令和3年度厚労省税制改正要望(DB併用企業のDC拠出限度額調整と2万円iDeCo)

令和3年度厚生労働省税制改正要望

令和2年9月30日に厚生労働省は令和3年度税制改正要望を公表しました(厚生労働省「令和3年度主な税制改正要望の概要」参照)。DC関連の要望は次のとおりです。

国民が高齢期における所得の確保に係る自主的な努力 を行うに当たって、これに対する支援を公平に受けられるようにする等その充実を図る観点から、企業年金・個人年金の在り方を検討し、税制上の所要の措置を講ずる。
(注)現在、社会保障審議会において、企業型DC・個人型DCの拠出限度額について、DBごとの
掛金額の実態を反映し、より公平な算定方法に改善を図ること等を検討中。

 現在社会保障審議会で検討されている拠出限度額のイメージ図は次のとおりです(DBも企業型DCも実施していない場合は2.3万円のまま)。施行日は最短だと令和4年10月1日が想定されていると推測されます。この施行予定日は、企業型DCのiDeCo加入に係る年金制度改正法の施行日であり、拠出限度額について規定した政令条文(今回の要望でも改正対象となる)が改正される日です。

以下は、社会保障審議会企業年金・個人年金部会での検討内容について記載しています。

令和2年社会保障審議会企業年金・個人年金部会

令和2年7月9日に開催された第12回社会保障審議会企業年金・個人年金部会厚生労働省サイト「社会保障審議会(企業年金・個人年金部会)」参照)では、確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)の拠出限度額を確定給付企業年金(DB)の水準に応じて定める改正案の検討が本格化しました(第13回部会・第14回部会で関係団体にヒアリングを実施)。

DB加入者の企業型DCの拠出限度額を「5.5万円の2分の1」から「5.5万円-仮想DB掛金」に

企業型DCの拠出限度額の検討内容

企業型DCの拠出限度額は通常は5.5万円ですが、DB加入者はその2分の1の2.75万円とされています。しかしDBの給付水準が低い場合には更に拠出できるべきとの指摘が以前からなされていたことから、それを反映することが検討されています。

第12回部会では具体的に、企業型DCの拠出限度額を「5.5万-仮想DB掛金」とする案が検討されています。

DBの給付水準が低い企業への影響

上記改正が行われた場合、DBの給付水準が低い企業では企業型DCの拠出限度額が増加します。DBの標準掛金をそのまま使った場合には、拠出限度額が上がる企業は約9割と見込まれており、多くの企業が賛成(反対はしない)立場になるものと思われます。

一方従業員については企業毎の活用方法によって評価が分かれそうです。例えばそれにより退職金から企業型DCへの移行割合が引き上げられる企業と、選択型DCで拠出可能額が増加する企業では従業員の評価も異なるでしょう。

DBの給付水準が高い企業への影響

一方で、DBの給付水準が高い企業(標準掛金を第1回回部会では約1割?)では企業型DCの拠出限度額の引き下げを求められるため、該当企業は反対することが予想されます。また従業員も前払による所得税・社会保険料等の増加が起こることに反対する者が少なくないでしょう。

このため、従来の「2分の1」との選択を認めるかどうかや、経過措置として認める場合の経過措置期間が1つの争点になると予想されます。部会でヒアリングを受けた関係団体の多くも経過措置を要望しています。

DB加入者のiDeCoの拠出限度額を「1.2万円」から「5.5万円-仮想DB掛金-企業型DC掛金」(上限2万円)に

iDeCoの拠出限度額の検討内容

現在iDeCoの拠出限度額はDB加入者は月1.2万円、企業型DC加入者(DB非加入)は月2.0万円(令和4年10月以降の対象拡大後は「5.5万円-企業型DCの掛金」といずれか低い額)とされています。

第12回部会ではこれを「5.5万円-仮想DB掛金-企業型DC掛金」(上限2万円)とする案が検討されています。

これが実現した場合、企業型DCに加入していないDB加入者のうちiDeCoの拠出限度額が増加する者は9割以上になるものと見込まれます。
DBに加入していない企業型DC加入者については令和4年10月改正後の基準と同じです。
DBと企業型DCの双方に加入している場合、仮に企業型DCに事業主掛金を2.75万円拠出している場合でも、DB加入者のうちiDeCoの拠出限度額が増加するのは7割程度(DB標準掛金をそのまま用いた場合)となります。大部分の企業型DC加入者の事業主掛金が2.75万円を下回っていることを考えると、iDeCoの拠出限度額が増加する加入者の割合は7割を大きく上回りそうです。

(注)企業型DCの拠出限度額引き上げを受けて企業型DCの掛金を増額した企業では、それによってiDeCoの拠出限度額が減少する場合もあります。

公務員のiDeCo拠出限度額

公務員のiDeCoの拠出限度額も現在「1.2万円」です。公平性の観点からは、公務員の退職等年金給付についても仮想掛金を算出しiDeCoの拠出限度額に反映することが望ましいでしょう。

