「社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の整理」における令和2年度DC改正案と併せて検討すべき課題

【記事公開後の動向】
下記改正案のうち法改正が必要と思われる内容は、令和2年3月3日に「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」として国会に提出され同年5月29日に成立し6月5日に公布されました(「令和2年確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)改正法案(年金制度改正法案)の国会提出」参照)。
「社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の整理」の公表
令和元年12月25日に社会保障審議会企業年金・個人年金部会は「社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の整理」を公表しました(厚生労働省サイト「社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の整理」参照)。この報告書における確定給付企業年金(DB)・確定拠出年金(DC)改正案は令和2年度のDB・DC改正案として閣議決定された政府税制改正大綱や与党税制改正大綱における改正案をより具体化したものであり、第8回・第9回部会における改正案(このページの後半に記載)に沿った内容となっています。
一方中期的な改正については、与党税制改正大綱や政府税制調査会の検討方針を全面的に支持する立場ではなさそうです(「DC・DBの中期政策における与党税制改正大綱・政府税制調査会答申と企業年金・個人年金部会報告等の比較」参照)。
社会保障審議会企業年金・個人年金部会(第10回)の開催
令和元年12月25日に第10回社会保障審議会企業年金・個人年金部会が開催され、「社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の整理(案)」について議論され了承されました(厚生労働省サイト「第10回 社会保障審議会 企業年金・個人年金部会 資料」参照)。
回 | テーマ | 開催日 |
10 | 社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の整理について | 2019年12月25日 |
9 | 制度普及に向けた改善について | 2019年11月8日 |
8 | 拠出時・給付時の仕組みについて | 2019年10月9日 |
(注)第1回以降の資料・議事録は厚生労働省サイト「社会保障審議会(企業年金・個人年金部会)」参照。第8回・第9回の解説はこのページの後半参照。
令和2年度税制改正に向けた議論
与党・政府令和2年度税制改正大綱(閣議決定)(第10回部会前)
令和元年12月12日に与党(自由民主党・公明党)は「令和2年度税制改正大綱」を公表し、それを受けて政府は12月20日に「令和2年度税制改正の大綱」を閣議決定しました(「令和2年度与党・政府税制改正大綱におけるDC・NISA改正案(閣議決定)」参照)。
今後は令和2年の通常国会に法案を提出するものと予想されます。大綱における改正案の詳細については「社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の整理」(上記)の内容が反映されるものと予想されます。
具体的な改正案
① 特別法人税の凍結期限を3年間延長(2023年3月末まで)延長
※ 現在の特別法人税の根拠は「特別法人税率の根拠と問題点」参照。
② 国民年金被保険者であればiDeCoに加入可能に
※ 60歳~65歳の厚生年金保険の被保険者等が加入可能になるものと思われます。
③ 厚生年金被保険者であれば企業型DCに加入可能に。
※ 「選択肢の追加」か「強制」かによって企業への影響は大きく異なると思われます。
④ DCの受給開始時期の選択可能な範囲を拡大。
※ 老齢給付金の請求可能年齢の上限を70歳から75歳に引き上げるものと思われます。
⑤ 企業型DC加入者は規約に規定することなくiDeCoに加入可能に。
※ 事業主掛金とiDeCoの掛金の合計額は現在の拠出限度額の枠内となる見込です。
iDeCoの拠出額はDB等加入者は月1.2万円、それ以外は2.0万円迄となる見込です。
⑥ 簡易企業型年金(簡易型DC)を実施可能な事業主の範囲を拡大。
※ 人数要件を100人から300人に緩和することが有力と思われます。
⑦ 中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)を実施可能な事業主の範囲を拡大。
※ 人数要件を100人から300人に緩和することが有力と思われます。
⑧ 終了したDBからiDeCoへの移換を可能とする。
