求人票の見方(保険・厚生年金・企業年金・退職金)

求人票に記載される制度(病気やケガ・退職・老後のための制度)

ここでは求人票に記載される制度のうち、病気やケガ・退職・老後のための制度を記載します。

病気やケガ・・・労災保険・公務災害補償・健康保険

労災保険・・・会社員は原則として適用

 労災保険は労働基準法上の労働者を対象としているため、パート、アルバイト等の就業形態にかかわらず事業主との間に雇用関係があり、賃金を得ていれば対象となります。保険料は全額事業主が負担します。

 業務又は通勤により負傷した場合などは、パート、アルバイト等でも一般の労働者と同様に労災保険給付を受けることができます厚労省サイト「労災保険に関するQ&A」参照)

公務災害補償・・・会社員は原則として適用されない

 労災が適用されない公務員の場合は、国家(地方)公務員災害補償法に基づき業務災害・通勤災害ともに「公務災害」が適用されます。

健康保険・・・会社員は週20時間~30時間の勤務で適用されることが多い

健康保険については法人に勤務し勤務時間が正社員と同程度(4分の3以上)の従業員であれば原則として適用されます。

勤務先が法人でなく個人事業主の場合でも、農林漁業、サービス業などの場合を除いて、従業員が5人以上なら原則として適用されます(※)

※ 令和4年10月から【法律・会計にかかる業務を行う士業】も強制適用事業所となりました日本年金機構サイト「健康保険・厚生年金保険の適用事業所における適用業種(士業)の追加(令和4年10月施行)」参照)。

この他、上記要件に該当しない事業所が任意に適用している場合があります。

パート・アルバイトの場合で勤務時間が4分の3未満でも従業員500人(令和4年10月~100人、令和6年10月~50人)超の企業に勤務していれば、週20時間以上の勤務であれば、一定の要件(※)を満たせば適用されます。従業員が当該人数以下の場合も、労使双方が合意すれば同様の基準で適用されます。
※ 月額賃金8.8万円以上、学生以外  (注)「雇用見込1年以上」は令和4年10月削除

健康保険に加入することで「保険証」をもらうことができ、これを病院に提示すれば病院の窓口で払う額(窓口負担)が治療費の3割となります。

保険料は、事業主と労働者が折半で負担します。

失業等・・・雇用保険等

雇用保険・・・会社員は週20時間の勤務で適用されることが多い

 雇用保険は事業所規模にかかわらず次のa及びbを満たす人が適用対象となります。
 a.1週間の所定労働時間が20時間以上
 b.31日以上の雇用見込がある
ただし、季節的に一定期間のみ雇用される場合等は対象外となる場合があります厚労省サイト「被保険者について」参照)

保険料は労働者と事業主の双方が負担します。

 雇用保険の代表的な給付が「基本手当」(いわゆる失業手当・失業給付)です。基本手当は退職者が一定の受給要件を満たした場合に受給することができます。受給日数は勤続期間、年齢、離職理由によって決定しますハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」参照)。自己都合で退職した場合、基本手当の受給手続日から原則として3か月と1週間は基本手当を受給できません(詳細は厚労省サイト「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」参照)。基本手当以外にも雇用保険には就職支援・雇用継続・育児休業・介護休業等の様々な給付があります(詳細は厚労省サイト「労働者の皆様へ(雇用保険給付について)」参照)

年金・・・厚生年金・企業年金

厚生年金・・・会社員は週20時間~30時間の勤務で適用されることが多い

 厚生年金保険の適用範囲は健康保険(上記)と同様です。

 厚生年金保険の代表的な給付は高齢期の老齢年金給付で、次の2階建てです(自営業者や専業主婦は①と同様の国民年金のみです)。年金月額は原則として原則として加入期間に比例し、②は年収(上下限等を調整)にも比例します厚労省サイト「日本の公的年金は「2階建て」」参照)
 ① 老齢基礎年金
  ・・・加入40年で年金月額は約6.5万円
 ② 老齢厚生年金
  ・・・ 加入40年、年収/12が43.9万円の場合年金月額は約9.0万円

企業年金(厚生年金基金・確定拠出年金・確定給付年金)・・・実施及び水準は各社の任意

 企業年金には厚生年金基金・確定拠出年金(企業型)・確定給付企業年金があります。いずれも企業と労働組合(従業員の代表)の双方が同意した企業だけが実施しています。水準も労使で決定できますが、確定拠出年金に拠出できる額には法令上の上限があります。1つの企業がこれらの制度を併用することもできます。老後の年金支給を目的とした制度ですが、一時金で受給する者が多く、退職金の一部と位置付けている企業も少なくありません。各制度については次の退職給付制度の項で説明します。
 なお近年厚生年金基金の実施企業は急速に減少し、過去に実施していた企業でも現在はほとんど実施していません。

退職給付制度・・・実施及び水準は各社の任意

退職金

 退職金とは退職したことに基因して会社から支払われる一時金であり、原則として退職しなければ支給されません。ただし定年延長を行った企業では旧定年で退職金を支給する場合もあります。退職金を受給する場合は原則として「退職所等控除」の適用を受けることができ、一定水準(勤続40年で退職金共済や企業年金の一時金を含め2200万円)まで非課税です。
 退職金の額は求人票の記載事項となっていませんが、企業から退職金の額について説明される場合には、退職金共済や企業年金を含めた額で説明される場合と除いた額で説明される場合があるため注意しましょう。

退職金共済(中退共・特退共等)

 退職金共済とは在職中に会社が退職金共済実施団体に掛金を拠出することで、退職時に退職金共済実施団体から一時金が支給される制度です(自己負担がある場合もあります)。代表的な退職金共済の一つが中小企業退職金共済(中退共)です。いくら拠出すればいくら給付されるかはあらかじめ決められていますが、共済の財政状況等に応じて給付の上乗せがなされる場合があります中退共サイト参照)。一時金で受給する場合は原則として「退職所等控除」の適用を受けることができます。

 退職金共済を退職金の「内枠」として実施している企業もあり、その場合退職時には元の退職金から退職金共済の一時金を控除した額が会社から支給されます。企業にとっては在職中に掛金拠出により損金算入できる等のメリットが、従業員にとっては企業の倒産等の場合でも退職金共済からの一時金が確保される等のメリットがあります。

確定給付企業年金

 確定給付企業年金とは在職中に会社が金融機関(基金型は基金)に掛金を拠出することで、老後または退職時に当該金融機関や基金から年金または一時金が支給される制度です。いくら給付するかは確定給付企業年金の規約に定められており、確定給付企業年金の財政状況に応じて会社が掛金の上乗せを求められる場合があります。多くの制度では退職時に一時金で受給することが認められています。

 確定給付企業年金を退職金の「内枠」として実施している企業もあり、その場合退職時には元の退職金から確定給付企業年金の一時金(年金の場合は一時金換算額)を控除した額が会社から支給されます。企業にとっては在職中に掛金拠出により損金算入できる等のメリットが、従業員にとっては企業の倒産等の場合でも確定給付企業年金に積み立てた額の一時金が確保される等のメリットがあります。

確定拠出年金(企業型DC)

 確定拠出年金(企業型DC)とは在職中に会社が金融機関に掛金(法令上の限度額以下で労使で決定)を拠出することで、60歳以降に当該金融機関から年金または一時金が支給される制度です。いくら拠出するかは企業型DC規約で定められていますが、その掛金を何で運用するかは本人が選択し、運用成果で受給額が増減します。企業は決められた掛金を拠出すれば後で追加負担を求められることがないため、財務上のリスクが回避できることも企業にとってのメリットとなります。

 確定拠出年金(企業型DC)を純粋に退職金の「内枠」として実施している企業、即ち退職時に元の退職金から企業型DCの一時金一時金受給額そのものを控除した額を会社から支給する企業はほとんどありません。これは運用損益を結果的に会社が補填することとなり、企業型DC導入のメリットであった財務リスクの回避ができなくなるためです。
 なおそれに類似した制度設計としては、退職金から控除する一時金を計算する際に、実際の本人の運用利回りではなく、全従業員一律の想定利回りを用いる方法があります。この場合、本人の運用により受給額は元の退職金よりも多くなったり少なくなったりします。

選択型DC(選択制DC)・・・給与の説明に注意

 企業型DCの中には選択型DC(選択制DC)といって、給与を減額してその額を「会社が」拠出する制度があります。ただし、あくまで本人の選択が前提となるため、拠出を希望しなければその分給与支給時に受け取れる額が多くなります。選択型DCを採用している企業では、「基本給欄」や「手当」欄に記載した額が企業型DCを選択した場合の額かどうかに注意が必要です。

個人型DC(iDeCo)・・・対象外 

なお、確定拠出年金には個人型DC(iDeCo)と呼ばれる制度がありますが、これは個人が金融機関に掛金を拠出する制度であり、企業が実施する企業年金ではないため求人票の記載事項とはなっていません。

資産形成制度・・・実施は各社の任意

勤労者財産形成促進制度(財形制度)

 勤労者財産形成促進制度(財形制度)は、勤労者財産形成促進法に基づき、勤労者が退職後の生活の安定、住宅の取得、その他の財産形成の目的として貯蓄を行い、事業主及び国がそれを援助する制度で、財形貯蓄制度、財形持家融資制度、財形給付金・基金制度などがあります(詳しくは厚労省サイト「勤労者財産形成促進制度(財形制度)」参照)。財形の導入にあたっては労使協定の締結、社内規定の整備、金融機関との契約、給与天引き等の手続きが必要です。貯蓄額等は法令上の上限額の範囲内で本人が決定します。

NISA・・・対象外

 なお税制優遇を受けて資産を形成できるNISA・つみたてNISAは個人が金融機関と契約する制度であり、求人票の記載事項とはなっていません。