パートタイム・有期雇用労働法の公布と退職金・企業年金への同一労働同一賃金の適用

更新情報

当記事公開後に示された派遣労働者の同一労働同一賃金(最下部に記載)に係る①③④⑤⑥⑦の法令解釈等、短時間労働者等に係る②の議論、有期雇用労働者に係る⑧のDC通知および⑨の最高裁判決を反映し更新しました。
なお、従業員への格差の理由の説明については「同一労働同一賃金における待遇格差の理由の説明と「その他の事情」」参照。

 ① 厚生労働省職業安定局長通達(※1)(令和2年10月20日)
 ② 社会保障審議会企業年金・個人年金部会 (第6回)(令和元年7月24日)
 ③ 日本経済団体連合会説明会(※2)後の質問に対する厚生労働省の回答(※3)(令和元年8月1日)
 ④ 厚生労働省「労使協定方式に関するQ&A」(令和元年8月19日)
   ⑤ 同(第2集)(令和元年11月1日)
   ⑥ 厚生労働省「派遣先均等・均衡方式に関するQ&A」(令和元年12月26日)
   ⑦ 厚生労働省「自主点検表」(※4)(令和2年7月29日)
   ⑧DC・DB通知への同一労働同一賃金に係る規定の追加、DC加入対象外とされた有期雇用労働者への代替措置要件の見直し(※5)
  ⑨メトロコマース訴訟最高裁判決(令和2年10月13日)(※5)

※1 『令和3年度の「 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30 条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」』
※2 説明会「同一労働同一賃金に係る改正労働者派遣法への対応」(令和元年5月20日)
※3 日本経済団体連合会労働政策本部『説明会「同一労働同一賃金に係る改正労働者派遣法 への対応」開催後に寄せられた質問および回答」』(令和元年8月1日)
※4 厚生労働省サイト「派遣労働者の待遇改善に係る自主点検表 」①派遣元事業主用【派遣先均等・均衡方式】、②派遣元事業主用【労使協定方式】、③派遣先用
※5 「DC非加入者への代替措置要件の変更(令和2年10月)とメトロコマース最高裁判決」

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」の公布

平成30年7月6日に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が公布されました。この法律では「労働基準法」の改正により長時間労働の是正等がなされた他、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(下線部は今回変更) (パートタイム・有期雇用労働法)、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(労働者派遣法)の改正により次の改正がなされました。下記改正の施行日は令和2年4月1日(中小企業へのaの適用は令和3年4月1日)とされています。

a. 短時間・有期雇用労働者と通常の労働者の公正な待遇の確保
b.派遣労働者と通常の労働者の公正な待遇の確保

短時間・有期雇用労働者との公正な待遇

aは短時間・有期雇用労働者と同一企業内の正規雇用労働者との不合理な待遇を禁止するもので、個々の待遇の性質・目的に応じて判断することが明確化されました。有期雇用労働者については、正規雇用労働者と①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲が同一である場合は均等待遇を確保することが義務化されています。
確定拠出年金(企業型DC)への事業主掛金の拠出等、企業年金や退職金の制度内容も労働者への待遇です。
この法律の施行から6カ月遅れて令和2年10月にDC・DBの通知に同一労働同一賃金に係る規定が追加された他、DC加入対象外とされた有期雇用労働者への代替措置の要件も見直されました(「同一労働同一賃金ガイドラインのDC・DB通知への反映(令和2年10月)」参照)

派遣労働者との同一労働同一賃金

b(※)は派遣労働者について次のいずれかを確保することを義務化しました。
(ア)派遣先の労働者との均等・均衡待遇
(イ)同種業務の一般の労働者と同等以上の賃金等の要件を満たす労使協定による待遇

※ bについては最後に記載しています。

パートタイム・有期雇用労働法関連省令・告示・通達

平成30年12月28日に公布された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備及び経過措置に関する省令」により「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則」も改正されました(下線部は今回変更)

