金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」の公表

令和元年6月3日に金融審議会市場ワーキング・グループは報告書「高齢社会における資産形成・管理」を公表しました金融庁サイト「金融審議会 「市場ワーキング・グループ」報告書 の公表について」参照)。この報告書では高齢社会のあるべき金融サービスについて提言されており、NISAや確定拠出年金(iDeCo)の活用を促す内容となっています。抜粋すると以下の通りです。

報告書における現状認識

・高齢夫婦世帯(無職)の収入はほとんどが社会保険給付で毎月の赤字額(資産の取り崩し)は約5万円(注)。95歳まで生きるには約2千万円の資産が必要。 

(注)今年2月に公表された厚生労働省サイト「第1回社会保障審議会企業年金・個人年金部会」資料1の32ページでも” 高齢夫婦無職世帯の実収入と実支出との差は月5.5万円程度”と記載されています(「社会保障審議会企業年金・個人年金部会(旧企業年金部会)の開催」参照)。

・公的年金の水準は今後調整(減額)が進む。
・定年退職金はピークから3~4割減少し、退職金のない企業も増加している。
・税・社会保険料の負担も年々増加している。

報告書における提言(NISA・iDeCo関連)

・つみたてNISAとiDeCo[イデコ:個人型確定拠出年金]を活用することが望ましい。これらは60歳前の受給可否と拠出時の課税有無で補完関係にある。
・一般NISAは退職金の受け皿としての機能も期待される。
・NISAとiDeCoは制度の改善(下記)が期待される。
・自身の長期的なライフプランとマネープランにあわせた資産形成の検討に際しては、必要に応じて、第三者の信頼できるアドバイザー等に相談することも有効であろう。

つみたてNISAを改善するための検討事項

・恒久的な措置とすること。
・非課税保有期間の制限を撤廃すること。
・ライフプランに沿って拠出額を柔軟に変更できるようにすること。
・スイッチング(商品の変更)を可能とすること。
※ つみたてNISAについては「DCとNISAや財形年金貯蓄との比較」参照。

iDeCo[イデコ]を改善するための検討事項

・拠出可能年齢を引き上げること。
・拠出限度額を見直すこと。
※ 拠出限度額の見直しのあり方については当サイトの「確定拠出年金の拠出限度額見直しの方法と低所得者支援効果」でも言及しています。

報告書公表後の状況等 (2019年6月12日追記)

報告書公表後の状況

この報告書に対して野党は、以前与党が公的年金を「100年安心」と説明していたことを国会で追及しており、報道でも国民の反発が多数取り上げられています。このような状況の下、6月11日に金融担当相はこれを正式な報告書としては受け取らない旨明言しています。

「100年安心」について

しかしこれはこの報告書の問題ではなく、「100年安心」と説明した際の説明や質疑が本質を国民に広く理解させるものではなかったことが問題だと思われます。

公的年金は財政が破綻しないよう給付と負担の均衡を図る必要があります。平成16年の財政再計算ではそれまでの「永久均衡方式」から「有限均衡方式」に改められ、100年(既に生まれている人の寿命をほぼカバーできる期間)後の年金資産が1年分の給付原資となるように給付の算定方式が見直されました(マクロ経済スライド方式)。この見直しにより公的年金の財政は100年間破綻しない目処が立ちましたが、年金生活者の家計が維持できる目処が立った訳ではありません。この報告書は所得代替率ではなく実額を用いたことでそのことが国民に伝わりやすくなったものと評価できます。ただし公的年金が基礎年金のみの国民はこの報告書よりもさらに深刻な状況が予想されることに注意が必要です。
今後は低所得者(特に厚生年金でカバーされない国民)の老後資金の準備が進むような政策の必要性を与野党が認識し、その実現に向けた審議が進められることが期待されます。今年は公的年金の財政検証も実施される「2019年財政検証結果の公表(社会保障審議会年金部会)」参照)ため、その結果も有意義に活用されることが期待されます。

運用の教育について

なおこの報告書では、「長期・積立・分散投資」の有効性や「金融リテラシーの向上に向けた取組み」の必要性についても言及されています。バブル期以降の我が国の株価はU字型(し字型)に推移していますが、このようなケースでは積立投資の効果(時間分散の効果)を過大評価した運用の教育やアドバイスがなされるおそれがある「時間分散効果(積立投資の効果)とU字効果」参照)ため、この報告書で金融リテラシーを向上させる役割が期待されている機関には適切な取組が期待されます。