企業型DCの拠出限度額2.75万円の継続可否(令和6年12月改正後)
令和6年12月改正後の企業型DCの拠出限度額(DB加入者)
DB加入者のDC拠出限度額の改正(令和6年12月)
令和6年12月以降、確定給付企業年金(DB)等に加入している企業型DC加入者の拠出限度額は次のとおり改正されます(「公務員やDB加入者のiDeCo(イデコ)拠出限度額の2万円への引き上げ(令和6年12月施行)」参照)。
改正前 | 月額2.75万円 |
改正後 | 月額5.5万円-他制度掛金相当額 |
改正後 (経過措置) | 月額2.75万円 |
拠出限度額の経過措置(2.75万円適用)に係る法令通知の公布(発出)
拠出限度額の経過措置(2.75万円適用)について、次の法令通知が公布(発出)されました。
・「確定拠出年金法施行令及び公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置に関する政令の一部を改正する政令」(令和3年9月1日公布)
・「確定拠出年金法施行規則等の一部を改正する省令」(令和4年1月21日公布)
・通知「確定拠出年金の拠出限度額の見直しについて」(令和3年9月 27 日 発出/令和4年1月 21 日改正)
経過措置終了の原則的な考え方
はじめに
拠出限度額を2.75万円とする経過措置は、法施行前に企業型DCを実施していた全ての事業所で認められます。
2.75万円超の掛金を拠出したい場合等、経過措置を終了したい場合は、申請すれば終了できます(終了後は原則として経過措置に戻ることはできません)。
終了を希望しない場合でも、制度変更内容が終了要件に該当した場合は経過措置は終了します。経過措置の終了要否は企業型DC、DB規約でそれぞれ判定され、いずれかが終了要件に該当した場合は終了します。
そこでこのページでは企業型DCとDBの制度を次の要素に分解して終了要否を解説します。
規約の対象となる企業・事業所 | 規約における設計 | 加入者 | |||
規約 | 事業主 | 事業所 | キー項目 | キー以外 |
① 規約変更がなかった場合
規約変更がない場合、新規加入者等にも経過措置は適用されます。
規約の対象となる企業・事業所 | 規約における設計 | 加入者 | 経過措置 継続可否 | |||
規約 | 事業主 | 事業所 | キー項目 | キー以外 | ||
変更なし | 変更 | 継続 |
② 規約変更(設計の変更)があった場合
規約変更があった場合、変更内容が経過措置の終了要件に該当した場合は終了します。
キー項目に変更がある場合
規約の対象となる企業・事業所 | 規約における設計 | 加入者 | 経過措置 継続可否 | |||
規約 | 事業主 | 事業所 | キー項目 | キー以外 | ||
変更なし | 変更 | 無関係 | 無関係 | 終了 |
キー項目以外のみ変更する場合
規約の対象となる企業・事業所 | 規約における設計 | 加入者 | 経過措置 継続可否 | |||
規約 | 事業主 | 事業所 | キー項目 | キー以外 | ||
変更なし | 変更なし | 変更 | 無関係 | 継続 |
設計のキー項目(DC)
DC規約におけるキー項目は「DC法3条3項7号に掲げる事項(事業主掛金の額の算定方法その他その拠出に関する事項)の変更」です。マッチング拠出(7号の2)、事業主返還(10号)、事務費(11号)はキー項目ではありませんが、拠出中断はキー項目となります。
なお、キー項目の変更であっても、承認申請が不要な変更(軽微な変更)であれば、経過措置は終了しません。
また規約変更を伴わない掛金変更があっても経過措置は終了しません。現在の審査ルールでは、事業主掛金算定式の実質的な変更があっても規約変更がなければ当局の審査がなされず、労使合意書類の提出も求められないという課題がありました(「企業型DCの制度変更や運営に係る労使協議(労使合意)と過半数代表者の選出」参照)が、令和4年1月の省令通知を見る限り今回の改正でもその部分の是正措置は講じられていません。
設計のキー項目(DB)
DB規約におけるキー項目は「DB法4条5号に掲げる事項」の変更です。
具体的には「確定給付企業年金規約例」(規約型)における以下の箇所に相当する部分が該当します。