更に同日の告示により「事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針 」(いわゆる「短時間・有期雇用労働指針」)も改正されました(下線部は今回変更)。また同日、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(いわゆる「同一労働同一賃金ガイドライン」)も告示されました。このガイドラインはDB・DCの加入資格要件にも適用されます(令和2年10月に通知にも明記)。

そして平成31年1月30日に通達「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について」(「施行通達」)が発出されました。

※ 同一労働同一賃金に関する法令通達については厚生労働省サイト「同一労働同一賃金特集ページ」参照。

短時間・有期雇用労働指針(退職手当と職務の内容の関連性)

短時間・有期雇用労働指針ではこれまで「短時間労働者の退職手当(※)、通勤手当その他の職務の内容に密接に関連して支払われるもの以外の手当についても、その就業の実態、通常の労働者との均衡等を考慮して定めるように努めるものとする。」との規定がありましたが、今回の改正により、退職手当に係る当該規定がなくなりました。

※ 施行通達において「労使間において、労働契約等によってあらかじめ支給条件が明確になっており、退職により支給されるものであればよく、その支給形態が退職一時金であるか、退職年金であるかを問わない」とされています。 なお、企業型DCでは給付は資産管理機関が行うため、退職手当に含まれるかどうかは明確ではありません(事業主掛金が賃金か否かの解釈でも類似の論点があったかと思います)が、法の趣旨からみて同様に扱われるのではないでしょうか。

同一労働同一賃金ガイドライン(退職金は明示せず)

同一労働・同一賃金ガイドラインにおいては、「この指針に原則となる考え方が示されていない退職手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる。このため、各事業主において、労使により、個別具体の事情に応じて待遇の体系について議論していくことが望まれる。」とされました。

これについては衆議院本会議(平成30年4月27日)で安倍首相が次のとおり答弁していることから、退職金について通達等では具体的基準を示さず司法に判断を委ねることになるかもしれません。

 御指摘の退職金や住宅手当などがガイドライン案に記載されていないのは、その性格に照らして、どのような待遇差が不合理であるかについて一律にルールを設けることが難しいという理由によるものです。
 今回の法案は、ガイドライン案に記載されていない待遇差を除外することなく、御指摘の退職金や住宅手当などを含め、不合理な待遇差の是正を求める労働者が裁判で争えることを保障しています。

メトロコマース事件

平成31年2月20日のメトロコマース事件の判決(東京高裁)では、有期契約社員に正社員の4分の1以上の退職金を支給するようにという判決がでました。ただし、①有期契約を定年までの長期にわたって更新したことや、②「同種業務に従事」していた無期転換者に退職金が支給されたことも考慮されたようで、更新のない有期雇用者については「本来的に短期雇用を前提とした有期契約労働者に対しては退職金制度を設けないという制度設計をすること自体が、人事施策上一概に不合理であるということはできない。」としています。

令和2年10月13日の最高裁判決では「職務の内容の違い」も考慮したうえで、退職金の不支給が不合理な格差にはあたらないと判断されました。本件における職務内容の違いは必ずしも大きいとは言い難いと思われますが、同様の職務内容の違いがある場合には退職金を支給しなくても許容されるものと思われます。

社会保障審議会企業年金・個人年金部会

社会保障審議会企業年金・個人年金部会「社会保障審議会企業年金・個人年金部会の開催」参照)では、第6回部会(令和元年7月24日)でDCの加入者資格(※)に関する発言が複数の委員からなされています。企業年金・個人年金課長はこの時点では加入または代替措置を義務付ける予定はなかったようですが結論には至っていません。また短時間労働者については現在は実態として除外(代替措置なし)も認められているようですが、通知の解釈として適切といえるか疑問視する意見も出されています。このため第7回部会以降で改めてテーマとして取り上げられるかもしれません。

