令和7年度与党税制改正大綱におけるDC(iDeCo等)拠出限度額の引き上げ案、退職所得控除(5年ルール)の改正案

令和7年度与党税制改正大綱の公表

令和6年12月20日に与党(自由民主党・公明党)は「令和7年度税制改正大綱」自民党サイト参照)を公表しました。今回の大綱では「103万円の壁」に関連する次の改正案が示された他、DC(iDeCo等)の拠出限度額の引き上げ案(後述)、退職所得控除の5年ルールの5年延長案(後述)、年金課税に係る改正案(後述)等も示されました。ただし、今後野党との協議により見直される可能性があります。

「103万円の壁」関連

・給与所得者の非課税枠を103万円から123万円に引き上げる。
 (基礎控除48万円58万円
 (給与所得控除55万円65万円
 ※1 2025年分から
 ※2 住民税の基礎控除は現行を維持

特定扶養控除(子が19~22歳)が満額適用される子の年収(上限)を103万円から150万円に引き上げる。

 確定拠出年金(iDeCo等)の拠出限度額の引き上げ案

「穴埋め型」による引上げ(iDeCo)

今回の大綱には次の内容が記載されています。

勤務先の企業が企業年金を設けているかどうか、企業年金の形態がどうであるかといった違いにかかわらず、継続的に、かつ、平等に資産形成をできる環境の整備を進めるため、iDeCoの拠出限度額について、「穴埋め型」による引上げを行う。

なお穴埋め型については、「第37回社会保障審議会企業年金・個人年金部会(2024年11月8日)資料2」において次のとおり説明されていますが、大綱では退職一時金の拠出は反映されていません。なお、過去には税制調査会でも穴埋め型について取り上げられています(「穴埋め型(全国民共通の非課税貯蓄枠)の引退後所得保障制度」参照)。

 提案されている「穴埋め型」の仕組みの骨格は、具体的には、
 ・全国民について、個人別に老後の備えのための非課税拠出の共通枠を設定する

 ・現役時代は一定の上限額まで非課税による拠出(掛金拠出)を認め、運用段階についても非課税、支給時に課税(EET)
 ・企業年金がある場合は、DB・DCへの企業の掛金額を上限額から控除し、残余がある場合は個人の所得から非課税拠出が可能
 ・使い残しの枠は翌年以降への繰り越しを認める
 ・退職一時金については、受け取った金額を退職所得勘定に非課税で拠出することを認める
といったものである。

7千円の引き上げ(企業型DC・iDeCo)

今回の大綱には次の内容が記載されています。

豊かな老後生活に向けて、公的年金を補完し、老後に向けた資産形成を支援するという私的年金の役割を踏まえ、賃金上昇の状況を勘案し、確定拠出年金の拠出限度額について7,000円の引上げを行う。
また、公的年金による保障が相対的に限定的な個人事業主のiDeCo等の拠出限度額についても、同額の引き上げを行う。

これにより拠出限度額は
企業型(DB非実施):55,000円⇒62,000円
iDeCo(自営業者等):68,000円⇒75,000円
とし、これを元に自営業者以外のiDeCoの拠出限度額等を規定するものと予想されます。

今後の検討方針

今回の大綱には次の内容が記載されています。

確定拠出年金については、加入率が3分の1以下にとどまる、拠出限度額の近くまで拠出している者の割合が低い、高所得者ほど利用者が多く拠出額も多いといった実態もある。今後、こうした実態を踏まえ、拠出限度額の考え方について、各国の制度も参照しながら、次期年金制度改革までに検討し、結論を得る。

退職所得控除・年金課税の改正案

過去に退職手当等を受けている場合の退職所得控除の重複排除要件(いわゆる5年ルール)の改正

今回の大綱には次の内容が記載されています。

退職手当等(※)の支払を受ける年の前年以前9年内に老齢一時金の支払を受けている場合には、当該老齢一時金等について、退職所得控除額の計算における勤続期間等の重複排除の特例の対象とするほか、老齢一時金に係る退職所得の受給に関する申告書の保存期間を10年(現行:7年)とする。

※ DCの給付(令和4年4月より「19年内」)は除く
  (他の給付は現在「4年内」

給与と年金を受給する者への課税の見直し

今回の大綱には次の内容が記載されています。

同じ収入額でも給与収入のみの者と、給与収入と公的年金等を有する者の間で税負担が異なることについて、公平性の観点から指摘がなされてきた。
年金制度改革の中で在職老齢年金制度の見直しが検討されているが、在職老齢年金支給停止調整額の引上げが行われると、給与収入を得つつより多くの年金を受け取る者が増えることが想定され、税負担の公平性の問題がより大きく顕在化する。
こうした状況を踏まえ、公平性の確保に向けた第一歩として、公的年金について、在職老齢年金制度の見直しが行われた場合には、公的年金収入が増加する者にはその年金収入の増加と併せて手取りが減少しない範囲で、また、見直しによって年金収入に変化がない者については影響が生じない形で、税負担額の調整を行う。
具体的には、給与所得控除と公的年金等控除の合計額の上限280万円とすることとし、在職老齢年金制度の見直しの帰趨を踏まえ、令和8年度税制改正において法制化を行う。

今後の検討課題(退職所得・年金課税)

今回の大綱では具体的に次の課題等について検討が必要としています。
・私的年金等(拠出時非課税)の給付時課税が限定的
・私的年金等の税制上、一時金払いと年金払いが中立的ではない
・勤続1年あたりの退職所得控除額が勤続20年を超えると増加
(見直し例)
・各種私的年金共通の非課税拠出枠
・個人退職年金勘定(※)の創設

過去には税制調査会でも個人退職年金勘定について取り上げられています(「第3回税制調査会とJIRA(日本版個人退職年金勘定)構想」参照)。