時間分散効果(積立投資の効果)とU字効果

確定拠出年金(企業型DC)における投資教育や個人型DC(iDeCo)の解説等(注1)では、投資信託による運用を説明する際に、長期投資や分散投資と共に時間分散効果(積立投資の効果)やドルコスト平均法(注2)をとりあげるケースも多いかと思いますが、偏った前提により誤った印象を与えることがないよう注意が必要です。

(注1)令和元年6月3日に公表された金融審議会報告書(「金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」の公表」参照)でも長期・積立・分散投資の有効性や金融リテラシーの向上に向けた取組みの重要性が報告されていますが、この報告書で金融リテラシーを向上させる役割が期待されている機関には適切な取組が期待されます。

(注2)「ドルコスト平均法はU字型右下がりモデルに注意(確定拠出年金の投資教育)」参照。

確定拠出年金の投資教育で偏りが疑われる説明例

例えば確定拠出年金の投資教育で、時間分散効果(積立投資の効果)の説明例として、
「バブルのピーク時(1989年)に国内株式投資信託に100万円一括投資して2017年まで運用していたら含み損が40万円出ていました(最初の青グラフ(☆)参照)が、100万円を毎年均等に分割して投資していたら約60万円の含み益です(2番目の青グラフ(☆)参照)。このように運用環境が悪い時期でも「時間分散効果(積立投資の効果)」により含み益が出やすくなります。」
といった説明を聞くと、株式による投資信託商品でも時間分散効果(積立投資の効果)により運用環境にあまり左右されずに安定した運用益が期待できるという印象を受けるのではないでしょうか。

確定拠出年金の投資教育における上記説明の懸念点  

上の説明例で株価の増減率を新しい方から古い方に並べ替えて計算しなおしてみると、株価の推移は次のようになります(赤グラフ(☆)参照)

☆ グラフが表示されない場合は「セキュリティで保護されたページのみ表示」の確認画面で非SSL(http)コンテンツの表示を許可してください。

 
 
逆に並べた場合でも、株価は最初の6割程度まで下がっているため、一括拠出時は含み損40万円のままです。
しかし年払いの場合は「時間分散効果」があるにも関わらず、含み損が60万円も生じてしまいます(下図赤グラフ参照)
 
 

「定期的かつ継続的に積立投資をする場合、積立前半の利回りよりも積立後半の利回りの影響が強く現れる」(すなわち株価がU字型だと良くなり∩字型だと悪くなる)という特徴(U字効果)がありますが、最初の説明では株価がU字型である期間を選んだことによる好結果が時間分散効果(積立投資の効果)による一般的な結果と誤認されるおそれがあります。

(注)上の図はいずれもDCセカンドオピニオン作成。株価は日経平均株価(日本経済新聞社)を使用。

確定拠出年金の投資教育で運用商品の説明に用いる運用期間の選び方

確定拠出年金の投資教育において、特定の運用商品が相対的に良く見える期間を選んで説明している場合は、厚生労働省が不適切としている「期間の恣意的な選択」「誘導」(確定拠出年金Q&ANo.261(下記))に該当するおそれがあります。会社や投資教育の委託を受けた運営管理機関等はこれに抵触しないように対応しなければいけませんが、労働組合等も加入者の正しい理解を妨げるおそれがないか注意が必要でしょう。

Q&AA261(抜粋)
選択する期間も特定の資産配分が有利となるような恣意的な選択とならないよう、また、個別の商品へ誘導とならないよう留意すること。