⑨ 退職時等に企業型DCから企業年金連合会(通算企業年金)への移換を可能とする。
社会保障審議会企業年金・個人年金部会(第9回)の開催
令和元年11月8日に第9回社会保障審議会企業年金・個人年金部会が開催されました(厚生労働省サイト「第9回 社会保障審議会 企業年金・個人年金部会 資料」参照)。
企業型DC加入者は全て個人型DC(iDeCo)の加入対象に
検討案
企業型DC加入者は希望すれば全員iDeCoに加入できるようにする案が検討されています。
項目 | 現行 | 検討案 |
iDeCo加入を認めるための規約変更(会社や過半数労組等の同意) | 必要 | 不要 |
企業拠出額+本人拠出額の上限(a) | 5.5万円 (DB加入者等は2.75万円) |
|
うち企業拠出額の上限(b) | 3.5万円 (1.55万円) |
5.5万円 (2.75万円) |
本人拠出額の上限 | 2万円 (1.2万円) |
左欄の額と「(a)-事業主掛金額」の低い額 |
マッチング拠出ができる制度の企業型DC加入者のiDeCo加入 | できない | 本人がマッチング拠出をしていなければできる |
併せて検討すべき課題(※)
※「併せて検討すべき課題」は私見であり部会の方向性を記載したものではありません(以下同様)。
マッチング拠出額を事業主掛金以下とする規制の撤廃
マッチング拠出額について「事業主掛金以下」という規制が残る場合、事業主掛金が低いほどiDeCoを選ぶものと予想されますが、その場合iDeCoの手数料は自身が負担することとなるため老後資金の格差が拡大することとなります。
iDeCoには手数料負担があるため、マッチング拠出できる額がiDeCoよりも「ある程度」まで低くてもマッチング拠出の方が有利でしょう。しかしこの「ある程度」の金額を税率等を使って算出することは容易ではないため、従業員が理解することも会社が分かり易く説明することも難しいでしょう。
iDeCoやマッチング拠出額変更の「年1回」要件の撤廃
現在はiDeCoもマッチング拠出も拠出額の変更は「年1回」(拠出単位期間で1回)が要件とされています。これは「貯蓄か年金か」の議論で生れたものです。
しかしそもそも拠出規制単位の年単位化で期待された拠出限度額の有効活用は「年1回」要件を見直すことで実効性が高まるものと思われます。「穴埋め型」(「穴埋め型(全国民共通の非課税貯蓄枠)の引退後所得保障制度」参照)により年をまたいだ非課税貯蓄枠の繰越も議論されている中、この規制の見直しについて再検討すべきではないでしょうか。
中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)実施企業の人数要件を300人に緩和
検討案
中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)の人数要件を100名から300名に引き上げる案です。iDeCoプラスは平成30年5月に創設された制度で、iDeCoに掛金を拠出した従業員のために会社が上乗せで掛金を拠出できます。企業型DCの実施には消極的でも従業員の自助努力は支援したいという企業にとっては魅力ある制度でしょう。
併せて検討すべき課題
iDeCoの拠出額に応じた会社拠出
現在のiDeCoプラスでは会社が拠出する額は定額(一律・職種別・勤続別)とされています。
従業員の拠出額に応じた会社拠出額を認めず、加入者拠出が少額でも事業主掛金を満額としていることについては合理的説明が必要でしょう。
企業型DCとの審査基準の違いの合理性
iDeCoプラスと企業型DCにおける審査基準の違いには合理的説明が必要でしょう(「中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)の要件・実務・課題」参照)。
簡易企業型年金(簡易型DC)の人数要件を300人に緩和
検討案
簡易企業型年金(簡易型DC)の人数要件を100名から300名に引き上げる案です。簡易型DCは平成30年5月に創設された制度で、申請書類や業務報告書の簡素化等が認められます。
併せて検討すべき課題
特に現在の簡易型DCは職種による加入資格制限や掛金格差が禁止されており、提出書類の一部軽減程度ではほとんどの企業が見合わないと感じるでしょう。
企業規模によらない簡易なDC
通知や記事等によると、これまでの大規模な法改正の場合、実務上全規約を施行日までに変更(承認や届出)することができず、他の事由による規約変更日まで猶予されることもあったようですが、これは本来あるべき姿ではありません。
例えば法定事項で企業毎に選択の余地がない部分(規約の1階部分)は厚生労働省が作成したものをそのまま使う(企業は申請や届出は不要で従業員への周知及び閲覧対応を行えば足りる)こととすれば、現在よりも望ましい形で改正法令の施行日を迎えることができるでしょう。
企業型DCの加入者資格
同一労働同一賃金
