老後の資産形成についての議論(平成30年第19回税制調査会)

【記事公表後の動向】
これらの議論を経て、令和元年9月26日に税制調査会は答申をとりまとめました「政府税制調査会答申『経済社会の構造変化を踏まえた令和時代の税制のあり方』」参照)

第19回税制調査会の開催

平成30年10月23日の第19回税制調査会で老後の資産形成について議論されました。森戸教授からのご報告内閣府サイト「第19回 税制調査会(2018年10月23日)資料一覧」参照)は今後の制度改正の検討に影響を与えるものと思われます。

1.「企業年金」から「引退後所得保障」へ

・マクロ経済スライド等により今後は公的年金に頼れない。
・それを補うはずの企業年金もカバー率が低下。
・このため個人による引退後所得保証が重要に。

2.「積み上げ型」から「穴埋め型」へ

・日本の年金制度は三階建(国民年金・厚生年金・企業年金)と言われる。
・しかし就労形態により階数や三階の高さは異なる。
・老後に必要な資金は就労形態によらず共通でその枠をどう埋めるかが問題。
・低所得者には国が支援して埋めるのも一案。

3.「個人型DC」から「日本版IRA」「国民退職所得勘定」へ

・個人型DC(iDeCo)は「穴埋め型」を担う制度にすべきでは。
・税制はEET(exempt-exempt-taxed:拠出時運用時非課税-給付時課税)。
・会社員は「会社員の共通枠-DB・DCの会社拠出掛金相当」が非課税拠出枠。
・若い頃の未拠出枠を繰り越して後で拠出しても可。
・退職金も未拠出枠内であれば非課税で投入可能。
・ただし退職金や確定給付企業年金が非会税枠を超過していても、その重要性から減額や廃止につながらないようにすべき。
(注)以前の企業年金部会でも事務局から「DB+DC」での拠出限度額構想が示されたが合意に至らず(厚生労働省サイト「社会保障審議会企業年金部会における議論の整理」(平成27年1月20日)参照)。

(注)EETを対象としたためNISA、財形年金貯蓄、個人年金保険等は対象外となっています。いずれも厚生労働省年金局が所管しない制度であり、現実的な着地点を見つけやすいように整理されたのかもしれません。
 
退職金をこの枠組みに組み込んだのは、一時金優遇(税・社会保険等)の現状が見直されることを見据えたのかもしれません。ただし一時金優遇の見直しは多くの企業の反発が予想されるため柔軟な対応が必要となるかもしれません。また中退共や特退共の取扱いも注目されます。 

4.上乗せからつなぎへ

・引退前所得の5割は公的年金で確定給付企業年金(DB)とDCで2割が法のイメージか。
・公的年金を補う制度なら通常は終身年金であるべきだが実態はDB・DCとも一時金受給を選択(年金も有期)。
・終身年金は原資が少額だと事務費が割高。また長寿リスク(に伴う経営リスク)はDB実施企業も保険商品として販売する生保も負いたくないのでは。
・このため長寿リスクは公的年金でカバー(額は繰り下げで調整)し、私的年金はつなぎ年金とすることも検討すべき。

委員の意見

確定拠出年金(DC)について

・個人型DC(iDeCo)は拠出限度額まで拠出する者も多く拠出限度額の引き上げを検討すべき。
・資格喪失年齢は60歳から引き上げるべき。
・日本版IRAの税制はEETであるべき。

退職所得について

・退職所得の勤続20年前後での格差は解消すべき。
・退職所得は年金との公平性が必要(数年にわたって所得を平準化し課税、等)

公的年金について

・専業主婦モデルでは不安要素の教育が不十分。単身者は所得代替率が低いことや基礎年金の方が額改定時のカット率が大きいことを知らせるべき。
・支給繰り下げの話は在職老齢年金で給付がカットされる者にはあてはまらない。
・中小企業の経営者は高齢まではたらくので公的年金のカットが大きい。

NISAについて

・所管省庁の違いを乗り越えてNISAとiDeCoを含む全体像を考えるべき。
・EET(iDeCo等)だけでなくTEE(NISA等)の制度も必要。
・NISAは恒久化が必要。
・NISAは年金受給世代の購入が多く年齢制限が必要では。

財形年金年金貯蓄について

・現行55歳となっている対象年齢の上限を引き上げるべき。
・現行550万円となっている利子非課税限度額の引き上げを検討すべき。
・事業主や非正規雇用への活用を促進すべき。

その他

・保険制度の価値は?