企業型DCの提示運用商品や指定運用方法に係る労使協議

企業型DCの提示運用商品に係る労使協議

確定拠出年金(企業型DC)導入時

運用商品の選定提示を運営管理機関に委託する場合、運用商品の選定は確定拠出年金法令上は運営管理機関が行うとされています。このため、運営管理機関を決定するための労使協議においては、運営管理機関が提示する予定の運用商品案についても労使で評価すべきでしょう。

(注)各運営管理機関が提示している運用商品一覧が(2019年7月以降は)インターネットで公表されていますから、それを用いて比較することが考えられます。公表内容は厚生労働省サイトの運営管理機関一覧にもリンクされています(厚生労働省サイト「確定拠出年金制度」3.確定拠出年金の各種データ『運営管理機関登録業者一覧』参照)。

企業型DC導入後

上記のとおり運用商品の選定提示を運営管理機関に委託する場合は運用商品の選定は運営管理機関が行うと確定拠出年金法令上されていますが、平成30年5月の法令通知の改正において、運営管理機関と労使が定期的にその見直し(提示中の運用商品の除外や新たな運用商品の提示)について協議を行うこととされました。

提示運用商品の見直しに係る労使協議のための判断材料

確定拠出年金(企業型DC)の運営管理機関が提示している運用商品を見直す方法として、まずは運営管理機関に専門的知見から検討材料の提供を求めることが考えられます。

また上記厚生労働省サイトにリンクされている各運営管理機関の提示運用商品一覧で、企業や労働組合等自身で類似商品と手数料や運用利回り等を比較することも考えられます。運用手数料が高い場合や運用利回りが低い場合で、その差が軽微(一時的)とはいえない場合は運営管理機関に説明を求め、特段の合理的理由がなければ、商品の見直しを検討するよう要請しましょう。

(注)運営管理機関からの情報提供の内容や、労使から申し入れた運用商品見直しへの対応状況は運営管理機関の評価要素(「運営管理機関の選定と定期的評価に係る労使協議」参照)となります。

企業型DCの指定運用方法に係る労使協議

指定運用方法とは

確定拠出年金では加入者は自ら運用の指図を行うべきです。しかし加入者が運用指図を行わなかった場合でも、所定の期間が経過すれば所定の運用商品(「指定運用方法」)で運用する指図を行ったとみなすことができます。その期間や運用商品については以下の基準に従うものとし、労使合意のうえ規約に定めることが必要です。

指定運用方法の適用時期と適用対象者

指定運用方法の適用時期

次の①~③の期間が経過した後に指定運用方法で運用を開始します。②③の期間については労使合意のうえ規約に定めます。

掛金拠出(通常は加入の翌月下旬)(注1)
特定期間(①から3カ月以上)(注2)
猶予期間(②から2週間以上)

(注1)加入時に指定運用方法が提示されていない場合、提示直後の掛金拠出日
   掛金以外の入金(例えば他のDCからの移換)を①とみなすことはできません。
(注2)特定期間経過後に記録関連運営管理機関(RK)から対象者に猶予期間(③)経過後の取扱いや指定運用方法の商品情報が通知されます。

指定運用方法の適用対象者

指定運用方法の提示後に掛金が拠出されないと指定運用方法は適用されません。また①~③の間に加入者でなくなった場合も指定運用方法は適用されません指定運用方法の適用対象者に係る課題は一番下に記載)
また加入日が平成30年5月(法改正)より前の場合、本人が運用指図を行っていなくても、企業型DC規約に基づき運用指図を行ったとみなされることが一般的です。この場合、原則として(注)指定運用方法の適用対象とはなりません。
(注)運用商品が除外された場合については、法令通知上明確ではない部分もあるた
め運営管理機関等にご確認ください

指定運用方法の決定に係る労使協議

指定運用方法の決定において、運営管理機関と労使は次のように関与します。

(注)運営管理機関に選定業務を委託せず会社が自ら指定運用方法を決定することもできます

事業主から運営管理機関への情報提供

運営管理機関からの要請を受けて、事業主は選定に必要な情報(加入者集団の属性等)を運営管理機関に提供します。

運営管理機関による候補商品の選定

運営管理機関は指定運用方法の候補及びその理由を会社に示します。また労使が協議しやすいよう、運用方針や手数料控除後の収益の見込み等のリスク・リターン特性をわかりやすく提供します。

労使協議

運営管理機関から示された候補商品を採用すべきかどうか労使で協議します。従業員側は厚生年金保険の被保険者の過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数代表者)が協議に参加することが必要です。厚生労働省が定めた指定運用方法の決定基準は後述するものとし、ここでは全体の流れを説明するために私見でざっくりとポイントを示します。

協議の最初のポイントは、元本確保商品か否かでしょう。元本確保商品の場合は利息分だけ資産が増えるため、入院等で運用指図ができない加入者のためには、指定運用方法を設定しないよりも望ましいでしょう。
(注)先行して設定している企業の多くが元本確保型を採用しているようです(企業年金連合会サイト「確定拠出年金に関する実態調査」参照)。

