穴埋め型(全国民共通の非課税貯蓄枠)の引退後所得保障制度

令和2年度与党税制改正大綱における検討課題「穴埋め型」

令和元年12月12日に与党(自由民主党・公明党)は「令和2年度税制改正大綱」を公表しました自民党サイト「令和2年度税制改正大綱」参照)。この大綱には次のような記載があり、税制調査会における答申と同様、「穴埋め型」(各種制度共通の非課税限度額)が検討課題として認識されています。

【私的年金等に関する公平な税制のあり方】

働き方やライフコースが多様化する中で、老後の生活に備えるための支援について、働き方によって有利・不利が生じない公平な税制の構築が求められている。諸外国を見ると、例えばイギリスやカナダにおいては、加入する私的年金の組み合わせにかかわらず同様の非課税拠出が行えるように、各種私的年金に共通の非課税拠出限度額が設けられている。こういった諸外国の例も参考に、わが国においても、働き方によって税制上の取扱いに大きな違いが生じないような姿を目指す必要がある。

 

税制調査会における「穴埋め型」の提言と答申

政府税制調査会における穴埋め型(全国民共通の非課税貯蓄枠)の提言は平成27年内閣府サイト「第19回 税制調査会(2015年9月10日)資料一覧」参照)及び平成30年内閣府サイト「第19回 税制調査会(2018年10月23日)資料一覧」参照)に森戸教授からなされ(注)、海外の事例報告等を経て、令和元年の答申にも検討課題として反映されました。

(注)報告時の参考文献は、 臼杵政治・松浦民恵「退職給付税制改革に関する試論――働き方に中立で公平な老後準備 への優遇策の検討」(2002年)、佐藤英明「退職金と企業年金への課税について――JIRA再論(上)(下)」他。

提言の概要

「穴埋め型」の提言の概要は次のとおりです厚生労働省サイト「第7回 社会保障審議会 企業年金・個人年金部会 資料」記載の概要を参考に作成)

・全国民について、個人別に老後のための非課税貯蓄枠を設ける
・ 拠出時(枠内)と運用時は非課税、支給時(※)に課税 (EET)
 ※ 現在は制度間で異なる中途引き出し要件をどうするかは今後の課題
・ 個人拠出は「非課税枠-DB使用枠(※1)-DC拠出額」まで非課税(※2)
 ※1 実際の拠出額ではなく、一定の前提を置いて数理的に計算(計算方法は今後の課題)
  ※2  各拠出データの連携方法は今後の課題
・ 使い残しの枠は翌年以降への繰り越しを認める
・ 退職一時金については、受給段階ではなく、拠出段階として控除を適用
 (=受け取った金額を退職所得勘定に非課税で拠出することを認める)

税制調査会の答申

全国民共通の非課税貯蓄枠については、令和元年9月26日に取りまとめられた税制調査会の答申でも検討課題とされました「政府税制調査会答申「経済社会の構造変化を踏まえた令和時代の税制のあり方」」参照)

社会保障審議会企業年金・個人年金部会における穴埋め型の議論

令和元年の社会保障審議会企業年金・個人年金部会でも「穴埋め型」について議論されましたが、令和2年度の税制改正には反映されず、継続検討課題とされました厚生労働省サイト「社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の整理」参照)
なお、この部会の前身である企業年金部会で同様の議論がなされた際も継続検討課題とされており(下記)、検討が長期化しています。

社会保障審議会企業年金部会における「イコールフッティング」の議論

DC単独の拠出限度額という要件を「DC+DB」の非課税枠という要件に見直すことは、平成26年の社会保障審議会企業年金部会(現在は企業年金・個人年金部会に改組)でも「イコールフッティング」の主要テーマの一つとして事務局から提案されています厚生労働省サイト「第9回社会保障審議会企業年金部会資料2-1」参照)

拠出限度額の論点

DB・DC制度の拠出限度のイコールフッティング

・DCにおいて拠出限度額を超過した場合にDB等により調整を行っている実態等からみて、拠出限度額についてはDBとDCを一体的に考える(両方を合わせた一つの水準を設定する)べきではないか。

拠出限度の設定方法

・現在のDCは8割以上の企業で昇格・昇級に伴い掛金が増える制度であることに鑑み、定額ではなく給与(総報酬)に対する一定割合としてはどうか。

拠出限度の水準

・拠出限度の水準については現在の企業の退職給付水準を勘案して設定すべきではないか。 

・企業年金が将来的に公的年金を十分に補完できるような仕組みとして、公的年金の給付水準調整等を一定程度勘案した改定のルールを検討してはどうか。 

給付額の論点

・DCもDBも60歳以上から支給開始可能としてはどうか。
 ※ DCの通算加入者等期間要件、DBの50歳以上要件を廃止。 
・DCは一定水準減額することを条件に中途引き出しを認めてはどうか。
・年金受給を促す措置(一時金を年金原資より抑える等)を設けてはどうか。

企業年金部会における議論の整理

平成27年1月20日に公表された議論の整理厚生労働省サイト「社会保障審議会企業年金部会における議論の整理」参照)においては、これらは将来の方向性としては理解できるものの、早急な制度改革はむしろ制度の普及・拡大を阻害し従業員の老後生活に支障を来しかねないという意見が多く出されたため、今後引き続き議論を重ねていく必要があるとされました。