確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)をやめたい(解約・引き出し・脱退したい)場合

【記事公開後の更新情報】 

令和2年3月3日に「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」が国会に提出され同年5月29日に成立し6月5日に公布されました「令和2年確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)改正法案(年金制度改正法案)の国会提出」参照)。これにより令和3年4月からは個人型での請求要件のうち通算拠出期間の3年要件も5年に見直される他、未婚のひとり親で一定の所得以下の者も国民年金保険料の納付が免除され、脱退一時金の受給対象者となりました。また平成29年1月改正で禁止された国民年金被保険者となれない者(60歳未満)の脱退一時金の受給が、令和4年5月以降改めて可能となりました(ただし施行前2年内の加入者資格喪失者までしか遡及しません)。
(改正事項は赤字で記載)

確定拠出年金を続けることが難しい場合

確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)は老後資金を準備するための制度として税制優遇を受けることができます。しかし個人の生活状況によっては老後よりもまず当面の生活を重視しなければならないケースもあるでしょう。例えば会社員が60歳前に退職した場合や、自営業者が景気や災害で収支が悪化した場合等には、DCを続けることが難しくなりやすいでしょう。その場合、法律上どのような選択肢があるのかを確認した方が良いでしょう。

現在の状況の確認

確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)は原則として60歳まで受給(引き出し)ができない制度です。退職や国民年金被保険者の種別変更(例えば専業主婦となり第3号被保険者となった場合等)があっても60歳までは原則として受給できません。ただし(ア)60歳到達前でも受給できるケースや(イ)60歳到達後でも受給できないケースもわずかに存在します。

確定拠出年金をやめたくなった場合、まずは現在の自身の状況を確認しましょう。

A.企業型DCに資産がある場合

 A1.企業型DCで掛金を拠出中
    (企業型DCの加入者)
 A2.60歳前に退職し企業型DCへの拠出を終了
    (企業型DCの移換待期者)
 A3.60歳に到達し企業型DCへの拠出を終了(退職者・在職者共通)
    (企業型DCの運用指図者)

B.個人型DC(iDeCo)に資産がある場合

 B1.iDeCoで掛金を拠出中
    (iDeCoの加入者)
 B2.60歳未満でiDeCoに掛金を拠出していない(運用中)
    (iDeCoの運用指図者)
 B3.60歳以上でiDeCoに掛金を拠出していない(運用中)
    (iDeCoの運用指図者)

C.退職後放置したため企業型DCの資産が自動移換された場合
  (資産は国民年金基金連合会に自動移換中:掛金を拠出できません)

 C2.60歳未満の連合会移換者(運用はできません)
 C3.60歳以上の連合会移換者(運用はできません)

資産を引き出すことの可否

障害給付金が受給できる場合

上記のA1からC3のいずれの場合であっても下記の①~④のいずれかに該当した場合は、障害給付金非課税で受給できます。加入者となる前に発した傷病も支給の対象となります。

① 障害基礎年金の受給者  
② 身体障害者手帳が交付され、1級から3級に該当 
③ 療育手帳が交付され、重度の者に該当 
④ 精神障害者保健福祉手帳が交付され、1級または2級に該当

なおC2やC3の場合には直接請求できませんので、まずはiDeCoの運営管理機関にB2やB3となる申し出を行ったうえで請求します。

老齢給付金が受給できる場合

既に60歳以上の運用指図者の場合(A3、B3)は、60歳以前のDC加入期間が10年あれば直ちに老齢給付金を請求できます。退職金から資産を移換した場合はDC加入前の勤続年数を、企業年金から資産を移換した場合はDC加入前の当該企業年金加入年数を、60歳前にB2の期間(運用指図者期間)があればその年数を、重複しないように加算した期間(「通算加入者等期間」)が10年あれば、直ちに老齢給付金を請求できます。
また、10年に満たない場合でもその年数に応じた年齢「確定拠出年金における給付(老齢・障害・死亡・脱退)と税」参照)に達していれば請求できます。