※ 同一労働同一賃金(「パートタイム・有期雇用労働法の公布と退職金・企業年金(DC等)への同一労働同一賃金の適用」参照)は当然DCにも適用されることが改めて部会資料で示されました。
DBとDCで整合的でない点の整備
企業型DCをDBに合わせることを基本的な方針として整合性が図られます。
企業型DCから企業年金連合会への移換
検討案
企業型DCの加入者資格喪失者の資産について、希望者が企業年金連合会に移換することを認める案です。この案は企業年金連合会も要望しています。
併せて検討すべき課題
iDeCoの資産についても移換を希望する者が見込まれることから、併せて検討すべきでしょう。必要であれば企業年金連合会の会員資格も検討されるべきでしょう。
確定給付企業年金(DB)の残余財産のiDeCoへの移換
検討案
確定給付企業年金を終了(解散)した際の残余財産について、希望者がiDeCoに移換することを認める案です。
併せて検討すべき課題
残余財産の移換はiDeCoだけでなく企業型DCについても認めるべきでしょう。現在の検討案に含まれていないのは、既に確定拠出年金法54条により移換できるからかもしれません。しかし事業主が規約変更に消極的な場合や、(実務上許容される場合は)DBの終了後に退職し企業型DC実施企業に再就職した場合でも移換できることが望ましいでしょう。
(注)移換日について
現在は清算が結了した日に移換することとされていますが、早めに移換でき受託機関も実務上柔軟に対応できるよう、移換日は「残余財産の確定日から清算の結了日まで」で柔軟に設定できるようにすべきでしょう。
脱退一時金要件
検討案
外国籍人材の帰国
外国籍人材が帰国するときはDCに加入できないことから、通算拠出期間が短いこと等の要件を満たせば中途引き出しを認める案となっています。
通算拠出期間要件の延長
現在確定拠出年金法附則3条の脱退一時金受給要件では通算拠出期間は「3年」以下とされていますが、これを公的年金にあわせて「5年」に延長することが提案されています(「第13回社保審年金部会における脱退一時金要件の緩和案(3年⇒5年)とDCへの影響」参照)。
併せて検討すべき課題
平成29年の法改正前に加入し改正後に退職した海外帰国者
平成29年の法改正前にDCに加入した海外帰国者については、加入時の投資教育で説明された要件(「確定拠出年金における脱退一時金の受給要件と課題」参照)を満たしても受給できなくなっており、かつそのことに特に正当な理由があったとも思われません。特に加入選択制の企業型DCの場合、今回の改正で受給の途を開かないと、制度(国)や投資教育(DC実施企業)への信頼を損なったままとなるでしょう。対象者については①個人別管理資産額要件を撤廃または50万円以上とすること、②請求期限を法施行後一定期間設けること、③請求可能となったことを伝えること、といった措置を講ずるべきでしょう。
老齢給付金の受給も加入もできない60歳超の者
現在の加入者資格喪失年齢の引き上げ案は、60歳超で拠出も(老齢給付金の)受給もできない者を完全にはなくせない案となっていることから、それらの者が脱退一時金を受給できるようにすべきでしょう。
複雑な経過措置の終了
この他、平成29年改正前の「継続個人型年金運用指図者」に係る脱退一時金の経過措置(「確定拠出年金における脱退一時金の受給要件」参照)は長期にわたる複雑な取り扱いであり、適切に裁定することが年々難しくなるものと予想されます。このため該当者にとって不利にならない形で経過措置を終了する方法も検討すべきでしょう。
ペナルティ課税による受給の可否
税制優遇を受けるためには中途引き出しを原則禁止すべきという考えに対する代表的な反論の一つは、中途引き出し者には税制優遇分以上の納税をさせれば良いというものです。これは平成30年の規制改革推進会議でも強く求められていました(※)が、合理的な反論が示されていないように思われます。そのことでDBの中途引き出しについても禁止か現状維持かといった極端な二者択一の議論になっているのかもしれません。
※ 例えば内閣府サイト「第6回規制改革推進会議 専門チーム会合議事概要」参照。
DC関連手続きの簡素化
検討案
企業型DCの規約変更手続の簡素化
DBと同様に軽微な変更の一部は届出不要とすることや、概要書の記載項目の簡素化等が提案されています。
企業型DCに係る業務報告書の提出手続の見直し
事業主は業務報告書を毎年地方厚生(支)局に提出することとされていますが、記録関連業務において管理されている数値は記録関連運営管理機関が地方厚生(支)局に提出し、投資教育その他の実施状況(「確定拠出年金(企業型DC)の業務報告書の作成」参照)は地方厚生(支)局がヒアリング等で把握して指導にあたる案が示されました。
iDeCo関連手続きの簡素化・オンライン化
事業主が年1回、iDeCo加入従業員の企業年金の加入状況を確認する事務を簡素化する案が示されました。また国民年金第1号被保険者がiDeCoに加入する際の、障害年金の受給に係る記載や添付書類を省略する案が示されました。
