「規制改革ホットライン」令和元年度要望(確定拠出年金関連)に対する厚生労働省の回答
【記事公開後の更新情報】
令和3年7月28日年金局長通知(法令解釈通知)「確定拠出年金制度について」を改正する通知が発出され、同日、過去分を売却しない運用商品除外が適用されたことを反映しました。
(改正内容は赤字で記載)
「規制改革ホットライン」令和元年度要望(確定拠出年金関連)に対する厚生労働省の回答
令和元年度の「規制改革ホットライン」への要望(確定拠出年金関連)に対する厚生労働省の回答は令和2年6月24日付が最後だったようです(内閣府サイト「「規制改革ホットライン」で受け付けた提案及び所管省庁からの回答について」参照)。
今回の回答で気になったものは以下のとおりです(転載の際に表現を見直している場合があります)。
No. | 内容 | 回答 | |
1 | 311021008 | 減額DBからDCへの移換希望者の割合 | 対応不可 |
2 | 311028014 | DB残余財産の清算結了前のDC移換 | 検討を予定 |
3 | 311028021 | 事業主が別DCに移動した場合の運用指図者の移動 | 対応不可 |
4 | 311028025 | 過去分を売却しない運用商品除外 | 検討を予定※ |
5 | 311028067 | 中退共からDCへの移換 厚年基金の残余財産をiDeCoに移換 | 検討を予定 |
6 | 311028068 | DCの運用における投資一任 | 対応不可 |
7 | 311029010 | iDeCo掛金のクレジットカード払い | 対応不可 |
8 | 311227013 | DC中途引き出し(ペナルティ課税) | 対応不可 |
※ 令和3年7月28日より可能に
1.減額DBからDCへの移換希望者の割合
要望(生命保険協会)
確定給付企業年金の実施事業主等が、確定給付企業年金の一部を減額し、確定拠出年金の企業型へ移行する場合において、移換加入者となるべき者の半数超が移換相当額を一時金で受取ることを希望しても、確定拠出年金への移行を可能とすること。
回答
対応不可 。
現行の規定は、企業型確定拠出年金への移換対象者のうち、企業型確定拠出年金へ資産を移換することに同意しなかった者に対して、強制的に資産が移換されることの不利益性を考慮して例外的に一時金としての支給を認めているものであることから、資産の移換を同意した者に対する一時金の支給を認めることは当該一時金の性質を大きく変えるものであり困難です。
コメント
平成26年の企業年金部会(厚労省サイト「第14回社会保障審議会企業年金部会資料3」参照)では「DC移行に係る同意をした者についても一時金での受け取りを可能とする方向で検討」とされていましたが、実現可能性が低くなりました。
これによりDBを減額せずに継続することが難しい企業では、移換希望者が半数に満たない場合にはDBの全廃を選ぶ可能性もあり、その場合年金の受給(待期)者にも影響が及ぶこととなります。
2.DB残余財産の清算結了前のDC移換
要望(信託協会)
確定給付企業年金の終了・厚生年金基金の解散に伴い残余財産を確定拠出年金へ移換する場合、確定給付企業年金・ 厚生年金基金の清算結了日以前の移換を認めていただきたい。
回答
検討を予定。
ご要望の点については、関係者の意見も踏まえ、検討します。
コメント
残余財産が確定した場合、清算結了日より前に運用できるようにした方が加入者は早く運用を開始でき、受託機関も計画的に事務が行えるようになります。以前から要望されていましたが、今回の回答で実現可能性が高まりました。施行時期は残余財産のiDeCo移換(令和4年5月施行)を意識したものとなるかもしれません。
3.事業主が別DCに移動した場合の運用指図者の移動
要望(信託協会)
企業型確定拠出年金の運用指図者要件を緩和し、他の企業型DCの運用指図者の受入(企業分割時や総合型・ グループ型DCから単独DCに移行した時等:受入側の規約で定め本人が申し出た場合に限る)を追加していただきたい。
元の勤務先が新たに実施する企業型DCに運用指図者として移ることができれば、当該運用指図者に係る事業主の責務(DC法22条等)を負うべき事業主が元の勤務先たる事業主となり、当該運用指図者に対するサポートがスムーズとなるケースや、総合型・グループ型DCの残りの事業主の負担が軽減されるケースが期待できる。
回答
対応不可。
運用指図者を他の企業型年金規約に移換することは、受給権を保護する観点も踏まえつつ、関係者等による慎重な検討が必要です。
コメント
現在の企業型DCは「事業所」単位で運営され「事業主」が各種責務を負いますが、運用指図者の場合、「事業所」「事業主」単位の運営にうまくあてはまらないケースもあり、不自然な取り扱いや取り扱いが明確でない事象がしばしば起こっているものと思われます。
4.過去分を売却しない運用商品除外
要望(信託協会)
確定拠出年金における商品除外については、3分の2の同意で除外が決定した場合においても、法律改正日の2018年5月1日に遡って強制的に商品を売却しなければならないとされているところ(全員同意の場合は当該商品の全額を売却)、労使合意等を前提に、遡って売却を行なわず、商品除外日以降、閉鎖型とすることを選択できるようにしていただきたい。
回答
検討を予定。
確定拠出年金における商品除外にあたって、商品除外日以降に当該商品を閉鎖型とする取り扱いについては、加入者利益の保護の観点等から十分な検討が必要です。
コメント
