【令和6年】「社会保障審議会企業年金 ・個人年金部会における議論の中間整理」の公表と部会におけるDC改正の議論(第19回~第34回)

社会保障審議会企業年金 ・個人年金部会における議論の中間整理

社会保障審議会企業年金・個人年金部会は令和6年3月28日に「社会保障審議会企業年金 ・個人年金部会における議論の中間整理」を公表しました。
この中間整理では令和4年11月再開後の部会の議論が次の3つの視点から整理されており、部会における意見を抜粋し整理した内容が紹介されています。今後はこの中間整理で取り上げられた内容について更に議論がなされる見込みです。
(中間整理公表後の第34回部会では視点3のうち「企業年金の加入者のための運用の見える化」について議論されました。)

視点1国民の様々な働き方やライフコースの選択に対応し、公平かつ中立的に豊かな老後生活の実現を支援することができる私的年金制度の構築
視点2私的年金制度導入・利用の阻害要因を除去し、より多くの国民が私的年金制度を活用することができる環境整備
視点3制度の運営状況を検証・見直し、国民の資産形成を促進するための環境整備

視点1.公平かつ中立的な制度(多様性への対応)

① 拠出の上下限

iDeCoの拠出上限額〇 引き上げるべき
 (例)5.5万円-事業主拠出額
▲ 水準は慎重に検討すべき
iDeCoの拠出下限額〇 (5千円から)引き下げるべき
企業型DCの拠出上限額〇 5.5万円の算定式を見直すべき
穴埋め型〇 高所得者層への税制優遇の偏りを是正
● 事業主掛金・DB掛金への適用は不適当
生涯拠出枠〇 若年期の未使用枠の繰り越しは有効
マッチング拠出(企業型DC)〇 事業主掛金「超」を可能に
● 上記規制緩和には懸念あり
 (企業の拠出額引き上げへの悪影響等)

② iDeCoの加入上限年齢・受給開始可能年齢
(政府の「資産所得倍増プラン」については次章参照)

加入上限年齢(公的年金との関係)△ 今後も「公的年金の上乗せ」であるべき
△ 「上乗せ」の解釈は議論が必要
  ・国民年金の保険料納付済期間が最長の場合
  ・国民年金を受給中の場合
受給開始可能年齢▲ 現在でも高齢期における手続が困難
▲  更に引き上げた場合の実務上の課題

③ その他

年金受給促進〇 税・事務負担・コスト等の見直し
▲ 一時金受給は「悪」ではない
特別法人税△ 課税停止措置が解除された際の影響

視点2.制度導入・利用の阻害要因の除去(制度の普及促進)

私的年金の普及拡大△ 広報・周知・事務簡素化等
中小事業主掛金納付制度(iDeCo+)〇 事業主掛金の拠出限度額の外枠化
〇 従業員 300 人未満という要件の緩和
▲ 300人以上の企業が負うべき責任
△ 中立的な立場で相談できる場
簡易型DC▲ 利用実績がない
▲ 「従業員全員を対象」という要件が普及の妨げ
● 廃止しては
手続の簡素化△ iDeCoの手続の簡素化・効率化の推進が重要 
中途引き出し〇 対象範囲を広げるべき(DC)
● DC との整合性だけで制限すべきではない(DB)
ポータビリティー〇 中退共や退職一時金も枠組みに入れるべき

視点3. 制度の運営状況の検証・見直し(資産形成促進)

見える化の充実〇 退職時の手続きや受給時に関する情報開示の充実
▲ 他社比較の要否・是非の整理
〇 拠出や給付の見える化
〇 公的年金等(日本年金機構等)との連携
DB・DC のガバナンス強化〇 加入者などの意思を尊重した運営
〇 ガイドライン等の周知
選択制 DB・DC● 公的年金の給付額減少等の説明
● DC通知の説明義務をDB通知にも
● 事業主の負担軽減が主たる動機のケースへの懸念
DCの商品選定〇 ユニバースの検索・比較を容易に
〇 アクティブ商品の運用の検証・公表
〇 運営管理機関の選定商品の手数料
〇 事業主への加入者データ等の提供規制の緩和
その他〇  DCの更なる見える化(厚労省・運営管理機関)
〇 投資教育の内容・手段・未実施企業への対応
△ 指定運用方法設定義務化の是非
〇 自動移換者対策(説明・手数料・デフォルトiDeCo)

 

(参考)iDeCo改革に係る政府の検討状況

「新しい資本主義」と「資産所得倍増プラン」

令和4年6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」「経済財政運営と改革の基本方針 2022」でも高齢者に向けたiDeCoの改革を進めることとされました。

令和4年11月28日に新しい資本主義実現会議が決定した「資産所得倍増プラン」でもiDeCo改革として以下の事項について検討が進められることとなりました「資産所得倍増プランにおけるiDeCo改革案」参照)