・第4章 給付
第1節 通則 ⇒ 第 10 条~第 20 条
第2節 老齢給付金 ⇒ 第 21 条~第 25 条
第3節 脱退一時金 ⇒ 第 26 条~第 30 条
第4節 障害給付金 ⇒ 第 31 条・第 32 条
第5節 遺族給付金 ⇒ 第 33 条~第 38 条
なお、加入者(第2章 第3条~第6条)、標準給与(掛金の額の算定の基礎となる給与(第3章第9条)、掛金(第5章)、最低保全給付(第6章第49条)は該当せず、権利義務承継等における個別の取扱い(附則)も原則として該当しません。
また該当箇所の変更であっても掛金の額の再計算(DB法58条1項・2項、DB法62条)がなければ経過措置は終了しません。
③ 経過措置の適用単位
経過措置の適用は企業型DC規約ごとに実施事業所単位で判定されます。このため一部の実施事業所において設計のキー項目の変更があった場合でも、当該変更の対象とならない実施事業所に係る経過措置は引き続き適用されます。
ア.一部事業所のみのキー項目の変更
規約の対象となる企業・事業所 | 規約における設計 | 加入者 | 経過措置 継続可否 | |||
規約 | 事業主 | 事業所 | キー項目 | キー以外 | ||
変更なし | 変更なし | 変更あり | 無関係 | 無関係 | 終了 | |
変更なし | 変更なし | 無関係 | 無関係 | 継続 |
イ.一括適用
一括適用前
規約 | 事業主 | 事業所 | 経過措置 |
X | P社 | A | 継続中 |
B | 既に終了 |
一括適用後(経過措置継続中の事業所Aに一括適用した場合)
規約 | 事業主 | 事業所 | 設計 | 経過措置 |
変更なし | A事業所(経過措置継続事業所に一括適用) | 一括適用前(A)からキー項目不変 | 継続 |
一括適用後(経過措置が終了している事業所Bに一括適用した場合)
規約 | 事業主 | 事業所 | 設計 | 経過措置 |
変更なし | B事業所(経過措置終了事業所に一括適用) | 無関係 | 終了 |
ウ.新規実施
新たにDB・DCの実施事業所となった場合、当該事業所には経過措置は適用されません(組織再編時の例外は次章)。
事業所追加前
規約 | 事業主 | 事業所 | 経過措置 |
X | P社 | A | 継続中 |
事業所追加後
規約 | 事業主 | 事業所 | 経過措置 |
X | P社 | A | 継続 |
無関係 | B(追加) | 経過措置適用不可 |
組織再編等により事業所の統合・分割がある場合の例外的な継続
組織再編等の場合の経過措置の例外的な継続
組織再編等の代表的なものとして合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡があります。組織再編等が行われる場合、企業型DCまたはDBにおいて実施事業所の事業主の変更、実施事業所の統合・分割、加入者・実施事業所の移転が行われる場合があります。このような場合、上記の基本的な考え方では経過措置が終了する場合でも経過措置を継続できる場合があります。
① 組織再編等による事業主の変更
組織再編等に伴って実施事業所の統合・分割が行われる場合は、実施事業所の事業主の変更を伴う場合であっても、変更前後の事業主を実質的に同一とみなし経過措置の継続可否を判定することができます。
組織再編前
規約 | 事業主 | 事業所 | 経過措置 |
X | P社 | A | 継続中 |
組織再編に伴う事業主変更後
規約 | 事業主 | 事業所 | 設計 | 経過措置 |
X | Q社 | A | キー項目変更なし | 継続 |
② 組織再編等による事業所単位での規約の移転
組織再編等に伴って他の規約に事業所ごと移転させる場合は、移転先規約において新たな実施事業所の追加となるため、原則として当該事業所に対する経過措置は適用終了となります。
ただしDBについては、移転DB加入者に対して移転前後で同一の給付設計を適用する場合は、経過措置は引き続き適用されます。(DCについては法令通知上同様の例外措置を認める規定がありませんが、これはDCの設計のキー項目だけでは設計内容の実態を確認することが難しいことと関連しているのでしょうか。)
組織再編前
規約 | 事業所 | 経過措置 |