また、速やかにiDeCoの加入申込みや変更をオンラインで行うこと等が要請されました。
iDeCoの手数料(国民年金基金連合会)の再計算
2016年の法改正に伴うシステム改修や、手数料を負担する加入者数の大幅増加等を受けて国民年金基金連合会の手数料を見直す必要性が指摘されました。また今後も定期的に見直すことが提案されました。
併せて検討すべき課題
企業型DCの実質的な制度変更時の審査
企業型DC規約の変更の審査のあり方を検討する際は、簡素化だけでなく、規約上の文言変更がないにも関わらず実質的に重要な変更(不利益変更や不当差別のおそれがある変更等)については審査が漏れないような仕組みを構築すべきでしょう(「確定拠出年金(企業型DC)規約の変更を伴わない引用規定の変更の審査」参照)。
手数料を意識した法令改正
今回は国民年金基金連合会の手数料に着目されていますが、それ以外の関係機関の手数料(費用対効果)も意識した法令改正が行われる必要があり、関係者と厚生労働省との連携が重要でしょう。
ガバナンスの改善
検討案
事業主の行為準則等(平成30年5月改正事項)
継続投資教育、運営管理機関等の評価、運用商品のモニタリング、運用商品提供数、商品除外手続、指定運用方法の設定などについては、施行後の実態を把握した上で、改めて議論することが提案されました。
企業年金連合会によるiDeCoの投資教育
企業年金連合会が国民年金基金連合会からの委託を受けiDeCoの投資教育を行えるようにすることが提案されました。
選択型(選択制)DC導入企業における社会保険等の説明強化
検討案
部会資料に記載された内容(全文)
企業年金の実施・変更、掛金の設定・変更等は、労使合意が原則必要となるが、いわゆる選択型DC・選択制DC(※)は、労働条件の不利益変更であるとともに社会保険・雇用保険等の給付にも影響するものであり、導入に当たって事業主はこれらの点を含めて正確な説明をすべきであることを法令解釈通知に明記することとしてはどうか。また、規約の審査を行う地方厚生(支)局は、事業主がどのような資料を用いてどのような労使協議を行ったのかを「協議の経緯を明らかにする書類」に記載させ、これらの点を確認すべきであることを厚生労働省から地方厚生(支)局に宛てた通知(審査要領)に明記し、確認の徹底を図ることとしてはどうか。
※ 「労使合意により給与等を減額した上で、当該減額部分を事業主拠出として確定拠出年金の個人別管理資産に入れるか、給与等への上乗せで受け取るかを従業員が選択するもの」と説明されています。記事等によればこのような制度の多くは部分選択を認めています。なお給与の減額を伴わずにこのような選択を認める制度もあります。
併せて検討すべき課題
掛金選択型DCの審査基準の明確化
選択型DCのうち、加入者が事業主掛金を選択できる企業型DCは、記事等で承認されている事実は伺えるものの、法令通知でその審査基準が明確にされることが期待されます(「加入者による事業主掛金の選択(DCの基準給与の選択)の課題」参照)。
掛金選択型DCの労働法上の取扱いの明確化
加入者が事業主掛金を選択できる企業型DCは、労働法上の取扱いも法令通知上明記されていないケースがあるように思われますので、取扱いが法令通知上明確にされることが期待されます(「前払退職金を選択できる事業主掛金の税・社会保険・労働法上の取扱い」参照)。
社会保障審議会企業年金・個人年金部会(第8回)の開催
令和元年10月9日に第8回社会保障審議会企業年金・個人年金部会が開催され、拠出時・給付時の仕組みについて議論されました(厚生労働省サイト「第8回 社会保障審議会 企業年金・個人年金部会 資料」参照)。
企業型DCの60歳以降の加入要件を緩和
検討案
企業型DCの加入者資格喪失年齢(上限)を撤廃
企業型DCの加入者資格喪失年齢について、現在は「60歳以上65歳以下」という要件がありますが、これを撤廃する案が検討されており、厚生年金保険の被保険者となっていれば加入できる案となっています。加入させる義務があるのか、加入させる選択肢が追加されるのかは明確ではありません。
60歳前からの同一企業継続勤務要件の撤廃
現在は60歳前から当該企業で継続して勤務していることが必要とされています(「企業型DCの加入者資格喪失年齢(60歳以降の加入可否)に係る労使協議」参照)が、この要件を撤廃することが検討されています。
併せて検討すべき課題(※)
※「併せて検討すべき課題」は私見であり部会の方向性を記載したものではありません(以下同様)。
60歳以降の新規加入(企業型DC)
就労状況の多様化を踏まえた公平で中立的な税制とするためには、60歳以降にDC実施企業に就職した従業員にも加入を認めるべきです(※1)。
しかし60歳以降の期間は通算加入者等期間に算入されないため、60歳以降に初めてDCに加入すると通算加入者等期間は0カ月となり老齢給付金を請求できません(※2)。