①iDeCo の加入可能年齢を70歳に引き上げる
②iDeCoの拠出限度額の引上げ
③iDeCoの受給開始年齢の上限(75歳)の引上げ
④iDeCoの手続きの簡素化(マイナンバーカードの活用等)
⑤助言対象をiDeCo等に絞った投資助言業の登録制度
⑥中小企業への普及支援
⑦投資未経験者への働きかけ

なお、①②③は2024年の公的年金の財政検証に併せて、所要の法制上の措置を講じるとされています。

(注1)令和4年8月31日に公表された「令和5年度厚生労働省税制改正要望」でも「新しい資本主義実現会議に設置される検討の場において議論・策定される『資産所得倍増プラン』に基づき、税制上の所要の措置を講じる」ことが要望されています。

(注2)上記は令和2年に公布された年金制度改正法「令和2年確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)改正法(年金制度改正法)の公布と施行日」参照)の附則における検討課題(iDeCoの加入要件、iDeCoの拠出限度額、iDeCoで中小事業主掛金を拠出できる中小事業主の範囲)にも対応していると考えられます。

(参考2)これまでの部会の議論(抜粋)

(注)各回の資料・議事録は厚生労働省サイト「社会保障審議会(企業年金・個人年金部会)」参照。

iDeCoの加入年齢の引上げ時に整理すべき公的年金との関係(第31回部会)

iDeCoの加入年齢の引上げ時には例えば以下のケースについて、公的年金との関係を整理することが必要とされました。

ケース検討すべき事象備考
国民年金に任意加入できない60歳以上の者のiDeCoへの加入可否保険料納付済期間等が480月を超えており、60歳以降国民被保険者になれない場合
老齢基礎年金を受給することが可能で、国民年金に任意加入していない60歳以上の者のiDeCoへの加入可否保険料納付済期間等が120月超480月未満の場合
既に老齢基礎年金の受給を開始している者のiDeCoへの加入可否老齢基礎年金の受給を開始すると、iDeCoに加入できなくなる一方で、老齢基礎年金を受給しながら厚生年金保険の被保険者となったり、企業型DC・DBに加入することは可能
60歳以降で老齢基礎年金の受給権を有していない場合や有する見込みがない場合のiDeCoへの加入可否保険料納付済期間等が120月を超えていない場合等

資産運用立国(第28回部会・第29回部会)

資産運用立国分科会の開催

「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023 改訂版」(令和5年6月16日閣議決定)において、「我が国の運用セクターを世界レベルにするため」、「具体的な政策プランを新しい資本主義実現会議の下で年内にまとめ、国内外への積極的な情報発信を含めた必要な対応を進める」とされました。これを受けて、家計金融資産等の運用を担う資産運用業及びアセットオーナーシップの改革並びに資産運用業への国内外からの新規参入及び競争の促進等を内容とする資産運用立国に関する政策プランを検討すべく、新しい資本主義実現会議の下に、資産運用立国分科会が開催されることとなりました。

分科会における議論(DC関連)

第2回分科会(令和5年10月27日)において、アセットオーナーの一つであDCについては、受益者の利益を最大化するために、運用力の向上等の改革に関して、例えば、以下などの取組を行っていくことが考えられるとされてました。

・ 運営管理機関・DC実施企業・加入者本人の各段階における適切な運用の方法の選択を支援するための取組(特に元本確保型商品のみの運用のままとなっている場合など)
・ 運営管理機関・DC実施企業が選定した運用の方法のラインナップも含めた加入者の資産形成促進に向けた開示の推進
・企業年金を含む私的年金に取り組んでいないものへの働きかけ

今後の検討における主な視点(例)(第21回部会)

① 国民の様々な働き方やライフコースの選択に対応し、公平かつ中立的に豊かな老後生活の実現を支援することができる私的年金制度の構築
(→ 加入可能要件、拠出限度額、受給方法などの拠出時・給付時の仕組み等)
② 私的年金制度導入・利用の阻害要因を除去し、より多くの国民が私的年金制度を活用することができる環境整備
(→ 制度のわかりやすさ、手続等の簡素化、企業年金等の普及促進(特に、中小企業)、周知広報等)
③ 制度の運営状況を検証・見直し、国民の資産形成を促進するための環境整備
(→ 投資教育・指定運用方法の検証、自動移換金対策、運用体制・手法の検証、従来の制度改正で提起された課題等)

(参考)関係団体の要望(第22回~第24回部会)

(要望に対する委員の意見等は第25回社会保障審議会企業年金・個人年金部会資料1「ヒアリング等における主な意見」参照)