DB:X | A | 継続中 |
組織再編後(規約の移転後)
ア.DB規約の移転
規約 | 事業所 | 設計 | 経過措置 |
DB:Z(既存の別規約) | A | キー項目変更なし (DBはX規約と比較) | 継続 |
イ.DC規約の移転
規約 | 事業所 | 設計 | 経過措置 |
DB:X(変更なし) | A | キー項目変更なし (DCはY規約と比較) | 終了 |
③ 事業所分割に伴う事業所追加
同一事業主のもとで実施事業所の分割が行われ、それに伴い規約において実施事業所を追加する場合、上記の原則的な考え方に関わらず経過措置を引き続き適用することができます。
分割前
規約 | 事業所 | 経過措置 |
X | A | 継続中 |
組織再編後(事業所分割後)
規約 | 事業所 | 設計 | 経過措置 |
X | A | 不変 | 継続 |
B(事業所追加) (Aが分割) | 再編前のAから キー項目変更なし | 継続 |
④ 事業所統合(旧事業所ごとに設計を区分)による事業所減少
同一事業主のもとで実施事業所の統合が行われる場合、規約において実施事業所の減少を伴うことが想定されます。その場合、経過措置は企業型DC規約ごとに事業所単位で管理するため、同一の実施事業所内において新制度(経過措置終了)の適用対象となるグループが存在しないことが必要です。
ア.経過措置適用事業所同士の統合
統合前
規約 | 事業所 | 経過措置 |
X | A | 継続中 |
B | 継続中 |
組織再編後(事業所統合後)
規約 | 事業所 | 設計 | 加入者 | 経過措置 |
X | A (統合) | 統合前のAからキー項目変更なし | 旧Aに対応 | 継続 |
統合前のBからキー項目変更なし | 旧Bに対応 | 継続 |
イ.経過措置適用事業所と終了事業所の統合
統合前
規約 | 事業所 | 経過措置 |
X | A | 継続中 |
B | 経過措置終了 |
組織再編後(経過措置継続事業所に統合)
規約 | 事業所 | 設計 | 加入者 | 経過措置 |
X | A (統合) | 統合前のAからキー項目変更なし | 旧Aに対応 | 終了 |
統合前のBからキー項目変更なし | 旧Bに対応 | 終了 |
組織再編後(経過措置終了事業所に統合)
規約 | 事業所 | 設計 | 加入者 | 経過措置 |
X | B (統合) | 統合前のAからキー項目変更なし | 旧Aに対応 | 終了 |
統合前のBからキー項目変更なし | 旧Bに対応 | 終了 |
DB規約の統合・分割等がある場合の例外的な継続
DB規約の統合・分割等がある場合の例外的な継続
経過措置適用中の実施事業所が、DB規約の統合・分割等によって全部又は一部の加入者の権利義務を他のDB規約に移転させる場合、当該移転先規約において実施事業所として新たに加わる場合で、移転加入者に対して移転前後で同一の給付設計を適用する場合は、経過措置は引き続き適用されます。
DB規約の統合・分割等とは
DB規約の統合・分割等とは次の変更を指します。
Ⅱ DB法第 75 条に基づく規約の分割
Ⅲ DB法第 76 条に基づく基金の合併
Ⅳ DB法第 77 条に基づく基金の分割
Ⅴ DB法第 79 条に基づく権利義務の移転
Ⅵ DB法第 80 条に基づく規約型から基金への移行
Ⅶ DB法第 81 条に基づく基金から規約型への移行
①DB規約の統合
DB規約の統合前
DB規約 | 事業主 | 事業所 | 経過措置 |
X | P | A | 継続中 |
DB規約の統合後
DB規約 | 事業主 | 事業所 | 設計 | 経過措置 |
Y (既存規約と統合) | P | A (事業所追加) | 規約統合前のAから キー項目変更なし | 継続 |
②DB規約の分割
DB規約の分割前
DB規約 | 事業主 | 事業所 | 経過措置 |
X | P | A | 継続中 |
・・・ | ・・・ | ・・・ |
DB規約の分割後
DB規約 | 事業主 | 事業所 | 設計 | 経過措置 |
Y (既存規約) | P | A (事業所追加) | 規約分割前のAから キー項目変更なし | 継続 |
・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ |