第13回社保審年金部会における脱退一時金要件の緩和案(3年⇒5年)とDCへの影響
※ 記事公開後の動向
令和2年3月3日に「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」が国会に提出され同年5月29日に成立し6月5日に公布されました(「令和2年確定拠出年金改正法案(年金制度改正法案)の国会提出」参照)。この法律には公的年金及びDCの脱退一時金要件の年数要件の変更や、DCで外国籍人材の帰国時の脱退一時金受給が反映されています(「法令改正動向【確定拠出年金関連】」参照)。
第13回社会保障審議会年金部会の開催
令和元年10月30日に第13回社会保障審議会年金部会が開催され(厚生労働省サイト「第13回社会保障審議会年金部会資料1」参照)、これまで取り上げていなかった公的年金の制度改正事項と業務運営改善事項について議論されました。今回検討された、①短期在留外国人の脱退一時金要件の緩和(3年⇒5年)、②2カ月以内の雇用契約者の厚生年金保険の適用要件の見直しについては、DCの脱退一時金要件や加入者範囲にも影響を与えるものと予想されます。
脱退一時金要件の緩和(3年⇒5年)
公的年金における脱退一時金要件
公的年金における短期在留外国人の脱退一時金要件(現行)
短期滞在の外国人の場合、加入期間を通算する社会保障協定が締結されていなければ、公的年金の加入者期間が短く公的年金の受給資格を満たさないことから、平成6年改正により「外国人脱退一時金制度」がを創設されました。支給額は「保険料の半額」と「加入月数(3年が上限)」を元に算出するイメージです(詳細は日本年金機構サイト「短期在留外国人の脱退一時金」参照)。
第13回年金部会における改正案(3年⇒5年)
第13回年金部会ではこの「3年」要件を「5年」に延長する案が示されました。これは今年施行された改正出入国管理法により、期間更新に限度のある在留資格における在留期間の上限が5年(特定技能1号)になることや、3~5年滞在する者の増加等を考慮したものです。
DCにおける脱退一時金要件
現在の脱退一時金要件(確定拠出年金法附則3条)
確定拠出年金法附則3条に規定する脱退一時金を受給できるのは、(ア)国民年金の第1号被保険者のうち保険料免除者であること、(イ)掛金の通算拠出期間が3年以下又は資産額が25万円以下であること、等の要件を満たす者です(同条の他の要件や他の条又は経過措置による脱退一時金要件については「確定拠出年金における脱退一時金の受給要件」参照)。
短期在留外国人が退職後に帰国し国民年金の被保険者でなくなった場合には、(ア)の要件を満たしていないことから通算拠出期間に関わらず同条による脱退一時金は受給できません。
社会保障審議会企業年金・個人年金部会における改正案
社会保障審議会企業年金・個人年金部会では、「中途引き出しは加入資格がなく年金資産を積み増すことができない例外的な場合に限るべき」とされており、(ア)の要件は概ねこの要件に置き換えられる見込みです。これにより、短期在留外国人が退職後に帰国した場合、(イ)の要件その他の要件を満たせば同条による脱退一時金を受給できることとなる見込みです。
更に(イ)の「3年」要件は公的年金の脱退一時金要件も考慮して決定されたことや最近の報道からみて、仮に今回公的年金の脱退一時金の年数要件が3年から5年に延長される場合には、DCの脱退一時金の年数要件も3年から5年に延長されるものと見込まれます。
2カ月以内の雇用契約者の厚生年金保険の適用要件の見直し
厚生年金保険の適用要件
現在の要件
現在は「2ヶ月以内の期間を定めて使用される者」は厚生年金保険の適用除外とされています。ただし2ヶ月以内の雇用契約であっても、これを継続反復しているような場合には「引き続き使用されるに至った場合」として適用対象としています。なお、継続反復した場合でも最初の2ヶ月は適用対象外となっています。
第13回部会における改正案
雇用保険の規定等も参考にして、仮に2ヶ月以内の雇用契約であっても、実態からみて2ヶ月を超えて使用される見込みがあると判断できる場合には、最初の2ヶ月も厚生年金保険の適用対象とする案が検討されています。
仮に適用対象となる場合、施行時期は現在検討中の適用拡大と同時となる見込みです。
DCへの影響
最初の2カ月も厚生年金保険の被保険者となった場合、企業型DC実施企業の加入対象職種であれば加入できる時期が早まります。非加入職種で代替措置支給職種であれば、原則として代替措置を支給すべき時期(退職金等であれば付与開始日)が早まります。
iDeCoについては最初の2カ月の国民年金被保険者区分及び企業年金の加入状況に応じてその期間の拠出限度額が変更となります。企業型DC加入者となる場合はその規約によってはiDeCoに加入できなくなる場合もあります。