① 拠出・加入
iDeCoの加入可能年齢を被保険者区分によらず一律70歳に
・DCへの自動加入(オプトアウト)
拠出限度額の引き上げ(単年度・未使用枠の繰越)(★)
事業主掛金を超えるマッチング拠出(★)
・他制度掛金相当額の算定式(予定利率に中立的な算定式・終身年金への優遇・一部外枠化)
・他制度掛金相当額導入時の経過措置(2.75万円)の恒久化
60歳以上の加入者区分の単純化(iDeCoの加入可能年齢引き上げ時)
iDeCoの拠出限度額区分の簡素化・合理化
・iDeCoの最低拠出額5,000円を撤廃
iDeCoプラスの対象企業の拡大(規模・企業年金実施状況)
・第3号被保険者のiDeCo拠出額の所得控除の見直し(配偶者の所得からの控除)
・いわゆる選択制DB・選択制DCへの対応 (☆)
② 運用等
特別法人税の撤廃(凍結延長)
・手数料引き下げ(※)
・指定運用方法の設定義務化
・指定運用方法の弾力化(複数商品の組み合わせ)
・元本確保型運用者個々人への働きかけ
・資産配分を本人ではなく労使で決定する制度の容認

③ 給付
・年金への課税の軽減、終身年金への課税の軽減
脱退一時金の受給要件の緩和(やむを得ない事由・ペナルティ課税)(★)
老齢給付金の受給可能年齢に係る通算加入者等期間10年要件撤廃(★)
・有期年金の支給期間の上限延長
・分割取崩額の算定方式の弾力化(保険商品の年金額と同様の算定式)
・受給開始可能年齢の安易な引き上げ回避

④ 移換
・退職一時金からの一括移換
中退共からの移換要件の緩和
・運用指図者の他の企業型DCへの資産移換
・退職時に他制度移換をデフォルト化
・退職一時金からのポータビリティー
・自動移換者削減策
・資産の現金化回避(運営管理機関変更時)(※)

⑤ その他
・事業主の個人情報利用規制の緩和
・運営管理手数料の傾向の公表
・新たな税制優遇制度(EET型・TEE型)の創設
・iDeCo諸変更手続きの簡素化
・電子的手続きの活用推進、退職所得申告書への個人番号記載不要化
・住所不明者の住所情報提供ルールの改定
・企業型DCのガバナンスの確保(運営管理機関の評価等) (☆)
・個人退職年金勘定の創設(☆)
・iDeCoの手数料の算定根拠に関する情報公開(☆)

(★)は企業型DC担当者の3割以上が要望している改正(アンケート結果)
(☆)は第25回部会で追加された検討課題(過去の部会・法令・閣議決定等における継続検討課題)
(※)は法令ではなく関係機関への要望

開催状況

(注)資料・議事録は厚生労働省サイト「社会保障審議会(企業年金・個人年金部会)」参照。

テーマ開催日
19(1)私的年金制度(企業年金・個人年金)の現状等について
(2)私的年金制度(企業年金・個人年金)の今後の課題について
令和4年11月14日
20(1)資産所得倍増プラン等について
(2)その他
令和4年12月7日
21(1)私的年金制度(企業年金・個人年金)に関する今後の検討における主な視点
(2)有識者からのヒアリング
令和5年4月12日
22

24
関係団体からのヒアリング令和5年5月17日
令和5年6月12日
令和5年6月28日
25(1) ヒアリング等における主な意見について
(2)「経済財政運営と改革の基本方針2023」等について
令和5年7月24日
26働き方・ライフコースに対応し公平で中立的な私的年金制度の構築について
・拠出限度額について
・iDeCoの加入年齢の引上げ・受給開始可能年齢の引上げについて
・受給のあり方について
・その他(私的年金に係る税制・国民年金基金)
令和5年9月8日
27私的年金制度の普及・促進について
・iDeCoの手続簡素化・効率化、iDeCo+の導入推進関係
・加入促進に資するDB・企業型DCの制度見直し
・周知広報
・個人の年金状況の見える化(iDeCo拠出可能額・年金資産・給付見込額)
・ポータビリティの拡充
令和5年9月25日
28資産形成を促進するための環境整備(投資教育・運用関係見直し)について
資産運用立国について
令和5年10月17日
29加入者のための企業年金の見える化について
・DBの見える化、DCの見える化
・いわゆる選択制DB・選択制DC
・諸外国における「見える化」の動向
資産運用立国について
令和5年11月13日
30公的年金と私的年金の連携について
制度の周知、広報・年金教育について
令和5年12月11日
31・健全化法への対応について(存続基金関連)
・視点1~視点3の追加の議論(iDeCoの加入年齢の引上げ)について
・金融商品取引法等の改正及び資産運用立国について(報告)
令和6年1月29日
32・健全化法への対応について
・社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の中間整理について
令和6年2月27日
33・社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の中間整理について
・「生活設計と年金に関する世論調査」について(報告)
令和6年3月28日
34・企業年金の加入者のための運用の見える化について令和6年4月24日