第12回部会では「公務員」との直接的な記載はなく(議事録も)、年金払い退職給付をDBと同様に扱う旨の小さな記載はあるものの水準についての資料は示されませんでした。

DBの給付を仮想DB掛金に換算する方法

DBの掛金には標準掛金・特別掛金・特例掛金等がありますが、将来の勤務に係る掛金という性格を有する標準掛金に類するものを使う方向で検討されています。ただしDBの標準掛金が「給与×一定率」の制度でも、仮想DB掛金は「定額」とする案が検討されています。

予定利率の取扱い

なお、例えば掛金計算上の予定利率を高くして仮想DB掛金を抑える(DCの拠出限度額を引き上げる)といったDBの財政上好ましくない調整を排除し公平性を図るため、予定利率等いくつかの前提は揃えることになるかもしれません。令和2年10月14日の第16回部会で日本年金数理人会が提案した計算方法ではDBの予定利率毎に一定率を乗じることで公平性を図る案となっています。なおこの提案では「5.5万円」を按分する手法を採用しているため、5.5万円の算出に用いた厚生年金基金の免除保険料算出に用いた利率による拠出限度額を近似していると考えられます。提案資料を見ても3.5%超の予定利率に対応しています。この案を採用した場合、仮想DB掛金が標準掛金よりも低くなる企業が多いでしょう。

終身年金の取扱い

第16回部会で日本年金数理人会が提案した計算方法には「終身年金先は保証期間相当の平均標準掛金額に一定率を乗じることで評価することも可とする」とあります。この一定率が「終身年金の割増」ではなく当該記載の直前の表にある「予定利率毎の一定率」を指す(即ち終身部分は仮想DB掛金に反映されない)場合、「5.5万円」との整合性は欠くと思われますが、公務員や一部のDB実施企業(終身年金採用)にとっては仮想DB掛金が低く算出される(DCの拠出限度額が高く算出される)メリットがあります。

「穴埋め型」との関係

昨年の企業年金・個人年金部会で説明された「穴埋め型」との関係

令和元年の企業年金・個人年金部会で説明された「穴埋め型」の提言の概要は次のとおりです厚生労働省サイト「第7回 社会保障審議会 企業年金・個人年金部会 資料」記載の概要を参考に作成)。今回の検討で青字部分が解決されれば「穴埋め型」は大きく前進することとなり、特別法人税撤廃、DBの拠出限度額、DBの中途引き出し要件、拠出限度額の未使用枠の翌年繰越等から次の検討課題が選ばれるかもしれません。

・全国民について、個人別に老後のための非課税貯蓄枠を設ける
・ 拠出時(枠内)と運用時は非課税、支給時(※)に課税 (EET)
 ※ 現在は制度間で異なる中途引き出し要件をどうするかは今後の課題
・ 個人拠出は「非課税枠-DB使用枠(※1)-DC拠出額」まで非課税(※2)
 ※1 実際の拠出額ではなく、一定の前提を置いて数理的に計算
  ※2  各拠出データの連携方法は今後の課題
・ 使い残しの枠は翌年以降への繰り越しを認める
・ 退職一時金については、受給段階ではなく、拠出段階として控除を適用
 (=受け取った金額を退職所得勘定に非課税で拠出することを認める)
 

今回の限度額調整案で公平性は確保されるのか

DCの拠出限度額については元々DBの有無で差を設けていたことを考えると、DBの給付水準に応じてDCの拠出限度額に差を設けることは公平性を高めるものと考えられます。

しかし同一DB内で「割り勘」すると短期退職者やDBの給付額(拠出額)算出に用いる基準給与が低い者は「割り勘負け」することとなります。そのため現在よりも企業間の公平性は高まるものの個人間の公平性では不十分な点が残るといえそうです

また、今回の改正案では中退共や特退共との拠出限度額の調整要否についての見解が示されていない(第13回・第14回部会でも厚生労働省や他の参加者から言及はなかったようです)ため、今後他の審議会等で公平性の観点から調整を求める意見が出され、DB・DCの拠出限度額が更に削られる可能性も残っているように思われます。

また給付時課税と穴埋め型の比較が十分なされていないことも懸念材料と思われます。給付時課税が適切に行われれば今回の案のような「割り勘負け」する従業員はいなくなり、中退共・特退共併用者の給付(拠出)を抑制しなくても不公平ではないでしょう。そして今後仮に公平性は全て給付時課税で適切に対応することとなった場合には、今回の改正方針は取り消されるかもしれません。

このため今回の改正案は、公平性を高めるうえでは前進と評価できるものの、更に前進するためにはもしかすると今回の前進分を引き返して方針転換する必要があるかもしれません。現時点ではDBの給付設計に制約を加えないとの方針が示されていますが、企業型DC(特に退職金や企業年金から移行した企業型DC)の設計についても現時点では減額を求めるべきではないように思われます。そのうえで、中退共・特退共の取扱いや給付時課税のあり方について早急に検討を進めることが望ましいのではないでしょうか。