年金部会における公的年金の75歳繰下げ可能案(年8.4%増額)と2千万円問題での活用例

※ 記事公開後の動向

令和2年3月3日に「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」が国会に提出され同年5月29日に成立し6月5日に公布されました(「令和2年確定拠出年金改正法案(年金制度改正法案)の国会提出」参照)。この法律には公的年金やDCの給付を75歳まで繰り下げて受給できるようにする改正が含まれています(令和4年4月施行予定)。

社会保障審議会年金部会(第12回)の開催

令和元年10月18日に第12回社会保障審議会年金部会が開催され、「高齢期の就労と年金受給の在り方」について議論されました厚生労働省サイト「第12回社会保障審議会年金部会」参照)

繰下げ制度の柔軟化

繰下げ受給の上限年齢の引上げ案

繰下げ受給の上限年齢を現行70歳から75歳に引き上げ、年金の受給開始時期は60歳から75歳の間で選択可能とする案が示されました。

繰上げ減額率・繰下げ増額率の設定案

何歳で年金受給を開始しても基本的に数理的に中立となるように、受給開始年齢を遅らせるほど年金額を多く設定します。その額は65歳時点の年金額を基準として、早める場合(繰上げ)は月0.4%(年4.8%)年金額を少なく、遅らせる場合(繰下げ)は月0.7%(年8.4%)年金額を多くする案が示されました。

在職定時改定の導入

老齢厚生年金の受給権を取得した後に就労した場合、現在は資格喪失時(退職時・70歳到達時)に老齢厚生年金の額を改定しています(いわゆる退職改定)が、65歳以上の者については在職中であっても毎年1回年金額を改定する案が示されました。

2000万円問題への活用例

2000万円問題とは

令和元年6月3日に金融審議会市場ワーキング・グループが公表した報告書「高齢社会における資産形成・管理」において、95歳まで生きるには公的年金以外に約2千万円の資産が必要との試算が公表されました。これに対し、そんなに準備できない、過去の「100年安心」と矛盾している、等の批判が高まり、結局金融担当相はこの報告書を受け取りませんでした「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」の公表」参照)

公的年金の繰下げによる対応

毎月の不足額のカバー

この報告書では毎月の収支は次のとおりです。

収入 20.9万円 うち公的年金19.2万円(※)
支出 26.4万円  
収支 5.5万円の不足  

※ 報告書の社会保険給付を便宜上読み替えています。

この不足額を公的年金で解消するためには、公的年金額を5.5万円(29%)引き上げることが必要となります。繰下げによる公的年金の増額が月0.7%ですから41カ月(68歳5か月迄)繰り下げると不足額がカバーされます。終身年金である公的年金で不足額をカバーすると、何歳まで生きても不足が生じないというメリットがあります。
ただし、68歳5カ月までは就労またはDC・退職金等で支出を賄うことが必要となります。

公的年金の給付水準の低下を加味する場合

先日の2019年財政検証において公的年金の所得代替率は現在の61.7%から低下する見通しが示されましたが、ケースⅠ~Ⅲでは50%は維持される見込みです(なおケースⅣ~Ⅵのように50%割れしそうな場合は対策を検討するとされています)。所得代替率が50%まで低下する分も繰下げで賄おうとすると、72歳まで繰り下げることが必要となり、それまでは就労またはDC・退職金等で支出を賄うことが必要となります。
この場合、繰下げ前の不足額5.5万円と繰下げにより受給できなくなった公的年金19.2万円の合計24.7万円の7年分の収入が必要となりますので、DC・退職金等の65歳時点の未消費額と65歳以降の給与で約2千万円必要となります。
公的年金その他の所得に対する公的保険料等を考えると、もう1年位繰り下げた方が良いかもしれません。

これはあくまで一例であり、個人毎の消費水準の違い、給与が高い場合の在職老齢年金の影響、DC・退職金の給付水準等を考慮して受給開始年齢を検討することが必要でしょう。DCで終身年金を受給できる場合、手数料と利回りのバランスによってはそれを組み込むことも考えられます。ただ、公的年金の70歳以降への繰下げには一定の潜在的ニーズはあるのではないでしょうか。なお現在の繰下げ選択者は約1%とかなり低くなっています。今回の部会でも原因分析に取り組まれましたが、その理由が気になります。

なお、繰下げを行う場合、それにより加給年金や振替加算を受給できなくならないよう、加給年金の受給対象である場合は老齢基礎年金のみ繰下げ老齢厚生年金は繰り下げない、振替加算の受給対象である場合は老齢厚生年金のみ繰下げ老齢基礎年金は繰下げない、といった受給方法も検討しましょう。