一方、物価や元本確保型商品以上の収益を目指す場合は、投資信託となることが一般的でしょう。株式を投資先に含む投資信託は、長期保有するほど元本確保型商品よりも高い利回りとなる可能性が高まると言われています。
(注)親会社や他の会社と共同で企業型DCを実施している場合、会社毎に協議が必要です。ただし、実務上会社毎に異なる方針で運営できるのかは、あらかじめ運営管理機関に確認しておきましょう。

運営管理機関による決定

運営管理機関は労使協議の結果を尊重することとされています。運営管理機関と労使で協議しどうしても意見が合わない場合は、指定運用方法の選定業務を運営管理機関に委託しない旨規約に定めたうえで労使の案を採用することができます。

指定運用方法の選定基準(法令通知)

確定拠出年金法23条の2において、指定運用方法は(高齢期における所得の確保のために)「長期的な観点から、物価その他の経済事情の変動により生ずる損失に備え、収益の確保を図るためのもの」でなければならないとされています。具体的には省令通知で次の4つの基準を満たす商品を、元本確保型から分散投資型までの様々な選択肢の中から、選定することが求められています。

損失可能性が許容範囲内

 運用の方法に係る物価、外国為替相場、金利その他経済事情の変動に伴う資産価格の変動による損失の可能性について、実施事業所に使用される企業型年金加入者の集団の属性等(※)に照らして、許容される範囲内であることとされています。
※ 加入者の年齢別構成、退職までの平均勤続年数、金融商品への理解度、加入者のニーズ、想定利回りや掛金額等退職給付における位置づけ 等。

必要な収益の確保

当該運用の方法による運用から生ずると見込まれる収益(手数料等控除後)(※)について、当該集団に必要とされる水準が確保されると見込まれること。 
※ 期待収益率やインフレリスクに対応し実質的に購買力を維持できる可能性等。

損失可能性と収益見込みの関係

上記の損失の可能性が、上記の見込まれる収益に照らして(※)合理的と認められる範囲内のものであること。
※ 価格の変動の大きさ、運用結果が拠出した掛金の合計額を上回る可能(確実)性、分散投資効果 等。

手数料と収益見込みの関係

当該運用の方法に係る手数料等が上記の収益見込に照らし、過大でないこと。
信託財産留保額が発生する投資信託や、解約控除等が発生する保険商品等は、当該手数料の水準等によって、他の運用の方法への運用指図の変更の妨げになる可能性があることにも留意すること。

指定運用方法決定に伴う黙示の推奨効果

指定運用方法は、運用指図を行った(またはそうみなされた)加入者等には適用されません。しかし、指定運用方法として選定提示された商品(特に元本確保型以外)は、その長所が選定理由として説明されることで黙示の推奨効果が生じるものと予想されますので、選定理由の記載にも注意を払いましょう。
(注)特定商品の推奨行為は禁止されていますが、指定運用方法の選定理由の説明はそれには該当しないとされています。

指定運用方法の見直しに係る労使協議

一度採用された指定運用方法であっても、時の経過により更に優れた商品が現れた場合や、指定運用方法が適用される加入者の傾向が当初の見込みと異なる場合は、指定運用方法の見直しについて検討しましょう。

指定運用方法変更のタイミング

運用指図を行っていない加入者の場合、特定期間と猶予期間の大部分が経過していたとしても、指定運用方法が変更(提示)されると、特定期間と猶予期間を0ヵ月から再度積み上げることが必要とされています厚生労働省サイト「確定拠出年金制度」確定拠出年金Q&ANo.135-6参照)。特定期間や猶予期間経過中の加入者があまり不利益を被らないよう、必要に応じて変更手続きや変更のタイミング等について会社や運営管理機関に配慮を求めましょう。

Q.指定運用方法を変更する場合、変更前の特定期間中、猶予期間中の加入者には、変更前の指定運用方法を適用するのか。
A(抜粋).猶予期間経過前の加入者には変更後の指定運用方法が適用されるが、再度、特定期間、猶予期間を経過する必要 がある。 

指定運用方法の適用対象者に係る課題

運用指図者への適用

現在の要件では、猶予期間経過時に運用指図者であれば、指定運用方法が適用されないこととなります(厚生労働省サイト「確定拠出年金制度」確定拠出年金Q&ANo.148-3)。

Q.指定運用方法は運用指図者に適用されるか。
A.運用指図者には適用されない。なお、猶予期間が経過する前に 加入者でなくなった者には適用されない。

しかし例えば自ら運用指図を行っていた場合でも、高齢や障害により運用指図者となり、自ら運用指図を行うことが難しい状況で指図していた運用商品が除外されるケースも想定されます。今後インフレになった場合には「未指図の運用指図者の資産の実質価値の低下を緩和できる仕組みが必要」という声が高まるのではないでしょうか。

 

猶予期間経過前の加入者への適用

運用指図を行っていない加入者についても現在の要件では特定期間及び猶予期間が経過するまで運用益は得られませんが、今後インフレになり預金金利が上昇した場合等は、見直しを求める声が高まるかもしれません。