このため60歳以降の新規加入を認めるためには何らかの措置が必要となります。
※1 当日厚生労働省からは当該要件の緩和に否定的な発言がありました。
※2 現在の要件は「確定拠出年金における給付(老齢・障害・死亡・脱退)と税」参照。
iDeCoの加入者資格喪失年齢要件撤廃
検討案
個人型DC(iDeCo)の加入者資格喪失年齢について、現在は「60歳」という要件がありますが、これを撤廃する案が検討されているようです。ただし「国民年金の被保険者」という要件により、厚生年金保険の被保険者であれば65歳まで加入できますが、そうでなければ国民年金の任意加入者(日本年金機構サイト「任意加入制度」参照)以外は60歳以降はiDeCoに拠出できません。
併せて検討すべき課題
厚生年金保険の被保険者の70歳までの加入
厚生年金保険の被保険者について、企業型DCで70歳まで加入できるよう改正される(上記)のであれば、iDeCoでも70歳まで加入を認めることが「公平で中立的」な制度といえるでしょう。
自営業者等の60歳以降の国民年金への加入
自営業者等についても厚生年金の被保険者と同じ年齢まで加入を認めることが「公平で中立的」と考えられますが、「国民年金の被保険者」という要件により60歳以降は原則としてiDeCoに加入できなくなります。
国民年金の加入期間を65歳まで引き上げその分年金額が増えることは老後の生活に備えるうえでは有効ですが、給付財源の半分を国庫が負担することとなっているため、「財源を確保せずに改正を行うことは、 将来世代への過重なツケ回しとなるため、問題であると考えられる」(財務省サイト「令和時代の財政の在り方に関する建議(令和元年6月19日 財政制度等審議会)」参照)とされ、現状では実現の目途が立っていないものと思われます。
国民年金の給付を手厚くできないことは、「穴埋め型」の発想であれば私的年金を手厚くすべき理由となりますが、今回の案では厚生年金保険の被保険者との格差が私的年金でも拡大されることとなります。このため例えば60歳以降の期間については、国民年金の拠出にも給付にも影響しない被保険者期間としたうえで、iDeCoへの拠出を認める等、厚生年金保険の被保険者との格差を抑える案も検討すべきではないでしょうか。
60歳以降の新規加入(iDeCo)
iDeCoについても企業型DCと共に60歳以降での新規加入を認めるべきでしょう。そのためには老齢給付金受給要件の見直しが必要となります。
DCの受給開始可能年齢(上限)を75歳に引き上げ
検討案
企業型DCやiDeCoの老齢給付金の受給(開始)年齢について、現在は「60歳以上70歳以下」という要件がありますが、この70歳を引き上げる案が検討されています。公的年金でも現在同様の措置が検討されており(「経済財政運営と改革の基本方針2019」(骨太方針2019)や成長戦略実行計画等の閣議決定」参照)、引き上げ後の年齢を公的年金と揃える方向で検討されているようです。2019年財政検証のオプションB4ではこの年齢を75歳として試算しています(「2019年財政検証結果の公表(社会保障審議会年金部会)」参照)。
併せて検討すべき課題
退職所得控除の要件(収入時期や14年要件等)
DCの老齢給付金を一時金で受給した場合、所得税法上は当該給付事由が生じた日が収入すべき日となります。そして「前年以前14年内」に他の退職手当等があれば退職所得控除額の調整が必要となります(「確定拠出年金の老齢給付金に係る退職所得控除額と退職所得の収入金額の収入すべき時期」参照)。
DCの老齢給付金(一時金)の受給時期を75歳まで遅らせることが可能となった場合、所得税法上の収入時期を15年の範囲内で選択できることとなり、請求時期の調整による節税テクニックが注目されるものと予想されます。これは「公平で中立的な税制」という方向性には反するものであり、収入に応じて適切に課税する方法(※)が検討されるべきでしょう。
※ 遡及期間を伸ばさない方法としては、例えば年数規制に代えて56歳以降の給付を調整対象とする方法や、収入年度の決定方法の見直し等が考えられます。
継続検討課題(令和2年度改正案からは見送り)
拠出限度額、受給の形態の改正は見送られました。
併せて検討すべき課題(公的保険における企業年金の給付の公平な取り扱い)
企業年金の給付を年金で受給した場合、受給時に国民健康保険の被保険者となっていれば年金受給額に応じた保険料が徴収されます(※)が、一時金で受給した場合には徴収されません。公的保険における企業年金給付の取扱いに係る問題提起は当部会でなされるべきでしょう。
※ 国民健康保険料の構成要素の1つが前年の所得に応じた「所得割」です。所得割は「(総所得金額ー33万円)×保険料率」で算出され、総所得金額には「公的年金等収入金額(DCの年金受給額を含む)-公的年金等控除」が含まれます(退職所得は含まれません)。