2024年(令和6年)財政検証結果と被用者拡大等のオプション試算結果の公表

2024年財政検証結果の公表

第16回社会保障審議会年金部会

令和6年7月3日の第16回社会保障審議会年金部会厚生労働省サイト「第16回社会保障審議会年金部会」参照)で2024年財政検証結果厚生労働省サイト「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」参照)が報告されました。

2024年財政検証結果(概要)

今回の財政検証の結果(概要)は次のとおりです厚生労働省サイト「第16回社会保障審議会年金部会資料1」参照)

ケース給付水準調整終了後の所得代替率
(調整終了年度)
実質賃金上昇率実質運用利回り
成長型経済移行・継続ケース57.6%
(2037)
1.5%1.7%
高成長実現ケース56.9%
(2039)
2.0%1.4%
過去30年投影ケース50.4%
(2057)
0.5%1.7%
1人当たりゼロ成長ケース(注)0.1%1.3%

(注)国民年金は2059年度に積立金がなくなり完全な賦課方式に移行。その後、保険料と国庫負担で賄うことのできる給付水準は、所得代替率37%~33%程度。

オプション試算結果

今回は次の5テーマ(10案)の制度改正オプション試算がなされています厚生労働省サイト「第16回社会保障審議会年金部会資料1」参照)

年金制度改正のオプション調整終了後の所得代替率(調整終了年度)
変更テーマ変更内容成長型経済移行・継続ケース過去30年
投影ケース
変更しない場合57.6%
(2037)
50.4% (2057)
被用者保険の
更なる適用拡大
・企業規模要件の廃止
・5人以上個人事業所に係る非適用業種の解消
58.6%
(2035)
51.3% (2054)
(上記に加え)
・短時間労働者の賃金要件の撤廃(又は同等の効果が得られる最低賃金の引き上げ)
59.3%
(2034)
51.8% (2052)
(上記に加え)
・5人未満の個人事業所も適用事業所
60.7%
(2028)
53.1% (2048)
・所定労働時間が週10時間以上の全ての被用者を適用61.2%
(調整なし)
56.3% (2038)
基礎年金の
拠出期間延長※1
・基礎年金の保険料拠出期間を現行の40年から45年(20~64歳)に延長
(拠出期間に合わせて基礎年金は増額)
64.7%
(2038)
57.3% (2055)
マクロ経済スライドの調整期間の一致・基礎年金(1階)と報酬比例部分(2階)に係る調整期間を一致させる
(基礎年金拠出金の仕組みの見直しが必要)
61.2%
(調整なし)
56.2% (2036)
在職老齢年金制度の見直し・在職老齢年金制度を撤廃(計測不可) ▲0. 5%
標準報酬月額の上限(65万円)の見直し75万円(上限該当者4%相当)(計測不可)+0.2%※2
83万円(上限該当者3%相当)+0.4%※2
98万円(上限該当者2%相当)+0.5%※2

※1 厚労相は今回の結果を受けて、同日「(この案を採用する)必要性は乏しい」とコメント。
※2 人口の前提は出生低位

年金制度の変更方針の決定時期(骨太の方針)

令和6年6月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024 ~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~」(骨太方針2024)では、「働き方に中立的な公的年金制度の構築等」として以下の記載がある「骨太の方針(「経済財政運営と改革の基本方針2024」【閣議決定】)におけるiDeCoと公的年金の改革方針」参照)ことから、今回のオプション試算の結果も踏まえ、2024年末までに公的年金制度改正の方向性が示されるものと予想されます。また、iDeCoの規制緩和の方向性も年内に示されるものと予想されます。

【働き方に中立的な公的年金制度の構築等】

公的年金については、働き方に中立的な年金制度の構築等を目指して、今夏の財政検証の結果を踏まえ、2024年末までに制度改正についての道筋を付ける。勤労者皆保険の実現のため、企業規模要件の撤を始め短時間労働者への被用者保険の適用拡大の徹底、常時5人以上を使用する個人事業所の非適用業種の解消等について結論を得るとともに、いわゆる「年収の壁」を意識せずに働くことができるよう、「年収の壁・支援強化パッケージ」の活用促進と併せて、制度の見直しに取り組む。

【iDeCoの規制緩和】

iDeCo(個人型確定拠出年金)拠出限度額及び受給開始年齢の上限引上げについて、2024年中に結論を得るとともに、手続の簡素化など加入者・受給者の負担軽減に取り組む。

(参考)財政検証とは

公的年金の「財政検証」とは公的年金の「財政の現況及び見通しの作成」(国民年金法4条の3)を行い、年金財政の健全性を検証することです。現在はマクロ経済スライドにより物価や賃金等に応じて給付額が自動調整されますが、5年以内に実施される次の財政検証までに所得代替率(2024年度は61.2%)が5割を下回ると見込まれる場合には、保険料の引き上げや給付の抑制等の対策が検討されます。

 国民年金法第四条の三(財政の現況及び見通しの作成)

政府は、少なくとも五年ごとに、保険料及び国庫負担の額並びにこの法律による給付に要する費用の額その他の国民年金事業の財政に係る収支についてその現況及び財政均衡期間における見通し(以下「財政の現況及び見通し」という。)を作成しなければならない。

2 前項の財政均衡期間(第十六条の二第一項において「財政均衡期間」という。)は、財政の現況及び見通しが作成される年以降おおむね百年間とする。

3 政府は、第一項の規定により財政の現況及び見通しを作成したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。

所得代替率とは

所得代替率とはモデル世帯(夫は厚生年金に40年加入し妻はずっと専業主婦)における標準的な老齢年金の額の現役世代(男性)の平均賃金に対する比率を指します。2024年度の所得代替率は61.2%です。

(夫婦2人の基礎年金13.4万円 + 夫の厚生年金9.2万円)÷ 現役男子の平均手取り収入額37.0万円 = 61.2%

(参考)
2019年度の所得代替率
=(夫婦2人の基礎年金13.0万円 + 夫の厚生年金9.0万円)÷ 現役男子の平均手取り収入額35.7万円 = 61.7%

(注)モデル世帯と自身の世帯との違いによる所得代替率の違いには注意が必要です。特に第1号被保険者は所得代替率が大幅に低くなります。