※ 現在の要件は「企業型DCの加入者範囲の制限や加入選択に係る労使協議」参照。

定年後に継続雇用された有期雇用者

同一労働賃金ガイドラインによれば、定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者についても、パートタイム・有期雇用労働法の適用を受けます。定年後に継続雇用されたことは、パートタイム・有期雇用労働法第8条のその他の事情として考慮される事情に当たり得ますが、そのことのみをもって待遇の相違が不合理ではないと認められるものではなく、様々な事情が総合的に考慮されて不合理と認められるか否かが判断されるとされました。このため具体的事例における「総合的」の解釈が注目されます。

派遣労働者の同一労働同一賃金

働き方改革関連法による改正労働者派遣法により、派遣元事業主は次のいずれかの待遇決定方式により派遣労働者の待遇を確保することとされました(令和2年4月1日施行)。

(ア)「派遣先均等・均衡方式」…派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇の確保
(イ)「労使協定方式」…賃金・退職金等について派遣元事業主が過半数代表者との書面協定にて派遣労働者の待遇を決める方式。ただしその待遇は「同種の業務に従事する一般労働者の賃金」と同等以上であること。

※ 派遣労働者の同一労働同一賃金に係る告示や通達、事業主の自主点検表等は厚生労働省サイト「派遣労働者の同一労働同一賃金について、業務取扱要領は厚生労働省サイト「労働者派遣事業関係業務取扱要領(2020年4月1日以降)」参照。

派遣先均等・均衡方式による派遣労働者の退職金の決め方

厚生労働省「派遣先均等・均衡方式に関するQ&A」問2-2では退職金について次のように解説しています。

 派遣先均等・均衡方式の均衡待遇においては、基本的に、全ての待遇が含まれるものであり、退職手当についても、派遣先の通常の労働者との間で均衡を確保する待遇の対象となる。
 そのため、退職手当の支給の有無が不合理な待遇差であるか否かは、派遣労働者と派遣先の通常の労働者のそれぞれの職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該退職手当の性質及び目的を照らして適切と認められるものを考慮して判断される。
 この「その他の事情」には、事業主と労働組合との間の交渉といった労使交渉の経緯などの諸事情が想定されるものであることから、労使で十分に議論していただくことが望まれる。

労使協定方式による派遣労働者の退職金の決め方

一般退職金(一般賃金のうち退職金)は次のA~Cから労使で選択します。職種等により異なる方法とすることもできます。

A.退職手当制度で比較する方法

比較対象となる一般退職金は毎年6月~7月に発出され翌年4月から適用される(※)職業安定局長通達厚生労働省サイト職業安定局長通達『令和3年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30 条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」等について』及び同通達「別添4」参照)の統計数値となります。ただし同通達に規定する要件を満たせば独自統計を用いることもできます(同通達の概要は同サイト「概要」参照)

※ 協定期間中でも新通達により同等でなくなった場合は協定の改定が必要となります(日本経済団体連合会労働政策本部『説明会「同一労働同一賃金に係る改正労働者派遣法 への対応」開催後に寄せられた質問および回答」』No.11,No.12参照)。

B.一般の労働者の退職金に相当する額と同等以上の賃金を支給する方法

「一般基本給・賞与等×6%(1円未満切上)」以上の賃金(※)を支給する方法です。

※「基本給・賞与・手当等(+通勤手当)」との合計額で一般賃金と同額以上となる方法でも認められます。また、労使で協定すれば個人単位でなく平均や標準者で6%要件を満たせば良いとされています。

C.企業年金や退職金共済に掛金を拠出する方法

「一般基本給・賞与等×6%(1円未満切上)」以上の掛金を確定拠出年金(DC)、確定給付企業年金(DB)、中小企業退職金共済(中退共)等に拠出する方法です。
BとCを併用し、合計で6%以上となる方法も認められます。

(注)選択型DCの場合は「派遣労働者の選択型DCに係る同一労働同一賃金の考え方(労使協定方式)」参照。