加入選択制の企業型DCに加入すべきか(メリット・デメリット)
企業型DCへの加入要否(可否)
企業型DCへの加入要否(可否)については、その制度と本人の勤務状況によって、大きく次の3つに分かれます。
② 希望すれば企業型DCに加入できる
③ 企業型DCには加入できない
①の場合でも兼業している複数の会社でDCに加入できる場合は加入先を選択することが必要です(一番下に記載)。
②に該当した場合、加入を選択した後は非加入を選択する(希望により加入者資格を喪失する)ことはできません。加入を選択しなかった場合、その後加入を選択する機会があるかどうかは制度によって分かれます。このため②の場合は、(ア)加入する(イ)加入しない、の2つの選択肢、または(ウ)後で加入する、を含めた3つの選択肢から選択することとなります。
加入選択制の場合の代替措置
加入選択制の場合、加入しなかった場合の代替措置をまず確認しましょう。
代替措置としては、前払退職金(名称は制度毎に異なります)という現金が定期的に支給される制度が一般的ですが、退職金や企業年金も審査上は認められています。代替措置の額は基本的にはDCの事業主掛金と等価とされています。
企業型DCに加入することのメリット・デメリット
前提(事業主掛金と前払退職金の単純比較)
企業型DCに加入した場合には会社が事業主掛金を拠出します。ここでは単純比較のため事業主掛金のみのシンプルな企業型DCで比較します。
代替措置についてはシンプルな前払退職金(月払)とします。
(注)DCへの加入者掛金や前払退職金の他の税制優遇制度への拠出等は最後に記載しています。
企業型DCに加入することのメリット
税制上の優遇
企業型DCに事業主掛金を拠出する時点では所得税は非課税(給与所得に係る収入金額に含まれない)ですが、前払退職金を受給すれば課税されます。
(注)節税イメージは「選択型DC等における節税額の試算(年収・家族構成別)」参照。
また、DCの運用益は非課税ですが、前払退職金の運用収益には通常は課税されます。
(注)DCでは現在凍結中の特別法人税(資産の1.173%課税)が2023年4月以降どうなるか注意が必要です(「特別法人税率の根拠と問題点」参照)。
DCの老齢給付金は受給時に課税される場合がありますが、退職所得控除(一時金)や公的年金等控除(年金)等により、影響は緩和されています。
(注)前払退職金は受給額にも運用益にも課税されるので、運用後に再度課税されることはありません。
社会保険料や労働保険料の軽減
厚生年金保険料や健康保険料等は報酬月額(標準報酬月額)や賞与に基づいて徴収されます。また雇用保険料等は賃金に応じて徴収されます。
前払退職金(月払)は報酬や賃金に該当し、企業型DCの事業主掛金はそれらに該当しないものとして扱われているようですので、企業型DCに加入することでそれらの保険料負担は軽減されます。
(注)標準報酬月額は例えば厚生年金の場合上限が65万円です(日本年金機構サイト「厚生年金保険料額表等」参照)。このため既に標準報酬月額が65万円の場合や前払退職金が少額の場合には、前払退職金の受給してもしなくても標準報酬月額が同額となる場合もあります。
その他
企業型DCの加入者は投資教育を受けるため、老後に向けた資産形成に必要な知識(金融商品や公的年金等)を習得できることもメリットです。
(注)確定拠出年金法上は求められていませんが、前払退職金を選択した従業員にも同様の説明がなされている企業もあるでしょう。
企業型DCに加入することのデメリット
受給時期の制約
DCでは仮に会社を退職した場合でも原則として60歳(注)までは給付を受給できません(「確定拠出年金における給付と税」参照)。このため60歳までに手元資金が不足しそうな場合は、加入に慎重になるべきでしょう。
(注)50歳以降で初めてDCに加入する場合は、最大65歳まで受給できない場合があります(「確定拠出年金における給付と税」参照)。また企業型DCの加入者である間は老齢給付金を受給できません。
企業型DCの事務手数料の従業員負担
