公的保険における企業年金・iDeCoの取扱いの課題

会社員が加入する健康保険組合や協会けんぽ(社保)と退職後に加入する国民健康保険(国保)では保険料の算出基準が大きく異なります(※)。このため公的保険における企業年金の取扱いで完全に合理性を保つことは難しいと思われます。

※ 自営業者等の所得の捕捉が難しいことや事業主負担の有無が異なること等が影響しているといわれています。なお国民健康保険料は保険税として徴収することも認められています。

退職後の就労状況による健康保険料(企業年金の給付に係る額)の違い

企業年金の給付を年金で受給した場合、退職後に国保の被保険者となっていれば年金受給額に応じた保険料が徴収されます(※)が、社保の被保険者となっていれば年金受給額に対する保険料は徴収されません。

※ 国民健康保険料の構成要素の1つが前年の所得に応じた「所得割」です。所得割は「(総所得金額ー33万円)×保険料率」で算出され、総所得額には「公的年金等収入金額(DCの年金受給額を含む)-公的年金等控除」が含まれます。

年金受給よりも一時金受給が有利

一時金で受給した場合、退職所得は国民健康保険料の所得割算出上の総所得金額に含まれないため、国保の被保険者にとって年金で受給するよりも有利となります。

企業年金・個人年金部会における年金選択率に関する意見

社会保障審議会企業年金・個人年金部会「社会保障審議会企業年金・個人年金部会(旧企業年金部会)の開催」参照)の資料によれば、企業年金における年金選択率(一時金との併給を含む)は確定給付企業年金(DB)では約3割、確定拠出年金(DC)では約1割しかありません。これに対し同部会では法の趣旨に沿わないといった意見が出されており、複数の団体が受給時の課税の見直しを検討すべきとしています。第4回部会資料では「年金と一時金に対する社会保障制度や税制の違いがある」との記載もありますが、公的保険の取扱いの見直しを求める意見は今のところないようです。同部会においてこの点も問題提起がなされることが期待されます。

DCの掛金相当額に対する保険料徴収

企業年金の課税においては二重課税とならないよう、拠出時と給付時のいずれかのみ課税することが基本的な取り扱いとなっています。一方公的保険の場合、拠出時(※)と給付時の双方で保険料が徴収される場合があります。

※ 社保の場合基本的にDCの事業主掛金は健康保険料の徴収対象外ですが、給与の一部を加入者掛金(マッチング拠出やiDeCoの掛金)として拠出しても健康保険料は軽減されません。また国民健康保険料の所得割はiDeCoの掛金を拠出しても軽減されません(所得割の算出に用いる総所得金額の計算において小規模企業共済等掛金控除額は控除されません)。