平成30年5月の法改正に係る要件ですが、短期間で見直しが検討されることとなり、令和3年7月28日より可能になりました。
5.中退共からDCへの移換・厚年基金の残余財産のiDeCoへの移換
要望(都銀懇話会)
資産移換要件の緩和。
回答
検討を予定。
①中小企業退職金共済制度から企業型確定拠出年金への資産移換
合併等が行われた場合等に限らず資産移換を認めることについては、中小企業退職金共済制度は、中小企業の従業員の福祉の増進と中小企業の振興に寄与すること等を目的とした退職金制度である一方、企業年金制度は、公的年金の給付と相まって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とした年金制度であり、それぞれ異なる制度の趣旨や目的の下で設立され、その制度固有の考え方に基づき税制上の優遇措置が講じられていることも踏まえ、慎重な検討が必要です。
②中小企業退職金共済制度から個人型確定拠出年金 (iDeCo)への資産移換
個人型確定拠出年金制 度は、公的年金の給付と相まって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的として、個人単位で加入・掛金の拠 出を可能としている年金制度であり、中小企業退職金共済制度と、制度の趣旨や目的が異なり、その制度固有の考え方に基づき税制上の優遇措置が講じられていることも踏まえ、慎重な検討が必要です。
③厚生年金基金の解散に伴う残余財産の分配金のiDeCoへの移換
社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論も踏まえ、残余財産の分配金を直接iDeCo移換可能とする方向で対応する予定です。
コメント
①②中退共からの移換
「検討を予定」に分類されているものの、具体的な説明を読む限りは「対応不可」と分類されてもおかしくない内容となっています。要件緩和の方針は既定路線であるものの、具体化が難航しているのかもしれません。
③厚生年金基金からの移換
年金制度改正法の公布によりDBの残余財産のiDeCoへの移換が認められた(厚生年金基金は認められなかった)直後にも関わらず見直しが検討されることとなりました。
厚生年金基金とDBの平仄を合わせることを要望した場合、既に解散した厚生年金基金との公平性の観点から「対応不可」となることも多かったものの、本件にはこの否認理由は適用されませんでした。
6.DCの運用における投資一任
要望(都銀懇話会)
確定拠出年金において投資一任プランの選択を許容していただきたい。また、投資一任プランをデフォルト商品に設定することも併せて検討していただきたい。
確定拠出年金でも投資一任を認めることにより、ロボアドバイザーによる運用等、多忙な勤労世代でも各加入者のリスク許容度に応じた投資を低コストで実現できるようになると考える。本件緩和による弊害は、加入者に最終的な投資判断を求める仕組みとすることや 加入者によるモニタリングの仕組みを導入することで回避できると考える。
回答
対応不可。
確定拠出年金制度は他者に運用を任せるのではなく、個人が自己の責任において運用の指図を行う制度であるため、投資 一任契約の導入を認めることは困難です。
コメント
平成30年の規制改革推進会議の答申(規制改革推進会議「規制改革推進に関する第3次答申 ~ 来るべき新時代へ ~ 」(平成30年6月4日)参照)では「資産運用経験が少ない個人にとっての選択肢として、手数料水準も考慮した投資一任契約の取扱いの可否なども含めて、海外の事例も参考に、加入者の視点に立った方策を検討することが必要である。」とされ、緩和の兆しも見られたものの、実現はしませんでした。
なお、要望を見る限りは「ロボアドバイザー」が実現していないように見える一方で、ロボアドバイザーの活用をセールスポイントとしてiDeCoの募集を行っているように見えるサイトもあり、可否の境界線がわかりにくくなっています。
7.iDeCo掛金のクレジットカード払い
要望(日本損害保険協会)
将来のiDeCoの加入申込の電子化を見据え、iDeCoの掛金について、個人払込で認められている掛金払込方法をクレジットカード払い等へ拡大する。
回答
対応不可。
ご提案については、個人型確定拠出年金の実施主体である国民年金基金連合会と関係団体間において検討した結果、ク レジットカード払いを実施することに伴う手数料等を考慮して、 当面見送られたものと承知しています。
コメント
生命保険や損害保険ではクレジットカード払いが認められるケースもあり、ポイント還元等を期待してクレジットカード払いを選ぶ契約者もいるようですが、iDeCoでは否認されました。
回答に「手数料」とあるのは主に国民年金基金が徴収する手数料でしょうか。
8.DC中途引き出し(ペナルティ課税)
要望(全国信用金庫協会)
確定拠出年金の脱退要件について、一定の条件(例えばペナルティ課税)のもと、年金資産の中途引出しを可能とするなど、規制のさらなる緩和を検討いただきたい。
回答
対応不可。
確定拠出年金制度は、老後の所得の確保を図る目的で設けられた年金制度であり、原則として、60歳到達前の中途引き出しは認められていません。 脱退一時金の支給要件の緩和については、制度の目的や税制優遇措置との関係の観点等から慎重な検討が必 要です。
コメント
「ペナルティ課税」での脱退要件緩和要望については、平成30年の規制改革推進会議専門チームの会合(内閣府規制改革推進会議会議情報「第6回規制改革推進会議専門チーム会合議事概要」参照)で議論がかみあっていないと指摘されています。