「規制改革・行政改革ホットライン(縦割り110番)」(確定拠出年金関連)に対する厚労省の回答(令和2~3年度)
「規制改革・行政改革ホットライン(縦割り110番)」(確定拠出年金関連)に対する厚生労働省の回答
令和2年9月18日に河野行革相のサイトに設置された「行政改革目安箱」に情報が殺到したことから「規制改革ホットライン」を改組して対応することとなり、9月25日に「規制改革・行政改革ホットライン(縦割り110番)」が開設されました。確定拠出年金関連の令和2年度の要望のうち、iDeCoの拠出限度額(2号加入者)を2.3万円とすることについて令和4年11月11日に「検討を予定」と回答されました。
この他今回の回答で気になったものは以下のとおりです(転載の際に表現を見直している場合があります)。
なお令和元年度と重複している要望(DCの受給要件緩和については要望内容や理由が異なる場合を含む)で回答に進展がないものは割愛しています。
年度 | No. | 内容 | 回答 | |
1 | 2 | 516 | iDeCoの最低掛け金の廃止 | 対応不可 |
2 | 〃 | 1177 | iDeCoの拠出限度額2.0万円⇒2.3万円 | 検討を予定 |
3 | 3 | 420 | 企年連からの移換申出期限の緩和 | 検討を予定 |
4 | 〃 | 704 | 住所照会の申請方法の電子化 | 対応不可 (2年度558は「検討を予定」) |
5 | 〃 | 731 | iDecoに対する商品数制限の撤廃 (つみたてNISA対象商品の制限からの除外) | 対応不可 |
6 | 〃 | 780 | 事業主掛金を上回る額のマッチング拠出 | 対応不可 (2年度974は「対応不可」) (3年度506は「検討を予定」) |
【参考】令和元年度の要望と回答(「「規制改革ホットライン」令和元年度要望(確定拠出年金関連)に対する厚生労働省の回答」)
年度 | No. | 内容 | 回答 | |
1 | 元 | 311021008 | 減額DBからDCへの移換希望者の割合 | 対応不可 |
2 | 〃 | 311028014 | DB残余財産の清算結了前のDC移換 | 検討を予定 |
3 | 〃 | 311028021 | 事業主が別DCに移動した場合の運用指図者の移動 | 対応不可 |
4 | 〃 | 311028025 | 過去分を売却しない運用商品除外 | 検討を予定 (令和3年7月28日改正) |
5 | 〃 | 311028067 | 中退共からDCへの移換 厚年基金の残余財産をiDeCoに移換 | 検討を予定 |
6 | 〃 | 311028068 | DCの運用における投資一任 | 対応不可 |
7 | 〃 | 311029010 | iDeCo掛金のクレジットカード払い | 対応不可 |
8 | 〃 | 311227013 | DC中途引き出し(ペナルティ課税) | 対応不可 |
1.iDeCoの最低掛け金の廃止
要望(個人)
iDeCoの最低掛け金(五千円)を廃止してください。
iiDeCoは最低掛け金五千円が設定されており、60歳満期まで引き出せないためリスクに弱く、所得が低い人にとっては敷居が高く、事実上、富裕層優遇の制度です。
iDeCoは個人の年金であるため、財産分与の対象になりません。誰しも離婚のリスクはあるので、夫婦間で公平に老後資金を形成するなら、夫婦ともに同額でidecoで資産を作らなければなりません。
最低掛け金が月額5千円ということは夫婦で1万円と倍になります。税制のメリットがあるとはいえ、一般家庭で月額1万円の出費は大きいです。
回答
対応不可 。
iDeCoの最低掛金額は、手数料の水準等を勘案して国民年金基金連合会において規約策定委員会の議決を経て設定されたものであることから、見直しには慎重な検討が必要です。
コメント
iDeCoの手数料の中には掛金から控除する額があることから、下限を設けることにも一定の合理性はあると考えられます。規約策定委員会からより具体的な回答がなされ、要望者がその妥当性を判断しやすくなることが期待されます。
2.iDeCoの拠出限度額2.0万円⇒2.3万円
要望(日本損害保険協会)
iDeCoの拠出限度額について、第2号被保険者は企業年金の加入状況等に関わらず一律同額としたうえで、第2号被保険者と第3号被保険者についても一律同額(月額2.3万円に統一)とする。
回答
検討を予定。
拠出限度額の見直しについては、制度の利用状況やニーズ等を踏まえつつ、公的年金制度等とのバランスや税制の観点も含め関係者で慎重に検討します。
コメント
令和5年度与党税制改正大綱(「令和5年度与党税制改正大綱におけるiDeCo改革案と特別法人税の凍結期限の3年延長」参照)と整合性のある内容となりました(令和4年11月回答)。
3.企年連からの移換申出期限の緩和
要望(信託協会)
連合会から他制度への積立金の移換の申出期限について、「移換先制度(確定給付企業年金、企業型年金及び個人型年金)の加入者の資格を取得した日から起算して三月」とあるのを緩和していただきたい。
会社清算等でDBを終了し、DC実施先に入社した場合は、DBから連合会へ積立金を移換し、連合会からDCへ積立金を移換することによって、DBの積立金をDCに移換することも考えられる。しかしながらこのパターンの場合、連合会からDCへの積立金移換の申出期限はDCの加入者の資格を取得した日から起算して3ヶ月となっている。実務上、DB終了から残余財産分配までに、当該3ヶ月を超過してしまうことが一般的であり、連合会からDCへの積立金について期限内の移換申出が実務上できないため、当該移換申出期限の緩和を要望するもの。
回答
検討を予定。
ご指摘の例示のような場合を、法令上の「やむを得ない理由がある場合」に該当するものとして取り扱う余地はあるものと考えられますが、当該事務を取り扱う関係機関における実務上の課題等を確認した上で、今後、取り扱いを検討・調整してまいります。
コメント
DBの残余財産の企業型DCへの移換は企業の退職給付制度の見直しを想定した要件となっているため、企業の清算等の場合には利用できませんが、今回の要望により企業年金連合会経由の迂回ルートで移換が可能となるかもしれません。
企業年金連合会による手数料徴収を考えると、直接企業型DCに移換するための規制緩和も期待されます。残余財産のiDeCoへの移換に係る改正(令和4年5月)時に併せて改正されることが期待されましたがその時は見送られました。
4.住所照会の申請方法の電子化
要望(生命保険協会)
確定拠出年金の運営管理機関や確定給付企業年金の受託機関については、全国一律に電子的かつ簡素な申請による住所照会を可能とすること。
・確定拠出年金や確定給付企業年金において、制度加入者であった方等へ郵便物を送付した際に、郵便物が不着となる場合があり、その場合には、各市区町村の役所に住所照会のための住民票の取寄せを文書・郵送にて行っている。
・その際には、各市区町村の役所にて、取寄せ方法や必要書類が異なるとともに、照会の都度、免許書等の身分証明書の添付が求められる。
・これらを効率化する観点から、例えば、現在、確定給付企業年金の事業主・基金や企業型確定拠出年金の事業主で認められている住基ネットでの住所照会を運営管理機関や受託機関でも可能にする等、全国一律の電子的かつ簡素な申請による住所照会を可能とすることを要望するものである。
回答
検討を予定。(令和2年度)
対応不可。(令和3年度)
運営管理機関や受託機関が自ら住基ネットを活用することについて、個人情報保護の観点から、住民基本台帳法による情報提供を受けることのできる主体は住民基本台帳法において、行政機関等に限られております。利用可能者の拡大については、上記の観点から、十分な検討が必要です。
なお、DBを実施する事業主・基金やDCを実施する事業主が、企業年金連合会に情報収集等業務の委託を行い取得した住所情報については、委託業務の範囲内でかつ適正な管理を前提として、受託機関や運営管理機関に提供することは可能です。
コメント
