中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)の要件・実務・課題
(記事公開後の更新情報)
令和2年10月に同一労働同一賃金ガイドラインの基本的な考え方を踏まえる旨通知に規定されることを反映しました。
令和2年3月3日に「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」が国会に提出され同年5月29日に成立し6月5日に公布されました(「令和2年確定拠出年金改正法案(年金制度改正法案)の国会提出」参照)。この法律にはiDeCoプラスの人数要件を300人に緩和する改正が含まれています。(改正は赤字で記載)
中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)とは
個人型DC(iDeCo)に従業員が掛金を拠出している場合に、会社が上乗せ拠出を行う制度が「中小事業主掛金納付制度( iDeCoプラス)」です。
中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)の要件
中小事業主掛金を拠出できる企業
中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)により中小事業主掛金を拠出できる企業は、次の条件を満たす企業に限定されます。
② 厚生年金保険の被保険者数(全事業所合計)が300名以下(※)。
※ 「100名以下」から緩和【令和2年10月施行】
iDeCoプラスで納付できる中小事業主掛金の額
iDeCoプラスを実施した場合に事業主が拠出する中小事業主掛金には次の要件があります。
② 従業員と会社の拠出額合計は個人型の拠出限度額(1カ月あたり2万3千円)以下。
③ 対象者や拠出額は職種や勤続年数で区分可。
iDeCoプラスに係る会社の手続き
中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)に係る会社の主な手続きは以下の通りです。
(注)詳しい手続きはiDeCo公式サイト「中小事業主掛金納付制度(愛称「iDeCo+」(イデコプラス))について」で解説されています。
iDeCoプラスの実施に係る届出
中小事業主掛金を拠出する場合、対象者や拠出額等を国民年金基金連合会(及び同連合会経由で地方厚生局)に届け出ます。
中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)の実施の届出前には厚生年金保険の被保険者の過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数代表者)の同意を取得することが必要です。拠出ルールを変更する場合も当該同意が必要です。
中小事業主掛金の払込
加入者掛金と中小事業主掛金は会社がまとめて払込みます(事業主払込)。
加入者掛金が月払以外の場合、中小事業主掛金の納付時期はそれとあわせます。
現況の届出(毎年)
中小事業主掛金の拠出中は、毎年国民年金基金連合会に中小事業主の資格要件に関する現況を届出る必要があります。
中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)の課題
iDeCoの拠出額に応じた会社拠出
現在のiDeCoプラスでは会社が拠出する額は定額(一律・職種別・勤続別)とされています。
従業員の拠出額に応じた会社拠出額を認めず、加入者拠出が少額でも事業主掛金を満額としていることについては合理的説明が必要でしょう。
企業型DCとの審査基準の違いの合理性
iDeCoプラスの人数要件緩和は事業主団体も要望しています。
労使双方が掛金を拠出できるDCとしてはマッチング拠出や企業型DC加入者のiDeCo加入もありますが、それらには事業主が負担に感じている規制があるのでしょう。このためこの機会に企業型DC固有の規制の妥当性についても検証されることが期待されます。
企業型DCとiDeCoにおける投資教育要件のバランス
投資教育の実態の違い
企業型DCでは事業主が投資教育の(努力)義務を負っていますが、法令通知上その内容や責任は年々重くなっており、今後も更なるガバナンス強化を推進すると説明されています。
一方でiDeCoの投資教育については、例えば平成29年度の厚生労働行政推進調査事業費補助金研究(厚生労働科学研究成果データベース閲覧システム「確定拠出年金の個人型加入者への投資教育と企業型確定拠出年金の運営管理機関モニタリングについて」参照)でも「企業型においては様々な取り組みが制度開始直後から制度運営主体である事業主を中心になされており、好事例の紹介なども行われている。一方、個人型については(中略)焦点があたることもなく、適切な方法での継続教育は顧みられていなかった。」とされています。
DC全体の普及(加入率向上)への影響
企業型DCとiDeCoで投資教育の要求水準の乖離が続く(またはガバナンス強化により広がる)場合、企業型DC(特に加入選択制の企業型DC)は廃れていくかもしれません。
現在企業型DC(加入選択制)よりもiDeCoの方が会社員のDC加入選択率が低いと思われますが、その場合企業型DCが廃れると、仮にiDeCoがあったとしても国民のDC加入率を引き下げます。
企業型DCとiDeCoの投資教育の現状を比較し、要求水準のバランスについて検討することも必要でしょう。
会社拠出を超える従業員拠出の可否(マッチング拠出との違い)
iDeCoプラスでは会社拠出額と本人拠出額の大小に係る規制はありませんが、マッチング拠出の場合には本人拠出額を会社拠出額以下とする必要があります。両制度の規制の違いについて合理的説明が必要でしょう。
企業型DCは「退職給付制度」であるため当該規制を設けているといった意見もありますが、会社員のiDeCo加入が認められたのは「企業の支援のない企業の従業員についての公平性を保つ要請」と「税制面での一貫性を主張する立場から、優遇の内容は抑制的であるべきとする強い主張」との中で判断されたものと言われており(※)、少なくとも抑制的であるべきiDeCoで認められる労使の拠出額の組み合わせは企業型DCでも認められるべきでしょう。
※ 長勢甚遠(2000)「確定拠出型年金が産ぶ声をあげるまで」
職種による不当差別要件
企業型DCもiDeCoプラスも特定の職種のみ会社が掛金を拠出することが認められています。しかし企業型DCでは非拠出職種に対する代替措置の必要性が通知等で規定されている一方、iDeCoプラスでは非拠出職種の処遇について通知等で特に規定されていませんでした。令和2年10月に同一労働同一賃金ガイドラインの基本的な考え方を踏まえる旨が規定されたことで一定の歯止めはなされたものの、企業型DCのような具体的な制約は設けられていません。
DCへの拠出選択者に対する会社の支援
iDeCoプラスはDCへの拠出を選択した従業員を会社が支援する制度であり、拠出を選択しなかった従業員に特別の措置は求められていません。一方で加入選択制の企業型DCでは非加入を選択した従業員に代替措置の支給が求められており、かつその額は基本的に同額とされています(厚生労働省サイト「確定拠出年金制度」確定拠出年金Q&A No.22)。
A.基本的に同額。
「基本的に」が現在どのように解釈されているかはわかりかねますが、企業型DCにおいても選択機会が公平に与えられていれば、DCに拠出しないことを選択した場合の代替措置を同額とする必要はないでしょう。