60歳以上の自動移換者(C3)の場合も、通算加入者等期間に応じた年齢に達していれば老齢給付金を受給できます。ただし直接は請求できませんので、まずはiDeCoの運営管理機関にB3となる申し出を行ったうえで請求します。

脱退一時金が受給できる場合

企業型DCの移換待期者(A2)の場合は、資産が1.5万円以下の場合でその他の要件「脱退一時金の受給要件」参照)も満たせば脱退一時金を受給できます。

また60歳未満でA2・B2・C2の場合で、国民年金の第1号被保険者であって国民年金の「保険料免除者」(下記)である場合(※1)、その他の要件「脱退一時金の受給要件」参照)(※2)も満たせば脱退一時金を受給できます。ただしA2(1.5万円超)(※3)・C2の者は直接は請求できませんので、まずはiDeCoの運営管理機関にB2となる申し出を行ったうえで請求します。
※1 国民年金の被保険者となれない海外帰国者等も可能に【令和4年5月施行】
  (施行前の加入者資格喪失者もそこから2年経過前なら請求可能
※2 通算拠出期間要件は3年以下から5年以下に緩和【令和3年4月施行】
     (施行前の加入者資格喪失者もそこから2年経過前なら請求可能)
※3 A2(1.5万円超)の一部も企業型DCで直接請求できることに【令和4年5月施行】

またB2の場合で平成28年12月以前に加入者資格を喪失している場合は、資産が25万円以下または加入者期間が3年以下の場合には経過措置により脱退一時金を受給できる場合があります。C2の場合はB2になった後2年経過後に経過措置として脱退一時金を受給できる場合があります。場合分けが多く、審査ミスの発生リスクを当サイトでも懸念してきたわかりにくい要件であり「脱退一時金の受給要件」参照)、運営管理機関等に受給可否を相談した方が良いでしょう。

保険料免除者

確定拠出年金法で規定する「保険料免除者」は次のとおりです。免除の要件や手続きの詳細は年金事務所や日本年金機構等にご確認ください日本年金機構サイト「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」参照)。なお(記録関連)運営管理機関のサイトを見る限り、若年者納付猶予制度の対象者も保険料免除者と扱われているようです。

国民年金保険料の免除理由確定拠出年金法上の
「保険料免除者」
産前産後期間該当せず




障害基礎年金・被用者障害年金(2級以上)該当せず
生活保護の生活扶助を受けている該当
ハンセン病療養所などで療養該当せず



前年の所得が一定以下該当
生活扶助以外の一定の扶助
一定以上の障害で一定以下の所得

寡婦(※)で一定以下の所得

※ 未婚のひとり親も令和3年4月から対象

天災その他
(部分免除)
学生納付特例
(参考)国民年金の被保険者以外(海外帰国者等
(令和4年5月以降は受給できる場合があります)
該当せず

 

掛金の拠出を中止(停止)または抑制することの可否

上記に該当せず資産を引き出すことができない場合でも、掛金の拠出を中止または抑制したい場合の取扱いは次のとおりです。

企業型DCの加入者の場合

企業型DCの加入者(A1)の場合、会社が拠出する事業主掛金を本人の希望で中止することはできません。ただし、企業型DCの一部の制度では、事業主掛金を加入者が選択できる規約となっています。その場合は通常、0円以外の選択肢のうち最低額まで事業主掛金を引き下げることができると思われます。
なお、マッチング拠出を実施している場合、マッチング拠出部分は本人の希望でいつでも中断できます

iDeCoの加入者の場合

iDeCoの加入者(B1)の場合、「加入者資格喪失届」をiDeCoの運営管理機関に提出することで、拠出を中止できます。この届を提出した場合、iDeCoの運用指図者(B2)となります。
iDeCoに従業員が拠出した場合に会社が上乗せ拠出をしている企業「中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)」参照)では、iDeCoへの本人拠出を中止すると会社の拠出も中止されますのでご注意ください。