回答にある、事業主が企業年金連合会に情報収集等業務の委託を行い取得した住所情報を運営管理機関に提供するフローはうまくいっていないのでしょうか。市区町村に照会を行っている背景によっては別の規制緩和要望で(記録関連)運営管理機関の負担を軽減できるかもしれません。
5.iDecoに対する商品数制限の撤廃(つみたてNISA対象商品の制限からの除外)
要望(個人)
つみたてNISAの対象商品は、手数料が低水準、頻繁に分配金が支払われないなど、長期・積立・分散投資に適した公募株式投資信託と上場株式投資信託(ETF)に限定されており、投資初心者をはじめ幅広い年代の方にとって利用しやすい仕組みとなっている。このため、「35本」の対象に、「つみたてNISA」対象商品は除外し、どの金融機関においても「つみたてNISA」商品はiDecoで選択できるようにする。
回答
対応不可。
確定拠出年金については、選択できる商品数が多すぎると加入者が商品を選ぶことができないという行動経済学の知見を踏まえ、また、実際に運用商品提供数が36本以上になると運用方法の指図を行わない加入者の割合が急増するという調査の結果に基づき、法律及び政令で運用商品提供数の上限を35本と定めています。
コメント
今回は本数についての回答のみとなっており、「つみたてNISA」がDCの商品として認められるかどうか(不可の場合はその理由)については言及されていません。
6.事業主掛金を上回る額のマッチング拠出
要望(日本損害保険協会・全国信用金庫協会・信金中央金庫)
マッチング拠出の加入者掛金の設定にあたっては、①事業主掛金との合計額が拠出限度額の範囲内で、かつ、②事業主掛金を超えてはならないとされている。
事業主掛金が少額の加入者については、上記①の限度額にゆとりがあったとしても、上記②の規制により、加入者掛金を少額しか拠出することができない。
また、2017年1月から、個人型確定拠出年金(iDeCo)との同時加入も認められたが、iDeCoの口座管理手数料を加入者が負担するなどのデメリットがあることから、マッチング拠出が可能な企業型確定拠出年金加入者は、当該拠出を活用した方がメリットが大きい。
ついては、自助努力による更なる老後資産形成の観点から、上記②の規制を撤廃するよう検討願いたい。
回答(令和4年8月19日)
対応不可。
企業年金は従業員の福祉の向上を図るものであり、退職給付としての性格を持つものでもあることから、事業主拠出が基本です。このため、企業型確定拠出年金における加入者掛金(いわゆるマッチング拠出)については、事業主の掛金負担が従業員に転嫁されるようなことがないように、従業員が拠出できる掛金額は事業主が拠出する掛金額の範囲内とするとしているものです。
【参考】回答(令和4年5月13日)
検討を予定。
企業型確定拠出年金は事業主が主体となり従業員のために実施するものであるという観点と、個人の働き方によらない、老後の所得確保に向けた自助努力を支援する観点から、制度の利用状況等も踏まえつつ、今後の制度改正に向けて関係者等による慎重な検討が必要です。
コメント
今回の回答は日本労働組合総連合会の意見(第8回部会日本労働組合総連合会提出資料参照))と類似しています。 このテーマについては、社会保障審議会企業年金・個人年金部会やその前身の部会で関係団体にヒアリングを行っていますが、金融機関団体や経営者団体は賛成、日本労働組合総連合会は反対という構図が長年続いています。
マッチング拠出の抑制が事業主掛金の増加につながるのであれば労働者のための規制といえますが、事業主掛金の引き上げ効果がほとんどない一方で労働者の利便性を妨げているのであれば、労働者の利益に反する規制といえます。このためまずはこの規制が労働者のためになっているかどうかを調査し、労働者の支持が得られない規制となっているようであれば、日本労働組合総連合会等も交えて見直しについて検討することが望ましいと考えられます。
(令和4年5月の回答はその方向に進むことを期待させるものでしたが、8月の回答には継承されませんでした。)