特別法人税率の根拠と問題点(iDeCo・企業型DC・DB)

【記事公開後の更新情報】

特別法人税の凍結期限を3年間延長する法律が令和5年3月31日に公布されたため反映しました「特別法人税の凍結期限の令和8年3月末までの3年延長(租税特別措置法の改正)」参照)

確定拠出年金・確定給付企業年金等の資産に対する課税

企業年金である確定給付企業年金(DB)や適格退職年金は、勤続期間の短い自己都合退職者は給付を受給できず、定年退職者等は多めの給付を受給できる制度が少なくありません。このため会社の拠出段階では掛金が誰の給付に充てられるか明らかではありません(拠出段階では課税対象となる個人を特定できません)。このため(※)拠出時には非課税で受給時に課税する方式を採用しています。

※ 厚生労働省資料では「拠出時において企業の経費(損金算入)とする一方、直ちに従業員に対する給与所得として課税する方式も考えられるが、拠出時においては、従業員にとっては、年金の受給権は発生しておらず、このような状況下で課税することは適当でないとの判断の下、所得税の課税を受給が確定するまで繰り延べることとしている」「代行部分を有する厚生年金基金は公的年金に準じた取扱いとなっている」とされています。また退職金から移行する制度が多かったため退職金に近い税制が求められたのかもしれません。

確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)も確定給付企業年金(DB)と同様に国民の高齢期における所得の確保に係る自主的な努力を支援する企業年金であり、税制上も確定給付企業年金(DB)と同様に拠出時には非課税で受給時に課税する方式が適用されています。ただし確定拠出年金(iDeCoや事業主掛金の事業主返還がない企業型DC)では掛金が誰の給付に充てられるかが明らかであり、拠出時課税の方式が採用できない技術的な理由はないと思われます。

確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)や確定給付企業年金(DB)、一般の適格退職年金については運用益に対しては課税されませんが、年金資産に対して特別法人税(後述)が課税されます。ただし平成11年以降特別法人税は凍結されているため、DCやDBは制度創設時から課税されたことはありません。
終身年金で給付水準が一定以下の厚生年金基金は公務員の公的年金とのバランスに配慮し課税されません(同様に特例適格退職年金も課税されませんでした)。

特別法人税とは

特別法人税創設の趣旨(税制調査会の答申)

特別法人税は昭和37年に適格退職年金が創設された際に導入されました。その際の税制調査会の答申では次のとおり説明されています。

年金について従業員の受給時まで課税しないこととするときは、企業拠出部分及び運用益部分について非課税の『たまり』ができることになる。この点で他の投資形態に対する課税とのバランス及び社内引当ての退職給与引当金の課税とのバランス等の点に注目すると、企業拠出部分と運用益部分についてなんらかの課税を行うべきことが結論として導き出される。そこで、従業員の所得としての課税は、年金受給時においてすることとし、その間の繰り延べによる利益、すなわち、税金の納付を延期するための利息に相当するものを、その年金基金に対し、特別の法人税として課税することが適当と考えた。すなわち、この延滞利子に相当するものとして、基金に対し、従業員の所得に対する平均上積実効税率及び通常の利子率を基礎とし、個人所得課税の遅延利息に相応するものとして定める一定の税率で、年々課税することとすべきである。

特別法人税率の趣旨

特別法人税の計算式は「積立金×従業員の所得に対する平均上積実効税率×利子率」(具体的数値は後述)です。これを元にその趣旨を推測してみます。
個人が拠出するNISAや財形年金貯蓄は、課税後拠出で運用時や受給時は非課税となる税制優遇があるのでTEEの課税方式(taxed-exempt-exempt)となります。拠出時非課税の制度でこれと同様に課税しようとすれば、
(a) 拠出時に課税すべきであった税を受給時に徴収する
ことに加え、
(b) (a)の納付を猶予された税額に対する運用益
も徴収することが必要となります。
この場合(a)は「税金の納付を延期」という説明そのものです。
(b)の計算式は拠出額累計×従業員の所得に対する平均上積実効税率×利子率」であり特別法人税の計算式と近いものとなります。ただし、特別法人税は積立金×従業員の所得に対する平均上積実効税率×利子率」という算定式です。

特別法人税率の計算式

特別法人税率については次の式(注)で算出します。

給与所得者の所得税の平均上積乗率12%+住民税率5%
×(日歩2銭の利子乗率7%
×(法人住民税と法人税の割合1/1.173)

この率が概ね1%であることから「1%」と決定され、これを元に地方税と地方法人税も決定されました

① 法人税法に基づく税率 :1%
② 地方税法に基づく税率 :0.129%
③ 地方法人税に基づく税率:0.044%
———————————————
  合計:1.173%

(注)1.173%と決定した時の前提であり現在は別の数値となっている部分もあります。

現在の特別法人税算定式の技術的な問題点

現在の特別法人税については、優遇すべきか否かの観点から多くの団体が撤廃要望を提出していますが、仮に現在の優遇の考え方を前提とした場合でも技術的に次の問題があると思われます。

運用実態からみて税率が過大

例えば利回りが1%以下の元本確保型商品で運用した場合、運用益を上回る課税により元本割れが起こります。また企業型DCの平均的な想定利回りで運用した場合でも運用益の半分近くが徴収されてしまいます。これは現在の計算式の「7%」が高すぎるためです。
DCの場合、本来は実際の個人毎の運用利回りを用いるべきでしょう。仮に実務上一律の運用利回りを用いる場合でも、それが過大なものとならないようにすべきでしょう。

給与への課税実態からみて低所得者への税率が過大

現在の計算式では給与の上積部分に対する所得税と住民税合計の税率が「17%」とされています。しかしこれは平均的な会社員の年収から予想される税率を上回っています「選択型DC等における節税額の試算(年収・家族構成別)」参照)。低所得者ほどその乖離は大きくなっていることから、DCで特別法人税を課税する場合には、低所得者に対し何らかの不利益解消措置が求められるものと思われます。

結局給付時には拠出時に課税すべきだった額とは別の基準で課税

特別法人税は税の延滞に対する利息として緻密に計算されているものの、受給時の課税算定式が延滞している拠出時の税とはかけ離れているため、全体としては緻密ではない印象を受けます。そうであれば、運用時は非課税として、運用による資産増加額が反映された受給額に対して課税するシンプルな仕組みも考えられるのではないでしょうか。それにより、上記のような個人の所得水準や運用利回りの違いが反映されないという課題にも応えることとなります。ただし単純な減税ではなく、老後の収入が多い人への受給時の過度の優遇の見直し等もあわせて検討すべきでしょう。

なお、受給時の課税額を退職金と同じ算定式とした場合、企業年金は運用期間中の課税がない分だけ退職金よりも税制上優遇されることとなりますが、不当差別や不利益変更、受給権保護等について退職金よりも厳しい審査を受けていることを考えると、退職金よりもある程度優遇されることにも合理性はあるように思われます。

凍結期限の延長

令和5年4月~令和8年3月

令和5年度の税制改正要望でも多くの省庁が特別法人税の撤廃(または凍結延長)を要望していましたが、令和8年3月まで3年間延長されることとなりました「特別法人税の凍結期限の令和8年3月末までの3年延長(租税特別措置法の改正)」参照)