直前12月(納付は1月)以降の月に係る累計額の法令上の上限は、次の①②のいずれか低い額です。ここから直前12月(納付は1月)以降のマッチング拠出額として既に拠出した額を控除した額が今回のマッチング拠出額の法令上の上限となります。

① 事業主掛金額累計(直前12月以降の月に係る累計額)

② 拠出限度額(1か月あたり)の累計(直前12月以降の月に係る累計額)
 -事業主掛金額累計(直前12月以降の月に係る累計額)

法令上の上限超過時等

例えば欠勤等により事業主掛金が減少し、マッチング拠出額累計が事業主拠出額累計を超えそうになった場合、当該超えそうな月のマッチング拠出額を引き下げ超過を回避する必要があります。年単位化によって「期中累計」で比較することとなったため、超過判定のための実務上の負荷も従来よりも大きくなります。更に、年間拠出計画(月払)の場合、これが翌月以降12ヶ月分の拠出計画にどのように影響するか(給与からいくら控除するか)が法令通知上わかりやすく示されていないように思われますので、地方厚生局や運営管理機関等に確認しましょう。
事業主掛金とマッチング拠出額との合計が拠出限度額を超えた場合も同様です。

影響緩和措置

このように、法改正(年単位化)によりマッチング拠出の運営は会社にとってかなり複雑な取り扱いとなることが法令通知上予想され、対応負荷や対応ミスが懸念されました。
しかし、法改正前後の記事等を見る限り、特段の注意喚起や混乱が報道されていないように思われます。これは法改正前のルールで運営することを容認する等、特段の注意喚起が不要な柔軟な解釈が認められているものと思われます。実際に許容される取扱い基準は地方厚生局や運営管理機関等にご確認ください。

年単位化後のマッチング拠出の課題

要件の複雑化

上記のとおり「年単位化」によりマッチング拠出の要件は更に複雑になりました。

Q1.年単位化後の基準(年間拠出計画等)はどの程度採用されているのでしょうか?

年単位化後の基準が採用されていない場合の対応

もし年単位化後の基準に移行しないことで混乱を回避しているケースが多いのであれば、まずは当該基準が容認されることを法令通知に明記すべきでしょう。そのうえで、年間の拠出限度額を有効に活用するための要件の見直しを進めるべきでしょう。
以下、考えられる見直し案について記載します。

「定額」以外の方法によるマッチング拠出額の指定

マッチング拠出額の上限額は次のいずれか低い額(毎年期始からの累計額で判定)とされています。

① 事業主掛金額
② 拠出限度額-事業主掛金額

事業主掛金はその多くが「給与×一定率」で算出されます。給与には期初には予想できなかった増減が期中に起こるため、マッチング拠出額の上限も期中に予想できない変動が起こります。個人型DC(iDeCo)と同じ要件を単純にあてはめた場合、期中のマッチング拠出の上限額の変動に柔軟に対応することができないものと思われます。

上限までマッチング拠出したい加入者への対応

会社員等の個人型DC(iDeCo)への拠出額の分布を見ると、最高額まで拠出する加入者も相当数います。このため企業型DCのマッチング拠出においても、「法令上認められる最高額」を1度で指図できる選択肢(給与の増減に自動的に対応できる選択肢)が認められれば、上限まで拠出したい従業員の利便性が高まり、拠出限度額の有効活用が促進されるのではないでしょうか。

加入者毎の拠出余力の反映

現在「定額」以外の指定が認められていない理由については、厚生労働省はパブリックコメントで「加入者の意思が尊重され、加入者にとってもわかりやすくなるよう、給与比例のように加入者掛金の額が変動しかねない設定方法は認めない」と回答しています。
本人の拠出余力を超えた拠出が起きないようにすることは重要ですが、その点はマッチング拠出額の上限について加入者の意思確認を行うことで対応し、その範囲内の拠出額変更は利便性を重視しても良いのではないでしょうか。

Q2.マッチング拠出額の選択肢として「〇万円以下で法令上認められる最高額」は認められるべきでしょうか?


事業主掛金を超えるマッチング拠出

「関係団体の確定拠出年金制度改正要望」参照。

「年1回」変更要件の見直し  

年間複数回の額変更が必要となる者

上記の改正により、拠出上限額の変動には1度の指定で対応できるようになった場合、年間複数回の額変更が必要となるのは家計にあまり余裕のない加入者が中心となるでしょう。そうであれば低所得者の拠出を支援するために、「年1回まで」等の変更回数制限は法令上は撤廃し、労使の判断に委ねれば良いのではないでしょうか。

Q3.家計に余裕のない加入者でもマッチング拠出を行いやすくするために、「年1回まで」要件は見直されるべきでしょうか?