企業型DCの事務手数料は加入者である間は会社が負担する制度がほとんどです。しかし加入者資格喪失後は労使いずれが負担するかは企業毎に判断が分かれています。仮に本人が負担する場合、50歳以降に加入し加入者資格を喪失してもしばらく受給できない場合は、税制メリットを上回る手数料負担となる場合もありますので注意しましょう。
(注)退職金や企業年金からの移換額があり50歳以前から積み立てた資産があるとみなせる場合は原則として60歳から受給できます。
中途退職後のiDeCoでの手数料負担
60歳前に退職した場合、転職先で企業型DCに加入しない限り、原則として資産はiDeCoに移換することとなります(「確定拠出年金間の資産移換」参照)。iDeCoでの手数料は自己負担となります。例えば早期退職しiDeCoで掛金を拠出しない場合には、DCの資産が少なく、運用益よりも手数料が大きくなるケースも想定されます。そのようになる可能性が高い場合は加入に慎重になったほうが良いでしょう。
社会保険や労働法上の給付の減少
企業型DCに加入した方が報酬や賃金が低くなるため、それに基づいて算出される社会保険給付や労働法上の給付は企業型DC加入者の方が少なくなります。代表的な給付は厚生年金の年金額です。
その他
この他、給与や家族構成により所得税をほとんど納めていない場合には、加入のメリットが小さいため加入に慎重になることが考えられます。また返済すべき借入がある場合には、借入金利とDCでの運用利回りの関係等によっては返済を優先した方が良い場合もあるでしょう。
企業型DCへの拠出と他の制度への拠出の比較
前払退職金を受給した場合、他の税制優遇のある制度に拠出することもできます。このため企業型DCへの加入を検討する際は、他の税制優遇制度等と比較することも必要です。
iDeCoへの拠出
企業型DCに加入しなかった場合、個人型DC(iDeCo)に加入し掛金を拠出することができます(「iDeCoと企業型DCの選択・併用・前払退職金」参照)。両制度で拠出できる額も異なります。企業型DCへの事業主掛金とマッチング拠出の可否(拠出できる額)、iDeCoの拠出限度額、企業型DCとiDeCoの同時加入の可否は確認しておきましょう。企業型DCに拠出できる額が著しく少ない場合等にはiDeCoへの拠出を選択することも考えられます。
またiDeCoやマッチング拠出の加入者掛金は全額所得控除となります。拠出時に非課税となる理由や節税効果が事業主掛金とは異なりますのでご注意下さい(「個人型DC(iDeCo)やマッチング拠出における節税額の試算」参照)。
NISAや財形年金貯蓄への拠出
60歳まで受給できないのは不安だが運用益が非課税なのは魅力と考える場合には、 前払い退職金を受給しNISAや財形年金貯蓄等に拠出することも考えられます(「DCとNISAや財形年金貯蓄との比較」参照)。また生命保険(個人年金)商品も検討対象になるかもしれません。
(注)NISA、財形年金貯蓄、生命保険(個人年金)等はDCと併用することができ、かつ当該制度への拠出額がDCの拠出限度額に影響することはありません。
兼業先の双方が確定拠出年金(企業型DC)を実施している場合
複数の企業に勤務している場合で、両方の会社で企業型DCの加入対象職種となっていた場合でも、両方の企業型DCに加入することはできません。このような場合は、次の優先順位で加入する企業型DCが決まります。
② ①の選択をしなければ事業主掛金が高い方(注2)
③ ②が同額なら先に加入していた方に継続加入
④ ③が同時なら国が指定
(注1) ①では、(将来も含む)事業主掛金の高低、事務費の本人負担額、マッチング拠出の可否、個人型同時加入の可否、運用商品等を考慮して加入する制度を選択します。加入しなかった制度では、加入に代わる措置(掛金相当額の前払等)が適用されます。全員加入の制度を優先したほうが会社の実務はスムーズでしょう。
(注2) 加入者が事業主掛金を選択する制度の場合に②をどうあてはめるかについては、法令通知では示されていないと思われます。